第18話
「高校の時の顧問の花梨ちゃん」
俺が花梨ちゃんの説明をした。
「あら、結婚されたの?」
母ちゃんが俺を見る。
あれ?
俺、話してなかったんだ。
気にもしてなかったわ。
「こうしている間も円さんは病と闘われています。出来ましたら出来るだけの時間を円さんと居て差し上げてください。私達では叶えられませんが皆さんには叶える事の出来る円さんのお願いですから」
相原さんは続ける。
「俺、花梨ちゃんに直電してみます」
俺は携帯を手に通話可能な場所へ移動してこの間交換した花梨ちゃんの携帯電話に直に電話をかけた。
電話には友也さんが出る。
花梨ちゃんが運転をしているそうだ。
もうすぐ着くと言われて俺は電話を切って羽津稀の部屋に向かう。
病室で羽津稀は寝息を立てて眠っていた。
病気だなんて信じられない位穏やかな寝顔をしている。
「さっきより穏やかね」
姉ちゃんが言った。
俺は心電図を見る。
脈がゆっくりになっているが問題は無いのだろうか。
「今は眠られていますね。呼吸に乱れもありませんし少し気を抜かれるのもオススメですよ」
羽津稀のバイタルチェックを済ませた相原さんが俺達に言う。
「峠は越えた?」
俺が相原さんに聞いた。
「残念ながらそうとは言いきれません。このまま徐々に呼吸が止まる事もあります。回復する可能性もありますから私達も諦めはしません」
相原さんははっきりとした口調で答える。
「無いに等しい話はしないでね」
姉ちゃんが相原さんに言った。
「私達の仕事は患者さんを長生きさせる事ですから亡くなる可能性よりも生きる生命力を信じたいのです」
相原さんは言う。
「看護師がそれで良いわけ?」
姉ちゃんがそう言うと相原さんは「いけませんか?」と聞き返して来た。
「知らないわよ」
姉ちゃんは相原さんから離れる。
「生きている存在はいずれ亡くなります。でも寿命は私達にはわかりません。もしもの時に後悔しない様に出来る事を出来るならそれにこした事無いでしょう。自己満足と言われても仕方ありませんが私は他の方でも同じ気持ちでお世話をさせて頂きます」
相原さんは笑顔で続けた。
「円さんが目を醒ましたら皆さんを見て笑顔になって頂きたいものです」
相原さんは羽津稀が目醒めた時の話をしてくれる。
フラグが立ったーーなんて言えるか。
短くて長い時間は始まったばかりだ。
2016・5・20。
AM2:10。
友也さんと花梨ちゃんが病院にようやく到着した。
入口がわからなかったらしい。
駐車場まで俺が迎えに行く。
雨は止んでいた。
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