4章

第15話 ガンダ・ダンジョン①

 「よーっし、準備は良いな、てめぇら!」


 ガンダ・ダンジョンへのゲートを前に、アルスさんが僕らに振り返って威勢よく尋ねてきた。


 ……準備は……大丈夫かな? ……今さらになって不安が襲ってきた……。


「おいニシヤム、何だその顔はぁっ」


 アルスさんが僕の顔をのぞき込んでくる。


「ああっ、大丈夫ですっ」


 一歩下がって逃げながら言った。


 そうだ、不安になってどうするっ。


「行くぞ、皆ぁ!」


 アルスさんが歩き出す。僕も続いて強く歩き出した。


「おーっ」

「おーっ」


 ノーノさんとマリーさんが一緒に手を突き上げ、声を上げる。


「あ、おーっ」


 カルロ君が遅れて照れながら、掛け声を小さく上げた。


 僕らはアルスさんを先頭に、一列になってガンダ・ダンジョンへのゲートを潜り抜ける。


 一気に視界が暗くなる。


 ……夜なのか。


 視界に、深い森の中に入っていく舗装された立派な道が見えた。


「なんでこんな道が……」

「それはねっ、フェニッグの体液を取るために国が作ったの」


 マリーさんが僕のつぶやいたのを聞いて、教えてくれた。


「そうなんですか、じゃあおもったより楽そうだ」


 と僕は、空を見上げる。


 ……すごいデカい満月が浮かんでいる。


「時間がここでは夜なんですね」


 僕がつぶやくと、マリーさんが否定してきた。


「違うよっ。ガンダ・ダンジョンにはねーえっ、ずっと夜なの。ずっと満月が出続けて、あれだけが光源なんだよっ」


 僕はカルロ君としっかり手をつないでいるマリーさんを見る。


「へぇ、そうなんですか、詳しいんですね。失礼だけど意外だ」

「へへへ、ふふふ、へへへ」


 マリーさんが嬉しいのか、とろけたように笑った。


「マリーは俺らの辞典係だっ、よーしっゲートの裏は崖みたいだから、この道を真っ直ぐ行くしかないみたいだな」


 アルスさんがゲートの後ろを覗いて、うんうん頷いている。


「プリシラさんもここを通ったのは間違いありません。1ギロロ先の洞窟を探したはず……」


 僕は道の先を望んだ。


 しかし道は鬱蒼とした森で遮られて先は見えない。


「この道沿いに行けば、良いんだよね……」

「じゃあ皆ぁっ、急いでこの道を行くぜぇ。モンスターに気を付けろよぉ」


 アルスさんが剣を引き抜いた。


「先頭は任せろ、戦闘慣れしてないニシヤムは後方で警備だ、わかったな」


 そう言って歩き出す。


「ふふっ、アニキはあのピカピカ鎧だからさー、良いおとりになんのー」


 ノーノさんが僕に耳打ちしてきた。それから、いたずらな笑顔でアルスさんの後についていった。


「私はマリーとカルロ君に付きっきりで護衛してあげんねー」


 とノーノさんは、マリーさんとカルロ君を呼んで、自分の傍から離れないように指示する。


 僕も皆の後を歩いて行った。


 とアルスさんが振り返る。


「ニシヤム、後方にいるけど何かあった時はすぐに駆けつけ前線に出るんだぞ、わかってるな」

「え? ああ、もちろん」


 僕の返事を聞くてアルスさんが前を見て、歩き出した。


 ……まさか、怖がってるのか?


 アルスさんは剣を構えながら歩いている。


 僕は嬉しくて、ニヤニヤしてしまった。


「このダンジョンのモンスターってどんななのー?」


 ノーノさんがマリーさんに尋ねる。


「さすがに知らないよ、でも上位ダンジョンだから強いよ。アニキ、しっかりしてよっ」

「あん? 誰に向かって言ってんだ?」


 アルスさんが剣をブンブン振った。


「来るなら来いってんだ!」


 その瞬間、森の中から大きな影が飛び出してきた。


「キェェェェェェェエッ!」


 人の背丈ほどある猿みたいなモンスターが雄たけびを上げる。


 団子鼻のヒクヒクして、僕らを嗅ぎだした。


 アルスさんが固まったまま動かないでいる。


 やばい、助けに行かないと。


 とおもったが、僕も怖くて動けずにいた。


「キェェェエッ!」


 モンスターがサーベルをアルスさんに振り下ろす。


「おおおおおおっ」


 アルスさんが声を上げた。


 甲高い音が響く。


 アルスさんは、ギリギリのところで振り下ろされるサーベルを受け止めた。


 受け止めたアルスさんの剣が、プルプル震えている。


「ぐっ重いぃぃぃぃぃ、おいノーノ! ニシヤム! 何やってんだ!」


 マリーさんがカルロ君を抱いて後方へ走っていった。僕はハッとして剣を引き抜く。


 ノーノさんが勢いよく飛び出して行った。


「くらえっ、せいやぁぁあっ」


 勢いよく飛んで、飛び蹴りをモンスターの顔面に向けて繰り出した。


 しかし、


「ギェエッ!」


 サッとモンスターは首を傾け、楽々躱す。ノーノさんは勢いそのままに、モンスターの背後に飛んでいった。


 ……なにやってんだ……。


「よくやったぁ!」


 アルスさんが叫ぶ。


 なんでだ?


 見ているとアルスさんが受け止めていたサーベルを受け流し、モンスターへと斬撃を繰り出した。


 モンスターの目は、ノーノさんを追いかけて後ろを見ている。


 アルスさんの剣がモンスターの体を切り裂いた。


「ギャァァェェェェェェェエッ!」


 モンスターから血が噴き出た。痛がる悲鳴が響く。


「うるせぇっ」


 アルスさんが剣をモンスターの首に振り下ろし、とどめを刺した。


「いやービビったーっ」


 額の汗を拭き、剣を鞘に納める。


「アニキ―ッ、楽勝だったねー」


 ノーノさんがアルスさんに抱き着いた。


「おうノーノ、良い囮だったぞ」

「へっへー、まかせてよー」


 すげー、この人ホントに強かったんだ……。


「おいニシヤム、てめぇ何の役にも立たないじゃねーか! しっかりしろ!」


 アルスさんが怒鳴って来る。


「すいません」


 僕は刀を鞘に納めた。


「カルロ君、もう大丈夫だよ」


 マリーさんがカルロ君に安心するよう優しく言っている。


 カルロ君はすごく怯えている様子だった。


 ……ほんとにしっかりしないと……何やってるんだ僕は……。


「さっ、気を引き締めていくぞーっ」


 アルスさんが歩き出す。


 僕はまた、一番後ろをついていった。


 いつもの言動があれだからアルスさん達を馬鹿にしてたけど、意外にやるんだなぁ。


 そういや、いつも攻撃力を自慢してたな……。


 ステータスはどのくらいなんだろう。僕より高いのか低いのか……。


「ギャァァス!」

「キェェェェ!」


 先の森で、モンスターの雄叫びが聞こえてきた。


 僕はいつでも戦闘に移れるように、刀の柄に手を置く。


 ……プリシラさんも、ここを通っていったのか……。


 カルロ君の後姿をふと見た。


 ……無事でいてくれよ……。

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