第2話 中編

4


「この箱の中って前からこんな状態でしたか?」


 段ボール箱の外のボードゲームを見ていた村尾さんを手招きして、箱の中身を見てもらう。


「この前見たときは普通に整理されてたよ。

 誰かがいたずらしたみたいだね」


 村尾さんは特に動揺も見せずにそういった。

 少しくらいは表情を変えろよと思う。

 自分の表情がこわばっているのを自覚しながら思わず問いかける。


「誰かって誰ですか?」

「わからないよ。

 さすがに」


 気が動転しすぎて意味のない質問をしてしまった。

 気を取りなおそうと頭を振る。

 しかし、冷静になろうとすればするほど混乱は深まるばかりだった。

 右腕が疼くような感覚がして、無意識に左手でさする。

 誰がなんのためにこんなことを。

 私が知る関係している人物は生沼先輩しかいないが、さすがに先輩がやったわけではないだろう。


 そもそも今日私たちが来ることを知っている人間が生沼先輩のほかにいるのだろうか。

 そう考えると先輩を狙った嫌がらせだと考えるのが妥当だろうか。

 嫌がらせだとした場合これが初めてなのか。

 一年間嫌がらせを受けながら一人の活動を続けていたとするとそれはあまりにも……、理不尽だ。

 思考が堂々巡りを始める。そんな私の様子を察してか、村尾さんが声をかけてきた。


「瀬島さん、大丈夫?

