第4話 超能力で体育祭。

 私の学校では、最上級生は二年生の三学期、通称「三年生零学期」から体育祭の準備が始まる。何故ならば開催競技の選定や各ブロックごとに行うダンスの振り付け考案・衣装作成・道具作成などがあるからだ。それらは全て最上級生の仕事なのである。


「ブロック」は各学年を縦割りにして同じ数字の組をくっつけて一つのチームにしたものである。


 一クラスおよそ四十人なので、一つのブロックで百二十人ほどになる。多い。


 それだけ多くの人が関わる行事なので準備に時間がかかるのは当然のことで、体育祭が開催される六月下旬から逆算すると二年生の三学期に始めないと終わらないのだ。


 正直言う。めんどくさい。


 三年生だけに押し付けることなくないか?二年生も研修みたいな感じで準備に参加してもいいではないか。一回は体育祭に参加しているのだから出来ないことは無いだろう。


 そうは言ってもお前が一番手間を省けるじゃないか、とは言わないで欲しい。


 確かに実務は超能力でどうにでもなる。しかし、何かを考え出すのは私自身でしか出来ない。そこの裁量権を分身などに与えてしまうと分身が勝手に意志を持って行動し始める恐れがあるのだ。


 そういう系のアニメとかであるだろう。分身が暴走しちゃったよ!!!!、みたいなの。アレだ。ああいうことが現実になりかねない。


 なってもどうにでもなるのだが後処理に少し手間がかかる。一回だけやったことがあるが非常に後味が悪いことをしなければならない。アレはもう二度と経験したくない。今でも感覚が手に残っている。


 話が逸れてしまった。そういうわけで、体育祭の準備が始まった。


「今回の競技の人員の割り振りについては一年生が入って来ないとなんも出来ないので後回しにしまーす。てなわけで、まずはダンスのテーマを考えましょー」


 相変わらず緩い口調の学級委員長が話し合いを始める。


「案ちょーだい」


 クラスメイトが口々に案を出していく。


 全部で十ほどの案が出た。


「はい、ということで恒例の多数決行きたいと思いまーすぅ」

「二個まで手を上げてください」

「まずは、ライオンキ〇グぅ」


 ぱらぱらと五人ほど手が挙がる。


「次、本能寺の変ー」


 手を挙げたのは十人ほどか。うーん、絶妙に微妙。


「ホストにハマった女ぁ」


 文化祭の時もそうだったがなぜこのクラスにはホストを推す人がいるのだろうか。やめて欲しい。そして、十人ほど手を挙げるのもやめて欲しい。


「五節の舞ぃ」


 三十人ほどの手が挙がる。めっちゃ人気やん。


「ハリーポッタ〇ぁ」


 誰も手を挙げない。……本当に頼むから発案者は手を挙げようよ。


「ミッドウェー海戦ー」


 テーマ重くない?でも五人ほどは手を挙げている。かなりやる気があるクラスメイトたちなのだろう。


「白い巨塔ぅ」


 ……………いや無理っしょ。医療ドラマでしょそれ。えぇ……。誰か手を挙げる人いるのかと思ったが一人だけいた。発案者だろう。彼は医学部志望だ。しょうがないか。


「交換ウソ日記ぃ」


 櫻いいよ先生の恋愛小説だ。体育祭のダンスで恋愛モノは難しそうだが十人ほど手が挙がっている。君たちはこれをやれるのか?やれるんだな?


