第10話 高揚[編集済み]

時は戻って現在。

橙里は一通り掃除終えた橙里は椅子に身体を預けてダラけきっていた。

「あ゛ぁ〜、疲れた〜。」

(異世界に来てからやってることがほとんど掃除なんだけど。あれ?なんで?)

橙里は旅らしい旅をしていないことにようやく気がついた。そして、佐武郎じいさんが目を逸らしていた理由も理解できた。

(佐武郎じいさん、こうなること分かって提案したなぁ〜。次会った時、覚えとけよ〜。)

「絶対!脇腹こちょこちょしてやる。」

恨み節を吐くと、立ち上がってシャワーを浴びに行く。その後食事を摂って、就寝準備を行なった。

筆をとって日記を書き終えると、ダウンロードの進捗と明日の目的地を確認する。

(進捗70%…、よし!明日朝には出れそうだな。そして進行方向にある残りの遺跡はいち、にぃ、さん…13個かぁ。先は長いなぁ。)

砂漠を抜けるのにはまだまだ時間がかかることに溜息しつつ、橙里は意識を沈めた。


こうして、遺跡から遺跡へとジグザグに移動しながら進み一週間が経った。

「あ゛ぁ〜、今日も疲れたぁ〜。」

橙里は、湯船に浸かって1日の疲れを癒していた。あれから1週間経ったが、初日の遺跡を含め、3つの遺跡にしかたどり着くことができていない。

遺跡が大きくなればなるほど、遺跡を掃除する時間が長くなり、さらにダウンロードする近辺の情報も多くなる。

直前の遺跡が、橙里の想像よりもはるかに大きく、予定していた日程よりも大幅に遅れてしまっているのだ。

(今日で3つ目の遺跡でダウンロードに40時間かかると言う目安…。それで此処までに一週間かかったから、この調子で行くとこの砂漠を抜けるには一ヵ月はかかる。)

「どぅをぉすぃたぁもおんんくわぁなぁぁ」

口元までどっぷりと水に浸りながら今後の予定を練り直している。

(それにこの一週間を通してわかったことだが、砂漠を徒歩で行くのはなかなかにキツイ。おかげで、毎日毎日くたくたの状態で掃除をしなきゃいけなくなる。おかげで、毎日ぐっすりだよ。)

体を上げ、浴槽の縁に頭を乗せ、目を閉じて、頭の中で予定を練り続ける。しばらくすると、だんだんと呼吸が深くゆっくりになり始める。そしてそのまま体はゆっくり沈んでいき…

ビクッ!

「……。」

跳ねた。

「寝てた。危ない危ない。とっとと上がろ。」

先ほどまでの眠気はどこへやら。一度微睡から上がったことで、とても意識ははっきりとしている。

「そうだ。歩かなければいいんだ。」

お陰で解決策を思いついた。とても簡単な方法に。


二日後の早朝、遺跡を出た橙里は

「あーあーあぁあー!!最っ高〜〜!」

腕を翼に変化させ、空を飛んでいた。

(すごい速い!!景色が流れるように…は変わらないな。沙漠だし、ずっと砂。)

少し落ち着くと前方に視線を向ける。飛んでいる方角としては離陸前に確認した次の遺跡の方角と合っているはずだ。

(まぁ、途中で一旦降りてから軌道修正でもするかなぁ。)

今は風を切り、風に乗る感覚を楽しもうと、不安は心の隅に追いやった。

「野生解放!!」

そう言うと、さらに加速して飛んでいった。

飛行を始めてしばらくたった頃、次の遺跡に到着した。橙里は端末で時刻を確認する。

「一時間半ぐらいか!歩いたら半日かかる距離なのに、めっちゃ速いじゃん。」

今後はずっと飛んで行こう、そう決めた。


 空を飛んでの移動を始めてからはそれまでの遅れを取り戻すかのように順調に遺跡の管理をしていった。そしてさらに二週間が過ぎる頃には亡嵐の沙漠にある遺跡の内、進行方向にあるものは今いる遺跡で最後になった。

(いや〜、とても楽だった!飛ぶとあっという間だなぁ。)

橙里はストレッチをしながらそう思った。

橙里は飛行に慣れてからというもの、ブルーインパルスに負けず劣らずのアクロバティックな飛行法を試しては自画自賛するということを繰り返していたため、筋肉痛になっている。

(明日には沙漠を抜けられるな。どんな景色なんだろう。)