 顔色悪いけど……」


 村尾さんの声に我に返った。

 いけない、今はとにかく落ち着かないと。

 大きく息を吸い込み、吐き出す。

 それを二度ほど繰り返してから言った。


「大丈夫です」


 それからもう一度段ボール箱に向き直った。

 箱の中にはゲームの駒やカード等がぶちまけられ、混ざりあってしまっている。

 ところどころに見える手書きのカードは生沼先輩が作ったというゲームのものだろうか。

 見知らぬ人の作品が意図的に破壊されている光景。

 なぜか見覚えを感じる光景だった。

 家で自分の本が破り捨てられていたあの日を思い出す。


 先輩が戻ってくる前に片づけてしまうことも考えたが、どれがどのゲームのものかわからない私には荷が重そうだった。

 村尾さんもおそらくわからないだろう。

 とりあえずこのままにしておいて、先輩に見てもらうしかない。

 その時の反応を思うと気が重かった。

 村尾さんに声をかける。


「生沼先輩にはどう話すのがいいと思いますか?」


 しかし、その質問の答えが返ってくる前に教室の入口に人の気配がした。

 生沼先輩がやってきたのだ。


「ごめんね遅くなって。

 何かやりたいゲームでも見つけたのかな」


 生沼先輩は段ボール箱の中を見ている私たちを見て、そう声をかけてきた。

 はっきり言って気まずい。

 そもそも初対面の人と話すのさえ気が重いのに、状況がこれではどう話を切り出したものか。

 迷っていると、村尾さんが先に返答してしまった。


「これ見てもらっていいですか?」


 段ボール箱の中の惨状を指さしながら生沼先輩に尋ねる。

 いざ箱の中を見た先輩の反応は意外なものだった。

 ちょっと困ったような顔をすると、私たちに向けて謝罪するように手を合わせた。


「ごめんね。

 たまにこういうことがあるんだ。

 たぶん誰かに嫌われてるせいだと思うんだけど。

 巻き込んじゃってごめんね」


 たまにこういうことがある。

 その言葉を聞いて村尾さんと二人で黙り込んでしまった。

「たまに」という言葉の重みが、私の胸に刺さる。


 一度や二度ではない。

 繰り返されてきた嫌がらせ。

 見て見ぬふりをする周囲。

 あまりに見慣れた構図だ。

 右腕の袖を無意識に引っ張りながら、自分の立場と重ねてしまう。

 その沈黙を破るように先輩が明るい声で続けた。


「ところでそっちの子は初めましてだよね。

 私は三年の生沼 すずです。よろしく」


 その言葉で自己紹介もまだだったことを思い出す。


「瀬島文といいます。

 よろしくお願いします」


 そう名乗ると生沼先輩は微笑んで答えた。


「話は聞いてるよ。

 面白い子だって」


 面白い子というのは不本意な評価だ。

 誰が話をしたのかとなると一人しか思い当たらない。

 村尾さんを軽くにらみつけた。


 村尾さんはにらまれたところでどこ吹く風といった顔をしている。

 少しむかついたが、今はそんなことより話をさっさと箱の中身に戻すべきだ。

 箱を指さして訊く。


「それでこれはどうするんですか?」

「ああ、いいよ。

 そのままで。

 明日にでも元通りに戻しておくから。

 それより今日何をするか決めようよ。

 さいわい箱の外のゲームには手を付けられてないみたいだし」


 そういいながら段ボール箱の外に置かれているゲームを指さす。

 ぱっと見で目に映るところにおかれていたからか確かにそれらのゲームは荒らされている様子はなかった。

 しかしそういうわけにはいかないだろう。


「いや荒らされてるのを放置して、そういうわけにもいかなくないですか。

 これまでも何回かあったみたいですが、先生に言ったりとかしてないんですか」

「伝えてない。

 勝手に教室にゲームをおいてるのを黙認してもらってる状態だからね。

 問題があったことを先生に伝えたりすると、もう置かせてもらえなくなっちゃうかもしれないし、そうすると実質同好会なくなっちゃうようなものだしね」


 学校にゲームもなくて一人で同好会ですっていっても形ですら成立してないからね、と先輩は笑った。


「だからまあたぶんそうさせることが狙いの嫌がらせなんだと思うよ。

 これまでも何度かあったけど物が盗まれたこともないし、今回もたぶん大丈夫。

 だから放置しておくのが一番いいんだよ」


 先輩の言葉は筋が通っているようでいてどこか違和感があった。

 本当にそれだけだろうか。

 しかし、隠し事なら追及したところで答えてくれるとも思えない。

 とにかくこのまま放置しておくわけにもいかないだろう。


 家族のことを思い出す。

 種類は違うけれど終わりの見えない嫌がらせはよくあることだった。

 たいしたことではなくても、延々と続けられると意外と心がすり減らされるものだ。

 私のことは誰も助けてくれなかった。

 だからこそ同じような目にあっている人を見過ごすべきではないだろう。


 それにそんな嫌がらせをしている人間が何の報いも受けずにのうのうと過ごしていくことを私は許すことができない。

 この怒りは本来自分の家族に向けるべき、筋違いのものなのかもしれないけれど。


 同好会の立場が弱いから先生に相談するわけにもいかないというのなら、自分たちで犯人を見つけて直接文句をいうべきだろう。


「じゃあ先輩、最後にこの箱の中身が無事だったことを確認したのはいつでしたか?」


 唐突に話を切り替えられて先輩は戸惑ったような表情を見せた。


「えっと、昼休みだけど……。

 今日二人が来ることになってたから何やるか考えてた。

 それが何?