「天の岩戸ぉ」


 これはいいんじゃないか?と思ったが五人ほどしか手が挙がらない。うーん、惜しい。


「タイタニック号が沈没ぅ。あ、違うわ。タイタニック号沈没ぅ」


 これも良さそうだ。しかし、こちらも手を挙げたのは五人ほどしかいなかった。うーん……なんだかなぁ……。


「うーん、なるほどねぇ、おっけーおっけー。二回目の多数決めんどいからもう五節の舞にするね。異論ないよね?ね?はい、けってー」


 ちょっと強引な学級委員長の決定により、そして反論する人もいなかったため、テーマは「五節の舞」で決まった。


「そういえばうち五節の舞って名前は知ってるけどどういうのかは知らないんだよねー」


 そう言いつつ学級委員長はスマホを取り出し何やら操作し始めた。しばらく眺め、時折スクロールすること約三分。何となくわかったという表情で学級委員長が顔を上げた。


「なるほどね!いいじゃんいいじゃん!!え、おもしろそーだねこれ!!」


 どうやら気に入ったらしい。


「え、未来ちゃん未来ちゃん」

「どうしたの?」

「このテーマで超能力って使えたりするの?」


 あーそのことか。


「うん。使えるよ。フルで」

「どんな感じ?ちょっと見たいなー」

「わかった。いいよ」


 では見せてあげよう。これこそが五節の舞だ、というものを。


 とは言っても、私が舞うのではない。そういう映像を見せるというだけだ。ただし、とてつもなく没入感のあるリアルな映像だが。


 まずは映像――即ち「幻覚」――を見せる範囲を設定する。今回はクラスメイトが見れればいいので教室内に限定する。


 ちなみに、範囲を限定しないと地球上の生物全てが同じ幻覚を見ることになる。なかなか不味いことになるので使う時には必ず範囲を設定しなければならない。


 範囲の指定が出来たらあとは幻覚を見せればいい。教室を解体し、目の前に平安時代の内裏を出現させる。


 そうそう。五節の舞について説明していなかった。


「祭日直前の丑の日に行われる。常寧殿の西塗籠の内帳台の上に長筵を敷き、その上に舞姫の座を敷き、その前にそれぞれ白木の灯台1本を立て、東の帳台の西南角に幔を引いて小哥(当世の歌を歌う人)の座、北庇塗籠のうちを大師(舞姫に舞を教える人)の局とし、大哥(古風の歌を歌う人)は同殿東の仮座に候し、殿内の四隅に舞姫の休息所である五節所を設ける。時になれば舞姫は玄輝門に参入し、車を下りてから公卿が束帯してこれに従い、各自定められた五節所に入る。舞姫の参入の由を聞いて天皇は直衣指貫に沓をはき、清涼殿東庇北の階下から、承香殿西南隅に仮に架けた長橋、承香殿南簀子、同馬道后町廊、常寧殿馬道その他の順路を経て大師の局に入り、殿上の侍臣が脂燭に候し、近習の公卿が両3人供奉する。舞姫1人ごとに火取を持つ童女、茵を持つ童女1人、几帳3本を持つ下仕および理髪の女房を先立てて舞殿にはいり来て、舞姫らは茵に座し北向し、西を上にして並び座す。ついで大哥が后町廊の辺に座し、大哥、小哥が発声し、舞が始まる。その間、理髪の女房、童女、陪従、下仕などの介錯の女房以外は、同殿に入ることを許されず、蔵人頭もしくは行事蔵人のほかは戸外に伺うこともできない定めであった。舞が終わって、舞姫が退出する。(出典:Wikipedia)」


