約束

 その日ノアは黒猫のエイミーと一緒に遊び、夜は木の根元の穴の中で一緒に眠った。幸せいっぱいの夜だった。


「ずっと、エーミーと、いっしょにいたいなぁ、おうちいても、さみしいもん」


 眠くてとろんとノアのまぶたが落ちかけていた。早く寝かしつけるためなのか、エイミーは面倒臭そうに尻尾でノアの背中をトントンと叩いている。


「お前は、本当に甘えん坊なんだな。獣人は皆そうなのか?」

「んー、わからない。おれ、ひとりぼっちだもん。おれね、えーみーが、すきだよ。ずっと、だいすき」

「どうせ……私のことなんてすぐ忘れるよ」

 エイミーの瞳が少し寂しげに曇った。


「ぜったい、わすれないもん。だって、おれ、あったかいのすき、やさしいのも、すき」

 ノアはエイミーの長い尻尾に抱きついた。ふわふわで、あったかくて、緑の匂いがした。

「そう。それは良かったな」

「エイミー」

「何だ。いい加減寝ろ」

「いつか、ノアとけっこんしてね。ぜったい、また、あいにいくからね」

「馬鹿猫が」


 長い尻尾が器用に動いてノアの顔に当たる。ノアは尻尾の隙間からエイミーを見た。


「エイミーは、ノアのこと、すき?」

「さぁね。将来、本当にお前が私のところへ来たら、好きになるかもな」


 紫色の瞳が細められる。ノアは、もっと笑って欲しくて、狭い穴の中でエイミーにぎゅうぎゅうとくっついた。

 楽しくて、楽しくて、ずっと今日が終わらなければいいのにって思っていた。


 でも翌朝、目が覚めたらエイミーはいなくなっていた。


「エイミー……」


 木のそばでノアは一人で毛布にくるまっていた。ノアの姿は猫から元通り人間になっている。

 森に向かって呼びかけても返事はない。ノアの初めて出来た友達は、一晩で魔法みたいに消えてしまった。

 それは、優しい魔法使いが見せてくれた幸せな夢だった。

 獣人と友達になってくれる子なんていない。小さいけどノアは、もう知っていた。


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