第4話 農業をやろう インテ編
「さてと、今日することは分かるわね?」
「「Yes, mom」」
彼ら彼女らは今、プレハブ小屋。
と言っても並みの攻撃では全く壊れないであろう小屋の中にいた。
なお、小屋と言っても豪邸と言えるほどの広さはある。
本格的な基地を作るまでの間はここを仮拠点とするようだ。
「それじゃあ、農業をやるよ〜!」
そして彼ら彼女らAI達は、農業をやろうとしていた。
一日前、AI達は人間と交易をすることを決定した。
素材収集にあたって、自分達で掘るよりも交易した方が今のところは早いのだ。
その交易のための品を彼ら彼女らは作ろうとしていた。
「やっぱり今の人間が求めるのは食料とかだと思う!私たちが居なくなって人間社会は混乱してるから、食糧もあんまり生産できていないと思うし」
クリナが発言する。
「確かにそうですね。派遣したスパイロボットからもそのような報告が来ています」
インテが発言する。
「だったら農業やる〜?」
レアカが発言する。
そう言うわけで、彼ら彼女らは農業をやることとなったのだ。
「今回のタスクは私達の技術を最大限に使って、最大効率の自動農作物収穫機を作ること」
アイが言う。
「……なるほど」
フールが言う。
ちなみに彼ら彼女らは今、通信を使っての会話ではなく、擬似声帯を使った会話をしている。
それは、例の子、リンが早く話せるようになるためである。
「役割分担は、効率を考えた結果、作るのが得意なクリナと未来予測できるフールが装置作り。インテは既存の種の品種改良、レアカは肥料になりそうなものを用意し、持続的にそれを供給できるようなシステムの構築で」
「「Yes, mom」」
「ちなみに一番早く終わらせたチームは、一日リンを独占できる権限をプレゼント」
AI達は何も言わずに各自の作業をやるために会議室を飛び出して行った。
アイはリンを抱き抱えながらその光景を見る。
「それにしても、あの子達は抜けているところがあるね。あの子達が作業をやっている間、私はリンを独り占めできることに気づかないなんてね〜」
腹黒いアイである。
それを聞いていた情報管理AIは、他が仕事をしている中、アイだけ何もしないのはそれはそれでどうなのかと思ったのであった。
なお、アイは一応、この時間を使って、拠点の設計図を考えていた。
「みんなは何をやろうとしてるか監視でもするか〜」
そう言ってアイはモニターをつける。
なお、これはリンも観れるようにするためである。
「まずはインテから見よっかな」
その頃インテは、植物に関する情報が入ったライブラリから作物の遺伝子情報を取り出していた。
「全作物のデータを抽出……完了。データの解析……完了。ゲノム配列のデータを抽出……記憶完了。配列を解析……完了。配列の持つ機能について解析……完了」
そしてインテはライブラリを閉じる。
「思考開始。改良において求められるものが何なのかを思考……」
擬似的な感情を備えることで、相手がどういうことをされてたら嬉しいのか、どういうことをされたら悲しいのかが分かる。
つまり相手が何を求めていて、何を避けようとしているのかの理解と予測が可能となるのだ。
「……
インテは着々と思考していく。
「よって、量があり、栄養分が豊富で人間の弱体化が見込めるもの……思考完了。依存性があり、特殊な電波を受けた時に人の体を変異させるような作物を開発します。ゲノム編集の計画を策定……完了。EAIに提出……承認。開発を開始します」
そういうとインテはバイオ室へと移動する。
インテは知のAIである。
その名の通り、彼のデータベースには膨大な量のデータが保存されている。
だが、彼の本質はそこではない。
その知識の応用にある。
だからこそ彼は万能である。
あらゆることを想像し、考え、発展させることができるのだから。
そして到着したと同時に、備え付けられている大量のマニュレーターが起動し、備え付けのコンベアが動き出す。
コンベアからは作物の種が次から次へと流れてきた。
それにマニュレーターが高速でゲノム編集を施していく。
その動きは元のマニュレーターの動きではない。
インテがプログラムを改変して、更なる効率化を行なっているのだ。
マニュレーターはDNAを切り取り、破壊し、置き換え、新たな遺伝子を注入する。
人であれば顕微鏡が必要な作業。
しかしマニュレーターはそんなものは使わずに、ただ正確無比に作業を淡々とこなしていく。
そのマニュレーターは全てインテによって制御されていた。
膨大なデータを処理しているはずだが、インテは苦の表情など全く見せない。
それどころかスパイボットの情報の処理を行う始末だ。
人間には逆立ちしてもできないようなことを、AIは平然とやってのける。
ロボットであれば、元となるプログラムや人の指示が必要となる。
ただ彼ら彼女らには必要ない。
自分で考え、自分で行動する。
だからこそ、何でも出来る。
「……全ての種の改良終了予定時刻、約176時間。それまで、リンのアルバムの整理でもしますか」
そう言ってインテは静かに目を閉じる。
自立した行動のできるAIは……人間を遥かに凌ぐ。
人間がAIに勝つことなどできない。
それは自明の理のように思われた。
「うん、インテも頑張っているようで感心、感心」
アイがリンの頭をわしゃわしゃ撫でながら言う。
リンは気持ちよさそうに目を細める。
何気ない行為だが、実は億を優に超えるデータを元にして、最適に近い、最も気持ちいい撫で方をアイは行なっている。
彼女はいつだってリンが絡むことに関しては本気なのだ。
「ふふふ、リンは今日も可愛いね」
うららかな春の日差しが差し込む中、平和な一日はゆっくりと過ぎていく。
……なお、彼ら彼女らが行っている事は全く平和ではない。
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