 まあ、ざっとこんなところである。Wikipediaで書いてくれた誰か、ありがとう。


 こういう感じの映像を見せてみた。


 我ながら迫力がすごかったと思う。クラスメイトたちもみんな息を呑んで目の前で披露される五節の舞を凝視していた。


「こんな感じかなー。どう?」

「……なんか、すっごいプレミアム……」

「いやそれSp〇tifyの広告じゃん」


 クラスメイトから爆笑が起こる。みんなこの話を理解しているのか。


「ちょっと聞きたいんだけど、Sp〇tify使ってる人ー」


 クラスメイト全員の手が上がる。


 ……Sp〇tify人口多いな。


「すごっ、みんなじゃん。え、もはや怖ぁ……。じゃあ、フリープランの人ー?」


 クラスの三分の二くらいの手があがる。


「フリープランを愛する者多いねー」

「それも広告じゃん」

「プレミアムの人はー?」


 残りのクラスメイトが手を上げる。


「まあそうなるか。いやぁ、思ったよりフリープラン多いねぇ」


 確かに。ていうかSp〇tify人口多すぎる。いや、話はそのことでは無い。


「ちょちょちょ、待った待った。その話関係ないのよ。本当にダンスは五節の舞でいいの?」


 クラスメイトが全員頷く。


「本当に?」


 再度、クラスメイト全員が頷く。


 もうちょい何か反論はないのか。あれだけ案が出ていたであろうに。まぁ、いいならいいのだが。


「じゃあこれでやっていこうか。衣装とか道具系は私が全部用意するから、ダンスの振り付けとか隊列の組み方とかは担当決めて考えてもらっていい?」

「おっけー!あ、衣装作るのにサイズ測ったりしなくて大丈夫?」


 もっともな疑問だ。


「うん。全員のサイズ把握してる」

「…………え?」


 学級委員長は意味わからないと言いたげな様子で首を傾げる。


「うそん」


 残念ながら嘘ではない。私はこのクラスの、いや、この学校の全ての生徒の身長・体重やバスト(男子はチェスト)・ウエスト・ヒップをはじめとして首の直径や指の長さ等の細かい部分に至るまで詳細なサイズを知っている。生徒全員の衣装を作れと言われても難なく作ることができる。


「例えばこのクラスにいる、仮にAくんとしようか。彼は身長一六五センチ、体重六二キロ、」

「あーストップストップ言わなくていい言わなくていい」

「いいの?」

「聞かなくていいし聞きたくないよ。その情報誰得?」


 わからない。


「誰得とかはないけど。ほら、男子は女子のスリーサイズとか知りたがるじゃん。知ってもどうしようもないのに」


 クラスメイトの男子たちが気まずそうな顔をする。


 まあ、そんなことはどうでもよい。


「とりあえず私が衣装関連はやるから、メインの五節の舞姫をやる人とか決めちゃってくれない?」

「おっけー!はい、じゃあ舞姫誰にするぅ?」


 クラスメイトは喋らない。


「案出ないならうち決めるねー。ブロ長と副ブロと有志二人でいい?」


 反論は出ない。


「はいけってー!有志二人募集しまぁす!挙手!」


 手を挙げたのは学級委員長本人と風紀委員の女子・成美だった。


「よっしゃきまりぃ。じゃ、この五人で舞姫衣装作っといてー」

「わかった」


 舞姫ならばやはり特別豪華な衣装に仕上げたい。そして、かつ、一人ひとり違いのある衣装にしたい。


 五人の舞姫の立場は同格なので、装飾の豪華さで差を出すよりも、デザインの細かな違いや色や意匠で区別していきたい。


 それぞれの舞姫のモチーフは花にしたいので、その路線で装飾や色を考えていこう。


 桜、梅、藤、牡丹、菖蒲、萩、花ではないが紅葉……。使いたいモチーフは色々ある。


 今回は色で区別するために桜、白梅、藤、紅葉、若草(もはや植物の固有名詞じゃないが)でいこうと思う。これなら色とモチーフでそれぞれの舞姫に違いを出すことが出来る。


 ここまで決まればあとはそれぞれを誰に着せるか、だ。


 ブロック長はクールぶってるので爽やかな若草がいい気がする。


 副ブロ長(女)は桜が好きだと言っていたので桜でいこう。


 副ブロ長(男)はお高くとまってる雰囲気を出そうと躍起になっている人間なので藤だ。どういう人間なんだ、だって?そんなことは私が聞きたい。ちなみに、紫は高貴な色である。


