20xx年5月11日
アオイの意識が再び戻ったとき、目の前には真っ白な空間が広がっていた。どこまでも続く無限の白。立っているのか、浮かんでいるのかも分からない。その場にいるだけで圧迫感を感じ、呼吸が浅くなる。
周囲に何もない。しかし、彼の背後からは、耳をつんざくような音が響き渡っていた。それは、まるで歪んだ金属音のような、摩擦のような、ひび割れるような音だ。
「ここは…どこだ?」
アオイは立ち上がろうとしたが、その足元が不安定で、まるで空間そのものが揺れているように感じた。ふと見ると、白い空間の中に、かすかな影が見えた。それは、まるで霧の中に浮かぶような存在感だった。
影が近づいてくる。その動きは予想よりも速く、まるでアオイに迫ってくるようだった。だが、影が近づいた瞬間、それが完全に「消えた」。
一瞬、息を呑んだアオイは、目をこすり、再び周囲を見渡す。だが、目の前にあったのは、ただの空虚な白い空間。歪んだ音は相変わらず響き続け、アオイの心はますます不安に支配されていった。
その時、ふいに、声が聞こえた。
「君は…決して戻れない。」
その声は、キイナのものだった。だが、今までの優しさや安心感はまるでない。冷たい、無感情な声がアオイを包み込んだ。アオイは振り向いたが、キイナの姿はどこにも見当たらない。
「戻れない…?」
アオイは声を漏らした。その言葉に一瞬、何かを感じ取ったが、何も確信は持てなかった。戻れないというのは、何を意味しているのか?
「君が選んだ道…それは、もう後戻りできない。」その声は続けた。だが、どこから聞こえているのか分からない。
その瞬間、アオイの視界が一瞬にして歪んだ。白い空間の中に、急に深い暗闇が広がった。まるで何かが呑み込まれ、空間そのものが崩れかけているかのようだった。
「何だ…これは?」
アオイは思わず声を上げた。その問いに答えるように、歪んだ空間の中から、再びあの「存在」が現れた。それは、前回と同じように冷徹な目を持ち、無感情でアオイを見つめていた。
「君が選んだ道に隠された『真実』を、君は知らなければならない。」その存在は静かに語りかけた。「だが、その真実を知ることは、君にとって耐え難い試練となるだろう。」
その言葉に、アオイは再び深い恐怖を感じた。何もかもが崩れかけ、目の前で存在していたものがすべて疑わしく思える。
「君は、選ばれし者として未来を変える力を持っている。しかし、その力が暴走すれば、この世界は…」
その言葉は続かなかった。突然、アオイの周囲に無数の「扉」が現れた。だが、その扉はただの扉ではなく、全てが歪んで見えた。扉の隙間から漏れる光は不規則で、まるで異次元の入り口のように見えた。
「どの扉を選ぶかで、君の運命は決まる。」
その「存在」の言葉にアオイは答えられなかった。目の前に現れた扉の数はあまりにも多すぎて、どれを選べば良いのか、全く分からなかった。
その時、アオイの目の前に一つの扉が現れた。非常に美しく、まるでそれが他の扉とは違う「特別な扉」であるかのように感じられた。
その扉には、文字が刻まれていた。
『真実の扉』
その文字を見た瞬間、アオイは背筋が冷たくなるのを感じた。真実?自分が何を求めてきたのか、何が待ち受けているのかを考えた時、選ぶべき扉は明らかだった。
だが、その扉を開けた瞬間、アオイは再び恐怖を感じることになる。
扉が開いた先には、無数の「アオイ」が並んでいた。それぞれのアオイは、異なる表情をしていた。笑顔、泣き顔、怒り顔、そして無表情――どれもアオイの姿だが、どれもアオイではない。
その中に、アオイは自分の姿を見つけた。だが、それは…今の自分ではない。
「君は、自分の運命にどう向き合うつもりだ?」
その問いが、アオイの心を揺さぶる。無数の自分に囲まれ、彼は答えを出すことができなかった。
そして、次の瞬間――
「全てが終わる。」その「存在」の冷徹な声が響いた。
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