まだ見ぬ景色に胸を膨らませて、橙里は早めに夢に向かった。


翌日、橙里はすでに飛んでいた。

「次がラスト!大技も大技!子供のロマン!ジェットフェニッk…」

 いつも通り、色んな飛行法を試していると突如として視界がひらけた。

亡嵐の沙漠を抜けたのだ。

 雲一つなくどこまでも地平線まで続く青空に、遠くに見える草原や巨石郡、下を見れば沙漠を横切るラクダに引かれた馬車の隊列。日本にいた頃では見ることのできなかった、異国情緒に溢れるといった光景に目を輝かせた。

「…ハハッハ。アッハハハ!凄い、すごい!すごい綺麗だ!」

 橙里の目にはその光景全てが幾千のダイヤモンドよりも輝いて映った。心臓が早鐘を打ち、身体中に大量のアドレナリンが熱い血と共に駆け巡る。空気を大きく吸って肺を満たし、更に空高くへと舞い上がる。

「空気が美味い!風が気持ちいい!ハハハハ!すごい楽しい!」

 そのまま雲の上まで上昇する。呼吸が苦しくなり、目がチカチカする。それが酸素が薄くなっているからなのか、興奮しすぎているためなのかは分からない。しかし、そんなことも気にする余裕がないほどに、橙里の心は先ほどの絶景に夢中になっていた。

「イヤッフーーー!今ならなんでも出来そうだ!此処が俺のネバーランドだ!!」

しかし、その心とは裏腹に体は悲鳴を上げ始めている。呼吸が苦しいことにようやく気が付いた橙里は、仕方なく脱力し、青空に向かい合いながら、重力に従って落下を始めた。雲を突き抜けながら体を捻り、雲をつき抜け、翼を広げ、大地と向き合う。橙里は思わず息を呑んだ。その光景は、この世界の半分にも満たないとは言え壮大で、橙里の網膜に消せないほどに焼き付いてしまった。


橙里はしばらく飛び続け、巨石郡にある遺跡に辿り着いた。いつも通りに端末に情報をダウンロードしてる間に掃除をする。掃除を終える頃にはとっくに日が沈んでいたため、念のために『危機察知』と『浄化』、『認識阻害』の効果を付与した『魔力膜』を展開して、その内側に順に『魔法障壁』、『物理障壁』をそれぞれ展開して、付近に注意を払ってから、就寝準備を始めた。今日の日記を書き終えると、ふと、テルトが言っていたことを思い出した。

(『この遺跡から北西に行くと火の邦って呼ばれてる地域が、北東に行く水の邦と呼ばれる地域が、南にいくと土の邦と呼ばれる地域がある。土の邦は緑豊かで色々な種族や人が集まっている、謂わばこの世界の中心地域で俺の生まれ故郷なんだが、観光名所という点では他の2つに比べたらどうしても霞むんだよな。温泉やダンジョンに入りたいなら『火の邦』、綺麗な景色を見たいなら『水の邦』がオススメだぞ。』って、テルトは言ってたっけ。)

 コントロールパネルから地図を開いて現在地を確認する。

(今いる場所は…ここか。『火の邦』と『土の邦』の間ぐらいか…。街道がある場所までまだまだ距離があるな。それでも飛んだら一時間半ぐらいなんだよな…。)

「ほんと、鳥人の飛行能力…というか翼があるってとっても便利だねぇ。」

 しみじみというと、ベットに横になった。

 橙里は眠くなるまで天井を眺めつつ、今後どうするかを考える。

(先ず、優先すべきは金だな。金がないと何も出来ないし。世知辛いなぁ。でも明日までダウンロードはかかるっぽいし、明日は動けないんだよなぁ。)

「明日は気ままに、この周辺でも見て回ろうかな。」

 ひとまず、明日の予定を決めたところで、間接照明を消して目を閉じた。

『旅をしたいなら、冒険者か配達者のどっちかがお勧めだな 。』

胸の奥に迷いは渦巻き続けている。


〜〜〜〜

この世界の種族

並人ヒューマット族、小人族ホビット巨人ギガント族、森人エルフ族、地人ドワーフ族、獣人ヒューマル族と言った種族が主立っているが、他にも数は少ないながらも他の種族も存在している。


鳥人ヒュード

橙里が転生する際に選択した種族。獣人ヒューマル族に内包される。これにより、鳥人の飛行能力と優れた動体視力を得ている。また、橙里はもともと並人ヒューマット族であったため、任意で種族を切り替えることができる。

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