 学級委員長は赤い紅葉だろう。情熱の赤、というのを聞いたことがあるだろう。彼女はその色が似合う人だからね。


 最後、成美は残った白梅だ。残り物であるが、純真無垢な彼女にはよく似合う色だと思われる。


 よし。後は彼ら彼女らのサイズに合わせてフィットする衣装を織ろう。


 〜三秒後〜


「ん、できた」

「え、何が?」

「舞姫の衣装」

「え、ちょ、ま、早っ……。まだ作んなくてもよくなーい?」

「そう?なんか早めに終わらせたい性分だから作っちゃった」

「あ、そーなんだぁ。じゃいっか!舞姫諸君!着てみよー!」


 舞姫になった五人が衣装を取りに来る。渡すと、それぞれ教室を出て更衣室へと向かった。


 何分か経って、五人が戻ってきた。


「はーい戻ってきましたー」


 元気よく扉を開いた学級委員長を一番にして、並んで教室に入ってくる。


「じゃーん!!」

「えっと、クールなブロ長、若草グリーン……?」

「桜大好き!ブロッサムピンク!」

「高貴な藤花、ウィステリアパープル……」

「情熱の赤、紅葉レッド!」

「清廉の白、プラムホワイト!」

「五人合わせて、マイヒメーズでーす!!!」


 ……………………………………何がしたいんだ君たちは。


 これやろうって言い出したの絶対学級委員長でしょ。あの子こういうおふざけ大好きだからね。


 窓を締め切った教室内には暖房がこれでもかと言うくらいきいているのにも関わらず、寒風が吹き抜けている。


「…………だからやめろって言っただろ」


 とはブロ長がこぼしたぼやきである。


 まあそれは置いといて、うん。衣装はいい感じだ。綺麗な着物に仕上がっている。


 ただ、まだ少し気になる部分も見つかったのでそこはまた順次改善していきたい。一旦衣装は回収だ。




 四月になって、新入生が入学してきた。


 やっと体格の情報が全員分揃ったので、そろそろ舞姫以外の衣装を作っていきたい。


 そもそも、舞姫以外にどんな役があるんだろう……?


 周りに座ってる貴族たちくらいだろうか。それを百十五人はさすがに多い。どうしようか。


 あ、そうだ。溢れてしまう人は舞台役にしよう。床だ。劇とかでも木の役とかあるだろう。あれにすればいい。我ながらなかなかいいかも。名案だ。私天才。


 いや、待て。舞台役にするとその人たちは舞姫に踏まれてしまうのか。それはまずい。非人道的だと避難されかねない。場合によっては国連の「W〜」「UN〜」「I〜」とかいう機関から目をつけられてICPOからなんか来るかもしれない。ダメだ。舞台役は作れない。


 困った。あまりの人員はどこに配置するべきか。


 あ、そういえばいろいろ細々とした役があるのを忘れていた。


 列挙するのはめんどくさいのでやめるが、舞姫や公家以外もいろいろと人がいるのだ。余った人たちはそこに回してしまおう。これで完璧だ。


 あとはそれに合わせて適当な人を割り振り、その人に合わせた衣装を用意すればよい。舞姫以外のダンスの振り付けやその他諸々は他のクラスメイトが上手くやってくれるだろう。


 舞姫の振り付けは以前見せた例の映像を何度も見せて覚えてもらう。私にはそれしか出来ない。


 ただ、それが一番確実だ。中途半端な見本を見せるより正しい映像を見せた方がわかりやすいし正しく覚えられるだろう。みんな頭がいいからきっと覚えられるはずだ。




 衣装考案以外の準備を分身やクラスメイトに丸投げにして早二ヶ月。体育祭当日がやってきた。


 今日は梅雨であるにも関わらず恐ろしいくらいに晴れ渡っている。今日体育祭を終わらせろと言わんばかりの空模様だ。


 まぁ、甘んじて受け入れるしかない。今日で体育祭の関連事項が終わると考えれば悪い気はしない。天気を操作することもできるが当日にいきなり雨を降らすなどよろしくないだろう。めんどくさいし。


