雨は気まぐれ。
42
第1話 少女
「はぁ、はぁ、はぁ。」
その日は大雨だった。
午後15時過ぎ、緑西高校からの帰り道のこと。
傘を持ってなかった俺、水上滝太は、雨宿りの場所を探して走っていた。
このまま走って家に帰っても、ついた頃にはびしょ濡れになってしまう。
帰宅した俺を見た瞬間の母さんの困った顔が眼に浮かぶ。
「何でこの街にはコンビニの一つもないんだ。」
本州の端っこにある田舎村に住んでいる俺は、なかなか屋根のある建物を見つけられずにいた。
見えるのは、広大に広がる畑、畑、または畑。たまに野菜の無人販売。
何か場所はないものかと思った矢先、
俺は道の途中に大きな鳥居を見つけた。
こんなところに神社なんてあったっけと思いながらも、
もう濡れるのが嫌だった俺は、すぐに鳥居をくぐった。
道の麓に聳え立つ多くの竹を見ながら、ずんずんと境内を進んでいく。
風で揺れる竹、そこから生まれる大きな音。
自然の広大さを感じる、妙な雰囲気に呑まれながらも、
どこかに建物はないかと石垣を進んでいくと、人影に気づく。
セーラー服を身に纏った少女がいた。
ただ、異様な光景だった。
大雨が降っているにも関わらず、本殿の前に佇んでいる。
銀色に輝くまっすぐな長い髪、スラリの長い手足に、白い砂糖のような肌。
儚く、今にも消えてしまいそうな顔をしている彼女は、手を合唱して、静かに雨が止むのを待っていた。
「なんだこれ、、」
幻かと思った。
彼女の周りに青白い人魂のような灯火がふわふわと浮いていたからだ。
ふっと消えては、また現れる。
一度目をこすってみたけど、みているものは変わらない。
どうやら現実で間違いない。
ふと人の気配に気付いた少女は、ゆっくりと俺の方へ振り向く。
そして不思議そうな顔で、俺をじっと見つめる。
「。。。」
目と目が合う。
1秒、2秒、3秒と、ただ沈黙の時間が流れていく。
先に口を開いたのは、彼女の方だった。
「あなた、私のことが見えるの??」
驚きに満ち溢れた顔で、こちらを見つめる。
「見えます。」
彼女の瞳が少し揺らいだのがわかった。
「ほんとに?」
「本当です。」
「ほんとのほんとに?」
「本当の本当です。」
「すごいや、アタシが見えるなんて。」
少女は少し嬉しそうにして、目を開く。
きっとからかわれているんだ、そう思った。
人が人のことを見えないなんておかしいし、彼女はきちんと俺の目に見えている。
綺麗な目、鼻筋の通っている整った顔立ち、だけどどこかあどけない幼さが残っていた。
「見えるものは、見えますよ。」
「お兄さん、何で敬語なの、おもろ。」
「知らない人には敬語ですよ。」
少女はケタケタと笑う。
先ほどの儚い表情で合掌している彼女とは一転、年相応の笑った表情をしていた。
「私、お兄さんみたいな人嫌いじゃ無いよ。」
「それはどうも。」
「じゃあ、お兄さん、気をつけてね。ばいばい。」
と言って、スタスタと歩いて、境内の奥の方へと立ち去った。
追いかけようか、とも思ったが、
別れの挨拶をの後に会いに行くのはおかしいなと思い
小さい背中と揺れる銀髪をただ呆然と眺めていた。
今まで感じたことがない、夢の中のような気持ちに体が麻痺している。
あの少女は一体何者なんだ。
俺は少女が完全に見えなくなるのを確認してから、
一度本殿の方に礼をして、神社を出た。
雨はその日、一晩中降っていた。
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