第35話 聖女の力?①

『ぐぬぬぬぬ。何をしているのだ? お前が倒してどうする?』

「どういう意味だ? カイラスレーヴェン……の絵?」

『なぜそこで疑問形なのだ? 王城に我がいるのはおかしくないであろうが』

「余が倒してはいけないのか? 魔物など、若い頃より数えきれないほど倒してきたが?」

『むぅ……せっかく聖女への修行によいと思ったのだが』

「修行?」


 どういうことだ?

 なぜこいつが聖女の力を気にする?

 なぜ今さらアリア殿に修行が必要なのだ?


 

 こいつは余の改革の協力者だった。

 それゆえ、多くの情報を渡していた。


 その中で敵を見定め、戦う助力をしてくれていたが、特にアリア殿と交わるようなことはなかったはずだ。


 それがなぜ急に?


『なぜというが、我は宣言した通りのことをしたまで』

「宣言?」

『覚えておらぬのか? 『エリオットのことは親として残念だろうが、こうなってしまったのでは仕方がない。せいぜいバカを掘り起こす大活躍を期待しよう』 と言っただろう』

「その言葉に聞き覚えはあるが、それが今の状況とどうつながるのだ?」


 声だけなので竜が何を考えているのかはわからない。

 わからないが、そのトーンから特に悪びれる様子はない。

 

 というか、えーと。そういえばさっきの魔物が余のことを父と呼んでいなかっただろうか?


 もしかして……?



「さっきの魔物はもしやエリオットなのか?」

『うむ』

「「えぇ!???」」

「すっ、すぐに救助を! 急げ!」

 疑問を口にすると短く肯定する言葉が聞こえ、同時に戦いが終わったために近寄ってきていたアリア殿とアーサーが驚き、ベリオールはすぐに指示を出す。


 しかし急いで状況が変わるとは思えない。

 あのバカは遂に魔物になってしまったのか?

 それとも……。


「エスメラーダ子爵のように取り込まれたのか?」

『そうとも言えるし、違うとも言えるな』

 どういうことだ?

 エスメラーダ子爵の場合は吐き出されれば意識も正常に戻っていた。

 エリオットは違うのか?


「救出はできるのか? いや、愚問だな。そんなことを魔物相手に考える方が無駄だ。しかし、繰り返すが、なぜ余が倒してはいけないのか?」

『あれは強烈な思念が"魔力の淀み"と化し、それを纏った姿だ』

「強力な思念?」


 あの甘ったれた我がまま軟弱ボーイが?


 学院卒業に際して少しは卒業したのかと思えば、自我と自尊心と欲望だけが大きくなっていた。まさに大きな子供じゃった。


 その上、身体を鍛えることすら怠っておったから貧弱……軟弱……いや、惰弱か……。


 はっきり言ってどうしようもない愚か者じゃった。


 その程度のものの思念が"魔力の淀み"にまで昇華するとは正直言って信じられん。


 だが、事実としてあのバカ息子は余を父と呼んだまま魔物になっておったようじゃ。


 それは、半透明の黒っぽい何かから助け出される姿を見てしまえば、否定はできん。

 いや、もしかしたら誰かが成り替わったのかもしれないではないか。

 魔法で姿かたちを変えるとか……。




 ないな。

 意味がない。

 謹慎させられているものに姿を変えても見つかれば捕らえられるだけだし、いまだに維持している必要もない。


 むしろ余の攻撃によって気絶している様は、謹慎を言い渡したときに殴りつけた時と同じじゃ。

 情けない。




「父上!」

「陛下。大丈夫ですか? ヒール!」

 声だけ聴こえてくるカイラスレーヴェンと会話しながらエリオットの方を見ると、アリア殿とアーサーが寄って来た。

 そして回復魔法をくれる。うむ、暖かく心地良いのぅ。


「アリア殿ありがとう。さすが聖女の回復魔法は良く効くのぅ」

「父上。兄は……?」

「わからぬ。わからぬが、バカなことをしたものだ」

 もし魔物になったのであれば、一撃くらい余に食らわせて見よ。

 そうしないと無意味にも程があるではないか。バカが。



「それで? これがエリオット本人だとして、聖女の修行の意味はわからぬぞ?」

『ふん。簡単なことだ。聖女の力には段階がある。その段階をあげるためにちょうど良いと思っただけだ』

「段階……ですか?」


 ふむ……。

 初耳だのぅ。

 だが、段階と言われれば思い当たることがある。アリア殿が過去の聖女より上に行っているとすれば、最初の段階は”魔力の淀み"をことで、次がことなのかな?


 その次は?


『リナレスは正解だ。第一段階が"祓う"こと。第二段階が"動かす"こと。第三段階は"操る"ことだ』

「「!?」」

 声は淡々と答えを投げてくる。

 が……"操る"だと?


「操る……ですか? それは動かすのとどう違うのですか?」

 アリア殿は自らの両手を見つめながらカイラスレーヴェンの声に尋ねる。

 アリア殿の方が聖女の力には詳しいだろうし、知りたいだろうからこの場は任せよう。


『動かすのは動かすだけだ。お前が帝国軍にやったように、"魔力の淀み"を動かして集め、あとはそこから自然に何かが起こるのを待つことになる』

「なるほどです」

 アリア殿の方が冷静に大人しく聞けるしな……。


『"操る"のは"動かす"のとは効果が全く違う。"魔力の淀み"を動作させるという意味では同じだが、その後が違うのだ。通常"魔力の淀み"から何が現れるのかはわからないが、"操る"ことができればそこから現れる魔物をある程度指定できるのだからな』

「「「!?!?!?」」」

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