第12話 国王の夢

 本来学院の卒業式が執り行われる予定だった日の夜。


 

□国王リナレス2世


 広い部屋の中でただ一人。

 ぽつんと玉座に座り、高みに飾られた巨大な竜の絵を眺めておる……。


 これは我がローヴェルハーグ王国建国時の伝説。


 虐げられた民を導いたという善き竜・カイラスレーヴェン。


 大地を覆い尽くした瘴気を払いのけ、魔物どもをなぎ倒し、王国民を救い、この地の平定を助けたと言われている。


 そんな竜の雄大な姿を眺めながら、余は言い表しがたい情けなさを感じていた。

 思えば余は善き王でも、善き夫でも、善き父でもなかった……。


『そうだな……』


 心の声が漏れ出たのだとして、率直に『そうだな……』とはどういうことだ。もう少しねぎらったり、いたわったり、讃えたりしてくれてもいいんじゃないか?


『無理だな……』


 そうか……。


 余はこれでも頑張ったのじゃがな。


 なにせこの国の歴史は長い。

 無駄に……。


 建国してから千年以上が経っている。

 周辺国など、のきなみこの百年の間にできたところばかり。みんなひよっこじゃ!!!


 まぁ、我が国は征服しても旨味がないから生き残っただけだろうがな。

 誰も欲しがらんからこそ、特に軍事にも、政治にも、産出されるものにも何の特徴もない我が国が生き残り続けたわけじゃ。むしろ淀みの発生と言う欠点だけじゃ。


 周辺国からは全く食指を伸ばされない我が国の中では、長きにわたって権力闘争を続けてきた。王家と大貴族による抗争じゃな。


 もちろん、どちらが勝っても負けてもあまり酷いことをしなかったこともあって、周辺国から見たら『またやってるっぽいよ? バカじゃない?』としか思われていなかったじゃろうがの。


 しかし、中にいる者達からすればたまらない。

 長い平和な歴史と言ってもそれがいつ崩れるかなんか誰にも分らない中で、醜い同族争いの数々が繰り広げられた。


 だからこそ何人もの歴代の国王が強固な力を求めてきた。

 逆に何人もの国王が奇行を繰り返し、暗愚と言われてきた。


 その歴史は学んだ。

 

 だからこそ変えたいと思った。

 賢明な王に適切な権力が集中する状態にしたいと思った。

 一方で暗愚なるものが国王に立たないように。

 この国が自らの手で未来を掴み、自らの足で歩んで行くために。


 国王になるための厳格な決まりごとの整備。

 条件を達成していれば強き王になる、達成していなければ強き王にはなれない。

 そこに情など不要。

 

 そのためにはまずは貴族の力を削ぐ必要があった。

 が、ここの時点で躓いた。初手じゃぞ?


 だが今になって思えば当然のことじゃった。

 長い歴史の中で、余のような考えを持ったものがはじめてだとは思えない。何人もの志あるものがいたはずじゃ。だが、変えようとしたけれど変えられなかったのだろう。


 自分一人で変えようともがいても、簡単にうまくいくわけがなかった。


 親の急な病によって、余が若くして王位についてから10年。


 やはりダメかと、諦めかけたその時、変化が危険な香りを伴ってやってきた。


 やってきたのは帝国だ。


 我が国の隣国を……いや、隣国だけではなく10を超える国を数年の間に攻め滅ぼしてしまった。

 国境がいつの間にか我が国と接していた。


 もしかしたら千年の時を経て、この国に侵略してくるかもしれない。



 余の頭の中では2つの思いが渦巻いた。


 1つは当然、来てほしくないという思いだ。

 国土を焼かれ、騎士が殺され、子女が不幸になる。そんなのは嫌じゃった。


 殺すなら傲慢で悪辣で自分勝手な大貴族だけにしてほしいが、醜い貴族どもは民をけしかけつつ逃走するといったような、自らの責任を顧みない行動しかとらないだろう。


 もう1つの思いは、来てほしい、というものだった。

 10年かけて国の体制は変えられなくても、騎士団と魔導師団は味方につけ、鍛えた。


 我が国では淀みが存在し、定期的に魔物が現れることから、決して戦闘技術は低くない。

 それを活かして何度かでも帝国の先鋒を退けることができれば……。


 そうすれば自らの権威付けもできるし、今後に備えて権力を集める第一歩を踏み出すこともできるだろう。


 来い……。


『そしてやって来た帝国軍が予想外に強くて騎士団も魔導師団も蹴散らされ、辺境の砦や村が陥落し、最後は慈悲深き聖女様が自己嫌悪に陥りながらも駆使してくれた御業で奇跡的に勝ったと……滑稽だな』

「えぇいだまれ! さっきから黙って聞いていれば好き勝手なことを言いおって!!!」

『さらに図星を突かれて喚き散らすとは、国王にあるまじき所業……』

「ぐぅ……」


 なんなのじゃ、こやつは。

 余は国王じゃぞ?


 仮にその通りだったとしても、今が良ければ良いのじゃ。


『アリア殿をバカな息子のおかげで危うく失いかけたのに、反省もしないとは。嘆かわしい……』

「ぐっ……」


 その通りなのじゃが、そのきっかけは……。


『まぁいいだろう。引き続き我は協力する。と言っても、この絵の中からそんなに遠くに行くことはできないがな。せいぜい彼の聖女を手放さぬことだ。そうすれば未来は明るい。あと、バカ共に思い知らせる良い機会だ』

「もちろん、わかっている。全員、目にもの見せてくれる」

『甘い対処はせぬ方がよいぞ……』

「くっ……他人事だからと言って……」

『くっくっく。しかし、貴族派の連中は本当に自分たちの力を強化すれば帝国を恐れる必要はないなどと考えているのだろうか? バカなのかな?』

「素が出ておるぞ? 余も同じ考えではあるがな。きっと、見たいようにしか世界を見れぬのじゃろう」

『わかった。楽しみにしてる』


 そう言って消えていく……。


 全く。思考を読むなといつも言っているのに、全くやめようとはしない。


 あれは王家の守り神と言われているが、ただただ戯れている幼子と言われた方がよほど納得できる。


 千年の歴史の中でいつのまにやら現れた絵の中の住人。

 本当にカイラスレーヴェン自身なのかはわからぬが、ある国王はあれを神と言い、ある国王は悪魔と言う。


 今のところ余にとっては協力してもらったことが勝っているゆえに会話もするが、何も知らなければ遭遇すると同時に神殿に通告し、対処してもらうことだろう。


 


『エリオット王子とミラベルとか言う出自の怪しい女、魔導師団長の息子ギードと、騎士団長の息子のルーデル、それからレオメット侯爵とその息子レオンか。まだまだ小粒だな。もっとあぶり出したいところだ』


 姿を消してから言うでない……。



『エリオットのことは親として残念だろうが、こうなってしまったのでは仕方がない。せいぜいバカを掘り起こす大活躍を期待しよう』


 余が何も言わぬ背景に一切斟酌することなく、悪そうで、楽しそうな声が響く。


 もちろんそのつもりじゃとも。

 今は速度が命じゃ。関わったバカな奴らを一網打尽にするためにもまずは今表に現れているバカをぶちのめそう。


 余は王位を譲った後の平和で優雅な余生という夢を諦めておらぬゆえにな!

 

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