 午前九時頃から始まる競技部門では、私は綱引きと騎馬戦とブロック対抗リレーに出場する。とても、五十メートルを走りきれない人間の出場種目とは思えない。


 そういうわけで超能力フル活用である。


 綱引きは一回戦では常人の五倍ほどの力を出してみた。案外苦戦したので次は十倍にしてみた。結果、余裕で綱引き優勝を獲得した。


 次の出場は騎馬戦。正直騎馬を組むより単独で戦う(足軽?)の方がやりやすいのだが、クラスメイトが担ぎあげてくれたのでありがたく乗っておいた。結構眺めがよかった。


 結果は勝てなかった。やはり単独で動くのと誰かに動かしてもらうのでは勝手が違うのだということを感じた。ただ、正面から挑んで来た四騎には音速帽子取りをお見舞いしてやった。それをしている間に後ろから取られた。さすがに腕の長さで負けていては挽回は難しい。卍解出来たら勝てたかもしれない。


 何競技かやって昼食を摂った後がダンスである。


 私のブロックは四番目の発表だ。自分たちの番が来るまでは他のブロックのダンスを見たり自分たちの準備をしたりして過ごす。


 まったりと他ブロックの発表を見ているうちに次が私のブロックの発表になってしまった。瞬間で衣装替えをして集合場所に並ぶ。私は貴族の役なので、本番中はほとんどすることがない。いい役に当たった。


 時間が来て、アナウンスが校庭に響く。


 ここで能力解放だ。学校を平安時代の内裏に変貌させる。


 それが完了した後、同じブロックの生徒が一斉に入場する。


 舞姫をはじめとする諸役が中心に集まり、それを囲むように貴族役の生徒たちが木の舞台に座る。


 管弦の音や謳い手の声が響き始める。


 舞姫たちが舞い始める。


 私がお手本の映像を見せまくって教えこんだ舞姫役の子たちは、皆とても上手に舞っている。それこそ、彼らが昔舞姫をやっていたのではないかと見紛うほどに完成度が高い。


 貴族役で座っていた私は彼らの舞を見ながらそんなことを感じた。


 舞姫の舞が終わると、彼らは退場していく。それを引き止めんとする帝をそばにいたお付きの者が袖を掴んでその場に留まらせる。


 その間に舞姫たちの姿が見えなくなる。すると、帝は全身の力が抜けたようにその場にへたり込む。


 と、次の瞬間、空に浮いている月が雲に隠れ、刹那、暗転する。


 その間に全ての生徒が退場する。


 次に月が姿を現したとき、内裏には誰一人いない。


 そして幻影が消え、校庭の景色が戻ってくる。


 これにて、このブロックのダンスは終演だ。


 観客は終始圧倒されていて、終演後もしばらく誰も動かなかった。しばらく経って、一人、二人とまばらに拍手が聞こえ始め、すぐに満場総立ちの喝采となった。


 なんだか誇らしい気分である。まさかここまでの反応がもらえるとは思わなかった。素直に嬉しい。


 いい気分に浸っていると、友人の華衣が話しかけてきた。


「ねぇ未来ちゃん。さっき私たちって校庭の砂の上に座ってたんだよね?」

「うん。そうだよ」

「やっぱりそうだよね。でもなんか全然砂感なかったんだけどなんで?」


 あーその事か。それにはちょっとしたタネがある。タネと言っても大したことは無い。ただの超能力である。


 先程、私は幻影と同時に、ブロックのメンバーに対して触覚の幻覚も発動させていた。


 木の板の上にいるような、そんな感覚を感じるようにしていた。


 私の超能力は、人の五感全てを操ることができる。BLEA〇Hの藍染惣〇介が使う鏡花水月の能力と同じようなものだ。ただ、鏡花水月とは違い砕けることはないが。


 あ、鏡花水月みたいな演出はやってもよかったかもしれない。最後に内裏の風景が砕けて校庭が姿を現す、というような映像もそれはそれでいい気がする。あーあ、しくったかなぁ……。ま、いっか。