 まさか犯人探しでもするつもり?」


「そのつもりです。

 先生に相談できないのなら犯人を見つけて直談判するしかないでしょう」


 私の言葉を聞いた生沼先輩は一瞬驚いたような表情を浮かべた。

 しかし、すぐに笑顔に戻り、諭すように言った。


「無理だよ。

 僕は大丈夫だから、今まで通り無視してればいいよ」

「無理かどうかはやってみないとわからないじゃないですか」

「それに犯人捜ししていることが相手にばれてしまうと、瀬島さんまで何か嫌がらせをされるかもしれないよ」


「犯人は多分三年生ですよね。

 昨年度から嫌がらせがあったということは少なくとも一年生ではない。

 目をつけられたところで学年も違えば同じクラスでもないし、嫌がらせなんて言ったってできることはたかが知れてます。

 仮に何かできるとしたって相手が三年生ならどうせ一年間の辛抱です」


 むしろ私に手を出すならなにか無理をする必要がある。

 犯人の手掛かりを得るチャンスだろう。

 それに私ならば黙ってやられるつもりもない。


 生沼先輩はなおも食い下がろうとする私を困った顔で見つめていたが、やがて諦めたのか小さくため息をつくと、わかったと答えた。


「でも今日はボードゲーム同好会の体験に来てもらったんだからそっちも楽しんでいってもらいたいな。

 今わかることを整理したら今日は何かゲームをやろう。

 別に今日中に解決できるとも思ってないよね?」


「わかりました」


 先輩が無駄だと思っていることに付き合ってもらうのだから、そのくらいの譲歩は必要だろう。

 当初の目的を無視するのも良くないし。


「あと絶対に危ないことはしないこと。

 自分も巻き込まれて嫌がらせをされてもいいと思うのはやめてね。

 そんなことになったら私が死んでも死にきれない」

「……はい、わかりました。

 村尾さんもそれでいいですか?」


 一応、村尾さんにも声をかけておく。

 村尾さんは相変わらず表情一つ変えずにうなずいた。


「さっきも言ったけど、昼休みにはまだこんなことになってなかったよ。

 そのあとも放課後まで教室にはたくさん人がいたし、こんなことをする時間はなかったと思う。

 もちろん休み時間とかに私が席を外すことがなかったわけじゃないから、クラスぐるみの嫌がらせだとかいうんなら話は別だけど。

 さすがにそんなことはないと思いたいな」


 確かに休み時間といえど教室には結構な人がいる。

 あの箱の中身を荒らすのにそんなに時間はかからないと思うけれど、人目につかずに行うのは無理だろう。

 体育の授業なりで教室から移動する機会でもあれば話は別だろうけれど、先輩が言及しないということは今日はなかったのだろう。


「ということは放課後ですか?」

「うん、そうだと思う。

 私は先生に用事を頼まれて、職員室にいったから、そのあと人がいなくなったタイミングで誰かが荒らしたんじゃないかな」


 放課後か、結果論でしかないけれど、私がごねてこの教室に来るのを遅らせていなければ防げたかもしれない。

 少しだけ後悔する。


「私が教室から出た時点では帰ってない生徒は四人くらいだったかな。

 正確かは自信ないけど三人くらいが後ろのほうでおしゃべりしていて、一人はそこの席で学級新聞用の自己紹介を書いてた」


 そう言いながら一番前の席を指さす。


「学級新聞ですか?」


「うん、うちの担任が趣味で作ってるやつ。

 毎日発行してて、保護者受けは結構いいらしいよ。

 だからといってネタがないからって、毎年生徒に自己紹介を書かせるのもおかしな話だよね。

 出席番号順だから、飯島君が今日中に出すように言われてて大変そうだった。

 そんなに時間がかかるものじゃないけど、私が席を外した時点だとまだ書いてたね」


「その残っていた四人が一応怪しいと考えてもいいですね」

「そうだね。

 最後に残った人がやったっていうのが一応ありそうかな。

 でもそもそも誰もいなくなった後に誰かが入ってきた可能性もあるからね。

 ここで話していても特定できるとは思えないなあ」


 確かに先輩の言う通り、誰がやったかを特定することは容易ではないだろう。

 しかし、それでもこのまま放置しているわけにはいかない。

