第3話 一方その頃、ギルドでは ➁
「ちょっと良いかしら」
モニカは話しかけられた。
「……何で……しょう?」
受付にやって来たのは、女の子だった。モニカは見慣れない子供の姿に戸惑ってしまった。
身長110ゼンヂメドルくらい……12才くらいかな……。
赤髪のツインテールの女の子は、仁王立ちでモニカを見上げている。ぶかぶかの革の防具を着て、レイピアを腰に差していた。
「今日、すぐ終われる依頼を下さらない? モンスター退治限定ね」
「えっと、冒険者の、方、でしょう、か?」
モニカは訝しく女の子を見つめる。
「そうよ、見りゃわかんでしょ」
女の子はムスッとして言った。
「見た感じだと、かわいい女の子ですけど……」
……なんなんでしょう、この子……。
「ぐぐっ……じゃ、さっさとポファルをかけてみなさい」
女の子は怒りを抑えて、ぶっきらぼうに言った。
「そんな失礼なマネ、良いんですか」
「許すわ」
「……は、はい、では失礼いたします……」
さっと、モニカは両手をプリシラに向かって広げ、魔力を高めた。
「……ポファル」
小さく唱えた詠唱がトリガーとなり、魔力が状態変化する。
モニカは両手の平を合わせた。瞬間、手の平の間から靄が出てくる。
ゆっくりと手を広げ、靄を広げた。うすい靄は手に合わせて大きな四角い形になる。
モニカは、靄の表示板に浮かび上がる文字を確認していった。
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名前:プリシラ・ペルヴィス
年齢:20歳
権能:冒険者10級 剣士1級
種族:チピット族
性別:女
体 力:258
魔 力:193
攻撃力:211
耐久力:115
敏捷力:616
精神力:277
スキル
剣術 LV43
ペルヴィス剣術技 風勁 火勁 水勁 土勁
魔法
ポファル チュナ
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「冒険者でしたか、申し訳ありませんっ」
モニカは慌てて頭を下げた。その姿を見たレーナが背後からステータスをのぞき込む。
「しかもすごい高いステータスです! えっとお名前は、プリシラ・ペルヴィスさん」
モニカは驚きながらステータスを確認していった。それがピタッと止まる。モニカは1点を見つめて、見間違いかと自問していた。
「……て、えっ20才!?」
モニカが驚きながらもタグの種族の欄を見ると、チピット族と書かれていた。
「ああ、チピット族の方! ……なのですか、だから……」
……チピット族と言えば……遥か東方に住んでる種族の、ですよね……珍しい……。
ホントに小柄で、たしか大人でも身長は130ゼンヂメドルほどしかないんでしたっけ……。
「そうよ、まったくどこも子ども扱いして、私は大人なんだからっ」
「すいません。チピット族の方とは、初めてお会いしたもので」
モニカは頭を下げる。
「分かればいいのよ、で、何か依頼ないの。今日、すぐ終われるので、モンスター退治よ」
「えっと……確認しますね」
モニカは受け付け横のボードに何も依頼が貼ってないのを確認すると、受付の後ろにある小さな部屋に入っていく。
ギルドに来た依頼は査定され、難易度ごとにボックスに入れられ、この部屋の棚に収容されている。
ここにはギルドに来た依頼のうち人気のないもの、またはその日のうちに来て、まだボードに貼っていない依頼が置かれていた。
……10級でしたから……。
10級冒険者は、難易度10級の依頼カードをパラパラめくって見ていく。
しかし、今日中に終われるものはなかった。
……難易度を上げますか。
しかし9級にも、ダンジョンのマップ制作、鉱石採掘など、何日もかかる依頼しかない。
……すぐ終われそうなものはもう全部、取られちゃってますね……。
何日も報酬なしで活動できるほど、貯金している冒険者は少なかった。
……皆さん、日銭を稼いでバーッと使うような方ばっかりですからね……朝のうちに全部取られてますね……。
モニカは9級、8級と順に見て回って、7級の棚にまで来た時だった。
……あ、これは数時間で終われそうです。しかもモンスター退治……。
ああ、でも……級が3個も上の依頼は受けないかもしれません……が一応、伝えましょう……。
「7級の依頼にありました。最新のもので、メイ・ダンジョンの安全移動圏にスライムの大群が現れた、とのことで、今すぐ向かってほしいそうです」
「良いわね、それ引き受けてあげるわっ」
「えっ良いんですか、10級の方が7級の依頼なんて……大変危険だと思いますけどっ」
モニカは驚いて言うと、プリシラの眉がぎゅっと寄った。
「良いのよっ、うるさいわねっ」
瞬間、モニカの手から依頼カードが消える。
あれ!? 消えました!?
モニカが驚いていると、依頼カードはプリシラの手の中にあった。
「すげー……」
隣で見ていたクリスが感嘆の声を漏らす。
「なになになにー!? なくなったと思ったら冒険者さんが持ってるーっ」
レーナが目を丸くして、プリシラの手を指さした。
「え? え? え?」
なぜカードが消えたのか、わからずにいるモニカがあたふたし始めた。
「え、何があったんですか!? カードが一瞬で消えましたよ」
レーナとモニカが騒いでいると、クリスが口を開いた。
「とんでもない速さで、モニカの手から抜き取ったんだよ……」
「あら、なかなかやる人がいるわね、ここの受付嬢さんは」
プリシラが微笑む。
――ガタガタッ。
「きゃっ」
またブラック・カタツムリの殻が一瞬震えたので、モニカは思わず飛び退る。
「やっぱ生きてんじゃないのー、それー!」
レーナが怖がって、またクリスの後ろに隠れた。
「ははは、そんなわけあるか。脊髄神経の暴走……てっわあぁぁぁあああ!」
殻の中からブラック・カタツムリが出てくる。
2つの角を動かしながら、ネバネバした体が這い出てきた。
「きゃあぁぁぁぁ!」
モニカは悲鳴を上げて、クリスの後ろに隠れる。
クリスは立ち上がり、
「あの金ぴか野郎、仕留め切れてねーじゃねーか」
愚痴を言いながら、両拳を握り構えた。
「誰か冒険者さーん! 助けてよー!」
レーナが恐怖で涙を流しながら叫ぶ。
「私がやるわ」
プリシラが微笑んで、おもむろにレイピアを抜いた。
トンっと飛び跳ねる。
次の瞬間、ピシッと空気の切れる音がギルドに響き渡った。
「終わりましたわ」
プリシラがレイピアをしまい、
「じゃ、この依頼は私に任せといて。弟のためにも張り切ってやって来るわっ」
そう言い捨てて、踵を返し颯爽とギルドから出ていく。
シーンと、ギルド内に静寂が広がった。
その場にいた全員が、プリシラが終わったといった意味が良くわからずにいる。
……と、その時だった。
――ガタガタッ。
またブラック・カタツムリの殻が動いた。
しかし、動いたと思ったら真っ二つに割れる。2つの角を持ったネバネバした体が萎れるように倒れて、死んでしまった。
「斬ったの? クリス? 何にも見えなかったよー……」
何が起こったかわからないレーナが尋ねる。
「……そうだろうな……とんでもないのが現れたぞ、おい……今度は全く見えなかった……」
クリスがつぶやいた。
「さっきね、覗いたら、敏捷力値が616……あったよ……」
レーナがつぶやく。
「何だって!? すげぇ……一国の将軍クラスじゃないかよ」
クリスが息を飲んだ。
モニカは言葉が出ずにいる。両足を内股に閉め、少し漏らしてしまったことを感じていた。
――それからというもの、ギルドでは新たにやってきたプリシラというチビット族の噂で持ちきりになった。
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