「ちょっと五感を操らせてもらったんだよ。木の板の上に座っているような感覚になるようにね」

「えーそんなことできるんだ。すごっ」


 そうだろうすごいだろう。ふふん。




 その後、他のブロックのダンスも鑑賞し、ラストの競技に移った。そう、ブロック対抗リレーである。


 記録の上では私はブロック最速になっているので、二回走る予定だ。第一走者とアンカーを兼任している。とても、五十メートルを走りきれない人間のやることとは思えない。


 ここでもやっぱり能力解放である。


 とりあえず常人の二倍ほどの速さでいいだろうか。あまりに早いとさすがに怪しまれてしまう。そうなって、このブロックだけ失格になりリレーの点がつかないと優勝出来なくなるかもしれない。


 それに、早く移動しすぎると周囲の人や建物が吹っ飛ぶ。砂埃もたって視界が悪くなり、目にも悪影響となる。さすがにそれはだめだろう。


 そもそも、走っている姿が見えないと走った判定が出ないかもしれない。ここは安牌を取るべきだろう。


「ブロック対抗リレー、選手入場」


 号令の後、ブロック対抗リレーに出る生徒たちが校庭に入場する。


「予選第一試合、第一走者、位置についてください」


 私は予選第二試合に出場するので、ここでは待機である。


「位置について、よーい、」


 パァン!!


 乾いた銃声と同時に生徒が走り始める。どの生徒もまあまあ速い。五十メートルを六秒台後半から七秒台で走るくらいのペースと見て相違ないだろう。


 これならウサイン・ボルトより一秒速いくらいのペースで走ればまず負けないだろう。この勝負、もらったも同然である。


 各ブロック八人の走者が走り、最速を競うこの競技。一人の走者は校庭を半周走る。走者は各学年から二人ずつ選ばれ、そのうちの二人は二回走ることになる。誰がどのタイミングで走るのか、誰が二回走るのか、その人の走る順番はどうするのか、といった戦略が勝負の行方を左右する。


 その戦略がうまく当たると、走者の実力以上の好タイムが出ることもある。そこは戦略を練る競技責任者の力量によって大きく変わってくるのである。


 ま、そんなことは置いといて今は第一予選のレースを楽しく観戦しよう。




 次は第二予選、私のブロックが走る試合である。


「第一走者は、位置についてください」


 とのアナウンスの後、各ブロックの第一走者が所定の位置に並ぶ。私もそこに加わる。


「位置について、よーい」


 パァン!


 乾いた銃声。走り出す。同時に能力も解放する。


 超能力で一気にトップスピードまで加速する。


 そのまま人類最速のスピードで次の走者にバトンを渡す。後続とは四分の一周くらいの差はついた。


 次の走者はそれなりにいい走りをしている。彼の最速に近いタイムが出るのではなかろうか。本番に強いタイプの人なのかもしれない。


 第三走者はちょっと右足を痛めたのか、少しだけ引きずるような走り方をしている。しかしそれでも後続との差はそれほど縮まらないところに彼女の執念と実力が伺える。


 第四走者は後続との差をさらに大きくする好走を見せた。私のブロックの観客の歓声が大きくなる。


 第五走者もそれまでの走者が作ったリードをキープする走りをしてくれた。


 第六走者は第二走者として走った彼である。私よりもインターバルが短いのだが、先程の疲れを全く見せず、同じような快走をしている。率直にすごい。


 第七走者は、選抜メンバーの中で一番タイムが遅い一年生の生徒である。だが、後続の走者たちから差を縮められながらも何とか一位の座を死守しようと懸命に走っている。その頑張りを次にアンカーとして受けるのが私である。