 他人をストレス解消の道具にする人間には反吐が出る。

 少なくとも私の近くでそんなことをする人間を放置するわけにはいかないのだ。

 とりあえず先輩の話を聞いて思いついたことを口に出した。


「先輩は最後に残った人が怪しいと思っているみたいでしたけど、後ろの人たちが箱を荒らしても、前で作業してた人は気が付かない可能性もありませんか?」

「ああ、なるほどね。

 確かにそれはあるかも。

 まあ音はなるだろうし、前の人がいつ振り向くかもわからないから、私ならあんまりやりたくはないかな」


 そのとき村尾さんが口をはさんだ。


「先輩がこういう嫌がらせを受けてるっていうことは、ほかの人は把握してるんですか?」

「どうだろう。

 知ってる人も知らない人もいるんじゃないかと思うよ」


 何人かは知ってて放置していることになるわけか。

 見たこともない先輩の同級生が少し嫌いになりそうだった。

 まあ先輩自身はそんな同級生のことは気にもしていないみたいだけど。

 村尾さんは納得するようにうなずくと、再び口を開いた。


「先輩が先生に頼まれた仕事というのはなんでしたか?」

「生徒会新聞の印刷と配布だね。

 職員室で輪転機をつかって印刷して、各クラスのポストに配ってた。

 担任が生徒会の担当なんだけど、なぜか生徒会とは全然関係ない私にもしょっちゅう用事を言いつけるんだよね」


 それはまた迷惑な。

 他人の時間を何だと思っているんだ。

 あまりその先生とは関わりたくないなと思いつつ、気になることがあったので口を挟ませてもらう。


「それを頼まれているところって、他の生徒は聞いてたんですか?」

「ホームルームの後すぐにこの教室で頼まれたし、声もそこそこ大きかったからそんなに意識しなくても聞こえてたと思うよ」


 では教室にいた人には先輩が戻ってくるまでの時間はある程度予測がついたと考えてもいいのか。

 外部犯の可能性も捨てきれないけれど、先輩が戻る時間を把握できないという点では外部犯にはリスクがあるように思う。

 ……帰った後だと思った可能性もあるか。


「嫌がらせは昨年度からですよね。

 その四人の中で昨年度から同じクラスだった人はいますか?」

「全員だね。

 知らないかもしれないけどこの高校特にクラス替えとかないんだよ」


 それは知らなかった。

 先輩は続けた。


「だから四人とも去年から一緒のクラス。

 それに去年まで嫌がらせしてた人がクラス替えで別クラスになったわけでもない。

 クラス外の人に恨みを買った覚えもないし、多分クラスの誰かが犯人だと思うけど」


 範囲が絞れるのはありがたいが、本当にそうだろうか。

 知らずに恨みを買うこともあれば、何の理由もなく嫌がらせをされることもある。

 先輩の印象は一応正しいと考えておくが、例外もありうることは意識しておいたほうがいいだろう。

 一点気になることがあった。


「クラス外の人に恨みを買った覚えはないということはクラスの人とは何かあったんですか?」


 その言葉を聞いて先輩は動揺したように見えた。

 まるで「しまった」と顔に書いてあるかのよう。

 素直に顔に出るタイプのようだ。


「余計なことを言っちゃったね。

 恨みってほどでは全然ないんだけど、教室にボードゲームを置いているのを不満に思っている子はいる。

 原口さんって言って今日後ろで話してたっていう三人のうちの一人だね」


 その人が犯人という可能性はないだろうか。

 その思考を読んだかのように先輩が付け加えた。


「ただ、不満を持たれていたといってもここまでするとは思わないな。

 普通に挨拶もするし、時々おしゃべりもする。

 そのくらいには仲がいいよ」


 なるほど。

 一応その人は他の人に比べれば怪しいかもしれない。

 ただ今のところ何かを決めつけられるよな情報はない。

 ここで先輩と話すだけで、これ以上犯人に近づくのは難しいだろう。

 最後に一応訊いておく。


「教室を出る前に何か変わったこととかありませんでしたか?」


 私の問いに対して、先輩はしばらく考え込んだあと、特に思い当たらないと答えた。


「ほかに気になることはある?

