三段 三人の晴れ姿㊂

 月曜日の朝。忍者体験を水晶玉の中で観察していたおサキは、楓に興味を持っていた。


 「あの娘、まことのくノ一ならば、かんなぎの素質があるやもしれん」


 さくやは通学路を歩きながら「また下着を見ようとしちゃだめだよ」と冗談混じりに言った。

 校門の近くまで来ると、丁度、登校する千代の姿が見えた。


 「きゃあ!」


 千代は突風にミニスカートをめくられ、悲鳴を上げていた。こういう時、男子はチャンスを逃さない。


 「火宮のリボン付き過ぎじゃね!」


 さくやは直ぐに千代に駆け寄った。


 「えーん、見られちゃたよぉ」


 「千代ちゃんっ。これ悪霊が現れる兆候だよ」


 「え!? このHえっちな風、悪霊の仕業なの!?」


 千代が口をあんぐりさせた。


 「授業が始まる前にどうにかしないと! 行ける!?」


 「大丈夫だよ! 忍術も習得したし!」


 二人は覚悟を決めて、おサキが「あっちじゃ!」と尻尾で指し示す方向へ急行した。



 「……!?」


 その姿を部活の朝練が終わり、校舎に入ろうとしていた少女が見ていた。

 「またあの先輩達……」と思っただけだったが、二人は切羽詰まった様子で、校舎には入らず何処かへ行ってしまう。

 ミニスカートを気にしながら走る姿は、また転びそうで危なっかしく見えた。


 学校近くの住宅街にある空き地に、悪霊が出現した。頭頂部が禿げ、亀のような甲羅を背負った姿は、妖怪の河童そのものだ。

 おサキが水晶から出て叫ぶ。


 「みことを呼んでいる暇はない! 周りの住居に被害が及ぶ前に倒すのじゃ!」


 「千代ちゃん!」


 「いいよ!」


 さくやと千代は同時に唱えた。


 「巫、舞初まいぞめ―春うらら!!」


 「巫、舞初め―夏まつり!!」


 「色めく桜花! ナデシコ。参ります!!」


 「焦がれる勢炎! カグラ。ご覧あれ!!」


 二人が巫に変身すると、後を追ってきた楓が空き地に到着した。思いもしていなかった光景に、楓は胸を押さえる。


 「何……あの化け物……!? あの二人は一体……!?」


 ナデシコとカグラが河童悪霊に立ち向かう。


 「カアア!?」


 状況が分かっていない悪霊相手に先手を取る。


 「忍法綱渡り!」


 ナデシコは近くの塀に飛び乗り、バランスよく上を歩く。河童は奇妙な事をしだすナデシコに注目した。


 「忍法抜き足、差し足……忍び足……!」


 その間にカグラが背後に回った。ナデシコは勇気を振り絞り、平均台の選手のようにくるりとバック宙決め、地面に降りる。


 「今だよっ!」


 ナデシコは見えた褌を隠して着地を乱し、減点となったが、それで完全にエロ河童の注意を引いた。

 その隙にカグラが浄化技を発動させる。


 「巫、演舞―めらめらの舞!!」


 「アッ!?」


 しかし、背後で突然、燃え上がった炎に河童は驚き、直ぐに振り返る。


 「ショウカアァー!」


 頭の皿に溜まった水を流し、燃え盛るカグラの技を消し去った。


 「うそー!」

 

 驚くカグラにも水が降り掛かる。


 「きゃああああ!」


 「カグラっ! 巫、演舞っ―桜吹雪―」


 焦ったナデシコも浄化技を放とうとしたが、河童悪霊は再び振り返り、此方には手の平に溜めた水を浴びせた。

 

 「きゃあっ!」


 「何を怖がっているのじゃ! ただの水じゃ!」

 

 つい驚いて舞を止めてしまったが、確かにおサキの言う通りだった。二人は冷静になる為、印を結ぶ。


 「そうだ、浮き足立ってはだめ! 落ち着いて私……」


 「ニンニン!」


 頭が冴えた結果、体からシューシュー音を立てながら煙が立っている事に気付く。なんだか少し肌がヒリヒリする。

 

 「え!?」


 ナデシコとカグラは異変に気付いた。


 「あれ!? ふ、服がっ!?」


 「きゃああっ、なんでっ!? 溶けてる!?」


 巫の衣装が、水滴が掛かった箇所から溶け消えていく。


 「うそっ、やだぁ!!」


 「Hえっちっ! Hえっちっ!」


 パニックになる二人。着物のあちこちに穴が空き出し、袖が溶け落ちる。胸元が露わになり、限界まで短いミニスカートが、限界を突破してしまう。


 「こ、これはただの水ではないっ! 酸じゃ! ぬわあー、わしの毛もなくなるっ!」


 おサキが付近の水溜まりから、慌てて飛び退く。酸は硬い石をシューシュー溶かし、地面にぽっかり穴を空けた。


 「じゃが、大丈夫じゃ! 巫のカラダは溶かせん!」


 おサキが言うが、二人は戦闘どころではなくなった。


 「だからって、こんな格好じゃ動けないってっ!」


 「ああんっ、もうスカートなくなっちゃうっ!」


 「ばかもん! 褌一丁になろうと戦わんかー!」


 その隙に河童は水掻きのある手の平に、たっぷりの酸を溜める。


 「カッカッカッ!」


 あられもない姿の二人を見て愉快そうだ。


 「あんなに浴びせられたら、ぜ、全部なくなっちゃうっ!」


 「えーんっ、ごめんなさい! 許して下さいっ!」


 降参状態の二人。見兼ねた楓が遂に声を上げた。


 「そ、そこまで!!」


 突然、声を掛けられた河童が、空き地の入り口を見た。


 「か、楓ちゃん!?」


 「どうしてここに!?」


 ナデシコとカグラが驚く。


 「その声っ……やっぱり先輩達……っ!」


 忍術と言っていた事や、この体たらく。楓は二人の正体に勘付いていたが、それでも驚きは隠せない。


 「楓ちゃん! ここは危ないから逃げてっ!」


 「裸にされちゃうよっ!」


 「でもっ……」


 楓は更に勘付いた。


 「トレーニングしてたのって、この為ですか?」


 「うん……。簡単に言うと私達、化け物退治をしているのっ!」


 ナデシコが説明したが、楓は思わず怒りが込み上げた。


 「どう見ても退治できそうにないですよねっ!?」


 ピンチを救おうと楓は素早く辺りを見回す。


 「こっち!」


 「カア?」


 楓は河童をどうにか二人から遠ざけようと、誘導するように走り出した。しかし、河童は彼女の衣服も溶かそうと思ったのか、生身には危険極まりない酸を浴びせ掛ける。


 「危ない!!」


 ナデシコが叫んだ。

 しかし、楓は近くの木を殆ど垂直に駆け登って枝に上がると、くるりと側宙して地面に降りる。酸の水滴は塀や木に当たったが、楓を捉える事は出来ない。


 「すごい……! 本当に忍者なんだ!」


 「水玉のパンツかわいい!」

 

 「あの娘、やはり只者ではなかったわ!」  


 ナデシコ、カグラ、おサキが感激する。

 しかし、楓の運動神経が幾ら凄くても、このままでは悪霊は倒せない。


 「忍者の娘!」


 「狐っ!?」


 「そなたなら間違いない! これを受け取るんじゃー!」


 おサキが最後の天貝紅あまのかいべにを咥え、楓に放り投げた。

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