第15話 *阿佐ヶ谷妹*

 ルーシャさんの両手から電気が走り、頭の中に流れて来た。


 目の奥がチカチカとして感覚が狂ってしまった。


「大丈夫?」


「……は、はい。大丈夫です……」


 ルーシャさんに支えてもらい、脱衣場の椅子に腰かけた。


「今のが魔法なんですか?」


 感覚はすぐに戻り、ルーシャさんに尋ねた。てか、綺麗な声してたのね。


「ええ、そうよ。興味本位で覚えた魔法が役に立つ人が来るとは思わなかったわ。わたしのいたところでは言葉はどこでも同じだったからね」


「魔法オタクなんですか?」


 今流行りの某エルフさんも魔法オタクだったわ。


「オタクと言うより収集家ね。わたしの世界では魔法が失われつつあるの。創生の神がギフトを与えるようになったからね」


 まさにファンタジーな世界だこと。目の前の人が本当にエルフだと痛感させてくれるわ……。


「元の世界に帰れるんですか?」


「かなりの魔力を消費するだろうけど、帰れると思うわ。まあ、まだその魔力を溜めてないから無理でしょうけどね」


 中二病とは違うマジもんの雰囲気がバシバシと伝わってくる。マジもんすぎるって!


「さあ、お風呂入りましょう。温泉は何度入っても気持ちいいわ」


 し○かちゃんか。


 服をぱっぱと脱いでいく。なかなか思いっきりがいいわね。てかあたし、誰かとお風呂なんて修学旅行以来じゃない? なんか急に恥ずかしくなってきた。まあ、そんな立派なものを持っているわけじゃございませんけど!


「わたし、温泉に入るの久しぶりです」


「そうなの? 結構、温泉に入りに来ていた人いたけど」


「近くにある人は行くかもですが、あたしは東京、人がたくさんいるところに住んでいるから温泉ってないんですよ」


 行くほどのお金もないしね。


「東京も一度見てみたいものね。わたしがいた世界より五百年は先を行っているかもって了が言ってたわ」


「そのときはあたしが案内しますよ」


 お金はないけど。


 楽しみにしていると笑い、スッポンポンになったルーシャさんは、自前のお風呂セットを持って脱衣場から浴室に向かった。堂々としすぎ。前すら隠さないわ。


「おー! なんか凄い!」


 語彙力がなくてすみません。こんな温泉らしい温泉とか小学校以来だ。テンション爆上げだ。


「ちゃんと体を洗ってからよ」


 いきなり入ろうとするあたしをルーシャさんに止められた。


「そ、そうでした。久しぶりなので忘れてまし」


 いけないいけない。うちのお風呂じゃないんだからいきなりは不味かったわ。


 ルーシャさんはシャワーで念入りに体を流し、綺麗な金髪を巻き上げ、タオルで纏めた。慣れすぎじゃない?


「この世界に来て長いんですか?」


「いえ、まだ十日くらいじゃないかしら?」


 その割には十年くらいいた貫禄がありましたよ……。


「先に入るわね」


「は、はい」


 あたしもシャワーで体を流し、髪を纏めて湯船に入った。ふひぃ~。


「温泉、最高~」


 素人のあたしでもわかる。普通のお湯と温泉のお湯の違いが。寝る前にも入りに来ようっと。


 しばらくお湯に浸かり、体が温まってきたのでお湯から上がった。


 ルーシャさんはまだお湯に浸かっている。なんかおばいちゃんみたい。


 田舎のおばいちゃんも長いこと浸かってたっけ。なんか帰りたくなっちゃったな~。お正月に帰って会いに行こう。


 十五分くらい浸かってやっとお湯から出た。


「体を洗うのはいいわね」


「お昼、入っちゃいましたしね」


 汗をかくようなこともしてないしね。


「そうね。もうすぐ夕食だし、長湯も止めておきましょう」


 そう言いながらもまたお湯に浸かってしまった。では、あたしも。


 四十分と長湯してしまったが、これでたくさん食べられる。旅館の夕食、楽しみ~。


「いい湯だったわ。寝る前にまた入りましょう」


「本当に温泉が好きなんですね」


「そうね。この世界の温泉には魔力を回復させる効果があるからつい長湯しちゃうわ」


 え? そんは効果があるの!? エルフだから?


「……初めて知りました……」


「そうなの? 了がこの世界に湯治ってのがあるって聞いたけど」


「たぶん、それは怪我とか病気を回復しようと思ってのことだと思いますよ……」


 魔力回復しに来る人がいたらびっくりだわ。


「ルーシャさん以外のエルフとか来てたりするんですかね?」


「どうだろう? でも、もしかしたらいるのかもしれないわね。どこかで会えたら嬉しいわ」


 なんかいそうな気がしてきた。わたしも会えたら嬉しいかも。


「今度、あたしの田舎にも来てくださいよ。乳頭温泉ってところがあっていいところですよ」


 小学校高学年の頃まで家族で泊まりに行ったものよ。てか、もう十年も前のことなんだ。なんか遠くへ来ちゃった感じだわ……。


「いいわね。でも、お金を稼がないといけないわね。了にばかり払わせたら悪いし」


「了さん、お金持ちじゃないんですか?」


 見ず知らずのあたしたちをタダで泊めてくれたのに。


「余命宣告を受けて仕事を辞めたみたい。それまで貯めたお金で旅をしていたみたいよ。今はわたしがあけだ薬で回復したけどね」


 なんか痩せた人だな~とは思っていたけど、病気だったからか。


「その薬があるなら売ればいいんじゃないですか?」


「法律でダメらしいわ。秘密を守ってくれる人ではないとね」


 あ、なんかそんな話聞いたことあるわ。


「それならおねーちゃんに相談してみますよ。おねーちゃんの師匠さんが病気みたいだから。その人なら内緒にしてくれると思いますよ。かなりお金を持った人みたいですから」


 有名な写真家だしね。かなりの財産は持っているはずだわ。


「じゃあ、お願いしようかしら?」


「はい。任せてください」


 もちろん、打算があってのこと。ルーシャさんや了さんとは仲良くなっておいて損はないからね。

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