 ないならそろそろゲームを始めようか。

 せっかく来てもらったんだし、楽しんでもらわないとね」


 先輩は笑顔で言った。


 こんなことをしている場合ではないという思いはあるが、他に聞くことも思い当たらない。

 続きは明日の放課後にでも先輩の教室を訪ねて、残っていたという四人に話を聞いてみよう。

 そう思いとりあえずは先輩の勧めに従ってボードゲームをすることにした。


 とはいえ私も村尾さんもボードゲームには全然詳しくない。

 とりあえず先輩が進めてくれたゲームを遊ぶことにした。

 先輩が進めてくれたのはモノポリーだった。有名どころから遊ぶのがいいと思ったらしい。

 実際、私でも名前くらいは知っていた。

 先輩としては荒らされていたゲームの中にもっとおすすめのものがあったらしく、少し悔しそうにしていた。


 それからの時間はそれなりに楽しかった。

 先輩は初心者に優しく、最初のうちはそれぞれの場面でどのようにふるまうといいのか丁寧に教えてくれたし、その後も教えたいのを我慢しているような様子だった。

 あまり口出ししすぎると楽しめないと思って自重しているらしい。

 実際、判断に迷った際に聞いてみると嬉しそうに教えてくれた。


 村尾さんは私と同じく初心者だろうに特に先輩に質問もせず、堅実な立ち回りをしていた。

 以前来た時にもやったと話していたので、その時に一通り戦術を覚えたのかもしれない。

 優秀なことだ。


 結局ゲームは先輩がまず私を、つぎに村尾さんを破産させて終わった。


「どうだった。楽しめたかな」

「楽しくはあったんですけど、なかなか難しかったです」

「うん。

 初めてだと難しいよね」

「僕は結構面白かったですよ」


 村尾さんの感想は意外だった。

 表情一つ変えずに淡々とプレイしていたように見えたけど、意外と楽しんでいたのかもしれない。


「二人とも楽しんでくれたのならよかった。

 気が向いたら入会してくれたらうれしいし、そうでなくても気軽に遊びに来てくれていいよ。

 じゃあ、そろそろ帰りますか」


 時計を見るともう七時前だった。思ってたよりも楽しんでしまった所為か、時間が経つのが早い。

 村尾さんが荷物をまとめて立ち上がったので、私もそれにならって立ち上がる。


「今日はありがとうございました」

「いや、こちらこそ」

「また明日の放課後、嫌がらせの件について質問に伺ってもいいですか?

 残っていたという方にも質問させてもらいたいです」


 負けた言い訳ではないけれど、モノポリーの間も私の頭の中は嫌がらせの件でいっぱいだったのだ。

 明日人がいるうちに質問に来て、あわよくば今日最後まで残ってた人を特定したい。

 別にその人が犯人だと決まったわけではないけれど、重要な情報ではあるだろう。


 先輩はちょっと困ったような顔をして迷っていたが、最終的にはいいよと言ってくれた。

 予想外のことが起きたのはそのあとだった。

 村尾さんが口を開いたのだ。


「先輩、訊きたいことがあと二つだけあります。

 いいですか?」

「なにかな私に答えられることならいいんだけど」

「失礼ですが、これまでの話で嘘はついていませんよね?」


 本当に失礼な質問だった。

 村尾さんは生沼先輩が犯人だと疑っているのだろうか?

 だとしても本人に訊いても答えてくれるわけがないだろう。

 思わず先輩の顔を見るが、先輩は怒った様子もなく落ち着いた様子だ。


「もちろん嘘なんてついてないよ。

 私の自作自演を疑ってるの?」

「いえ、それはありえないと思っています。

 ではもうひとつだけ……」


 村尾さんはそう言うと一瞬こっちを見た。

 なんだろう。

 私の何を気にしているのだろうか?

 

「先輩は何か勘違いをしていませんか?」


 その質問にどんな意味があるのかわからなかった。

 ただ反応は劇的だった。

 生沼先輩は明らかに動揺しているように見えた。

 眼が泳ぎ、様子をうかがうような目で一瞬私を見る。

 それはほんの一瞬のことで、すぐに村尾さんに向き直って答えるけれど、その声も少しだけ震えているように感じた。


「勘違いって言われてもわからないよ。

 勘違いはあるかもしれないけどそれを自分でわかっていたら勘違いとは言えなくないかな」


 それはそうだ。

 村尾さんの反応もあっさりしたものだ。


「それはそうですね。

 失礼しました」


それからこちらに向き直ると言った。


「帰ろう。

 ちょっと遅くなっちゃったね」

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