第34話 黒羽温泉 五峰の湯

 洗濯と買い物が終われば黒羽温泉五峰の湯に向かった。


 ここは、田村さんの弟で、同じ会社で働いていた田村隆二さんが教えてくれたところだ。


 実家に帰ると、近隣の日帰り温泉に入りに行くそうで、ここは風呂が広く、露天風呂もあってお気に入りだそうだ。


 オレも那須高原に引っ越して、落ち着くまで毎日通っていたくらい。まあ、近いってのもあったけどな。


 建物も綺麗だし、お湯もすべすべだ。美人の湯とされているのもよくわかる。いつか湯治宿に泊まってのんびりしたいものだ。もう健康だけど。


「温泉スタンドまであるんですね」


「うちに追い焚き機能があれば買って帰りたいところだよ」


 キャンピングカーのシャワーに使いたいな~とかも思ったが、わざわざシャワーで使うのはもったいないよな。てか、近いんだから入りに来たほうがいい。十分くらいの距離なんだから。


 平日だってのにお客はそれなりにいる。案外、平日に来れる人っているもんなんだな~。


 受付で支払いを済ませ、二階へと上がる。


「上がったらあそこで落ち合うか」


 奥にある大広間を差した。


「わかったわ」


「じゃあ、また」


 二人とも日帰り温泉に慣れたようで、女風呂へ入って行った。


 ん? 前きとき、逆じゃなかったっけ? 日替わりで替わるとこだったっけ?


 まあ、替わるならどちらの風呂も楽しめるってこと。また来る楽しみが増えたよ。


 それなりにいると言ってもやはり年配の方が多い。オレたちのように若い人はいなかった。


 今日は天気もいいから空が綺麗だ。体を洗ったらそのまま露天風呂に向かうか。


「いい天気だ」


 青い空の下で入る温泉の気持ちよさよ。心が洗われるようだ。


 露天風呂にはオレ一人だけなので貸切状態。贅沢な気分になるな~。


「了さん、いますか~?」


 ん? 阿佐ヶ谷妹の声が。小学生みたいなことするな。


「いるよー!」


「本当にいた! ルーシャさん、凄い!」


 なにが? 公共施設なんだから騒いじゃいかんよ。


「気持ちいいですね~!」


「ああ。こっちは貸切状態だよ」


「こっちもでーす!」


 他の人、上がるタイミングだったのかな?


「次はあっちの山にある温泉に行きたいですね!」


 那須連邦だっけか? いい温泉がありそうだ。


「いいところ探して行こうか」


 誰か来たのでおしゃべりは止め、内湯に入って体を洗うとする。


 すっきりさっぱりしたら内湯に入り、少し曇ったガラスに映る青い空を眺めた。


 体が熱くなってきたので露天風呂に移り、ベンチに座って風に当たった。


「寝ちゃいそうだ」


 睡魔が襲って来たので水を浴びて追い払い、今日はこのくらいにしてやった。


 脱衣場で扇風機に当たりながら体を冷まし、着替えて大広間へ。二人はまだみたいなので先に儀式を済ませさせておこう。


 自動販売機でコーヒー牛乳を買う。


「いただきます」


 蓋を開けて一気に飲み干す。


 くぅー! 美味い! やっぱ風呂上がりにはコーヒー牛乳だぜ!


 儀式を済ませたら大広間へ向かい、お風呂セットの一つ、うちわを出して扇いだ。


 これがないと湯上がりはやってられないんだよな。


 なんとはなしにテレビを観ながらうちわを扇いでいると、二人が上がって来た。


「いい湯でした~」


 無邪気に笑う阿佐ヶ谷妹。ほんと、小学生みたいだよ。


「喉は潤した?」


「はい。もう上がってすぐですよ」


「ルーシャ、ビール飲む?」


 大広間には食堂が併設されているので買って食べれるのだ。このスタイルにも惚れ込んだんだよな。


「そうね。飲もうかしら。あと、ちょっと食べようかな?」


 焼き芋は温泉で溶けたようだ。


「璃子さんは?」


「あたしはまだいっかな? あ、アイス食べたいです」


「確か、下の売店で売ってたはず。三人分、お願い」


 お風呂セットで持っているサイフから千円を出して渡した。


「ルーシャ、券売機、覚えた?」


「ええ。大丈夫よ」


 じゃあ、好きなのを買ってきなとサイフを渡した。


 すぐ帰って来た阿佐ヶ谷妹から受け取ったアイスは、火照った体を優しく冷ましてくれた。


「結構眠ったのに、お風呂上がりでお腹が膨れたらなんか眠くなりますよね」


「わかる。今ならぐっすり眠れそうだ」


 さすがに今眠ったら夜眠れなくなるが、この眠気には逆らえない。座布団を二つ折りにして横になった。


「あ、あたしも」


「しょうがないわね。わたしも」


 なんて三人で横になった。


 がっつり眠ってしまい、起きたら十八時前になっていた。


「帰ろうか」


 さすがに腹が減った。


「ええ。お腹空いたわ」


 夜に来る人も結構いるようで、大広間は半分くらい埋まっていた。


「どこで食べようか?」


 国道まで出ないと店はないか?


「なんなら今からひたちなかのコス○コに向かいません? ここからなら大きい道の駅が途中にありますし」


 なるほど確かにいいかもしんないな。


 帰ってもやることはない。動くのは来週から。ゴールデンウィークがやって来る前に病院や手続きを済ませようと思っている。


「あ、明日、土曜日か」


「はい。行くんならちょうどいいと思いますよ」


「そうだな。土日ならやることないし、ちょうどいいかもな」


 月曜日まで帰って来ればいいんだし、時間はたっぷりある。んじゃ、コス○コにレッツゴーだ。


「あ、あたし運転しますよ。キャンピングカーにも慣れてきたんで」


「じゃあ、お願い。オレはどこか食べるとこ探すよ」


 阿佐ヶ谷妹に鍵を渡し、五峰の湯をあとにした。

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