「せん……ぱい……!」

「任せな」


 第七走者からバトンを受け取る。そして、最初走った時と同じような走りをする。再び後続との差を広げ、第二予選一位でゴールテープを切った。


「ワァァァアアァア!!!」


 優勝が決まったのかというくらいの大歓声が沸き起こった。次の決勝で優勝が決まったらどうなるんだ。大丈夫なのかこれ。




「ブロック対抗リレー、決勝」


 決勝は各予選でタイムの良かった上位二ブロック、計四ブロックが競う。ちなみに、決勝に残れなかった四ブロックのレースはもう無い。なかなか無慈悲だが時間が足りないらしいので仕方ない。


「第一走者は所定の位置についてください」


 第一走者がスタートラインに並ぶ。位置は予選のタイムがよかったチームから順番に内側から並ぶことになっている。


 私の位置は一番内側だ。即ち、予選二試合を通して最速ということである。まぁ、一人チートしてる奴がいて、しかもそいつが二回走っているのだから当然だろう。これがドーピングであれば規制のしようもあるのだが、超能力なので運営側はどうしようもない。これが法の抜け穴というものである。こういう奴がいるから世の中から犯罪がなくならないのだろう。


「位置について、よーい」


 パァン!


 今日最後の乾いた銃声が校庭に響き渡る。


 超加速からの速度維持で後続と差をつけて次の走者にバトンを託す。決勝ではあるが、高校生の足の速さなどそこまで大きな差はないので、予選のときと同じくらいの差がついた。


 これ以降も予選のときとだいたい同じ流れだった。ただ、どのブロックの生徒も先程一度走っているため、全体的にスピードは落ちている。


 そのおかげか、私はアンカーとして悠々と優勝のゴールテープを切ることができた。


 校庭が割れんばかりの(校庭は割れるのか???)歓声に包まれる。さすがにこれは嬉しい。分かってはいたが実際勝ってみると気分がいいものである。




「結果発砲ー」


 ………ピー…………ガー……ザザッ…………


「結果発表ー」


 全種目が終わり、得点の集計も済んだようである。だいたいの種目で私のいるブロックが一位を取っているので優勝だと思うのだが、不思議とドキドキしている。


 まずは各競技とダンスの得点発表である。予想通りいい感じである。ダンスもあれだけのことをやったからか一位をもらえた。よかった。


「ではでは、いよいよ優勝ブロックの発表です!!!」


 これまでの結果からするに優勝はほぼ決まったようなものなので、先程までよりも活気というか熱気がない。静かだ。


「優勝は………」


 もう溜めなくてもいいような気がする。


「第七ブロックです!!!」


 第七ブロック、即ち私のいるブロックの生徒から大歓声が起こる。


「第七ブロックのブロック長と副ブロ二人は朝礼台の前まで来てください」


 我らがブロ長と副ブロ二人が立ち上がり朝礼台の前まで歩いていく。


 ブロ長は校長から優勝旗を、副ブロ①は教頭からトロフィーを、副ブロ②は副校長から賞状をそれぞれ受け取る。そして、三人は後ろを振り返るとそれらのものを高々と掲げた。


 再び第七ブロックの生徒たちから歓声が上がる。


「やったね未来ちゃん!!」

「おめでとう馨」

「てかみんなおめでとうでしょーよ」


 友人の馨が笑う。


「それもそうね」


 つられて私も笑う。


「いやー、最後の体育祭で勝ててよかったー」

「ほんとにね」

「そういえばさ、未来ちゃんって一年とか二年の時はあんなに足速くなかったよね?」


 そういう訳ではないんだな。


「タイムはそんなに変わらないよ。ただ、出るのめんどくさかったから」

「あーね。でも今年は出てくれたんだね」

「そりゃあもちろん。人生最後の体育祭ですから」

「なーるほどねー」


 さて、優勝したことだしこれは打ち上げがあるはずだろう。


 と思っていると案の定ブロ長たちからブロックのメンバーに打ち上げ開催のお知らせが来た。これは行くしかない。


 人生最後の体育祭の打ち上げである。どんな豪華な店に行けるのだろうか。楽しみにしてブロ長たちについていくとしよう。

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