平凡村娘と破天荒令嬢の崖っぷち公国再建記

やちまた

幕間の章

夕焼けに染まっていた詩

 風に揺れるルピナスの青い花が、夕焼けに染まっている。

 大粒の花弁がふっくらと実をつけるように咲き誇っており、それは隣に生えたものもそう。そしてまたその隣に生えたルピナスも。

 見渡す限りのルピナスの花畑が、波を作って風を運んでいる。

 一人の人物が、その大海原の中に立って夕日を眺めていた。


「 『ひとつは おんに むくいるため』 」


 口ずさんだその詩は、彩り豊かに荒涼としたこの場所に染み込んでいくように、風と一緒に、消えていく。


「 『ひとつは かこを あがなうため』 」


 かぶったフードからは黒い三つ編みの髪が垂れ下がり、潤った唇から世界に生まれ紡がれた声は、聴く者にまるで中性的な印象を与えることだろう。

 

「 『ひとつは ししゃを とむらうため』 」


 ふいにひときわ、しかしわずかに、強い風が吹いた。

 耳に空気のこじれる音がひゅるると鳴っている。

 草花がざわめき、それとともに一人の人物も詩を吟ずるを止めた。

 そしてその場で振り返った先に、まだ年端もいかない少女が立ちすくんでいた。


「……きれい」


 少女は見惚れていたのだった。場所に。時間に。相手に。光に。

 この景色のすべてが、少女の目をくぎ付けにする。


「でしょ」


 マントについたフードをかぶったその人物が自慢げに言う。

 少女は大きくうなずいた。

 その日から花畑は、少女のものになった。

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