17:新たな人生に幸あらん事を
私がタダヒサであるとヘルアタック家で告白した後、それは当然に通信魔具によって国王や王女にも伝わる運びとなった。
ハクトがルミス国、国王であるガルシア・グロリア・ルミスに報告した為だ。
本来であれば、国を上げて、また聖女や勇者も参列して祭事を執り行う程の出来事であるとの事で、ハクトは王との謁見前に伝える緊急性の高い話だと判断したからだ。
その一報を聞き、ガルシアは告げる。
「それは事実なのか? 証拠もあるのか? ジヒト君がタダヒサ様である事が事実だとすれば、謁見後に直ぐに国を挙げての祭事を行う準備が必要だぞ?」
「しょ、証拠……見た目と雰囲気は確かにホウジョウ様ですが……」
そこでソーニャに言われていた事を思い出し、腕を見やる。
確か、加護の紋は念じれば浮かび上がるとの事だったが……
お、確かに徐々に浮かんできているな。
これで証拠と成れば良いのだが、どうだろうか?
「ハクトさん、これじゃ証拠になりませんか?」
再度念じた両腕には二柱の加護の紋様が今度はくっきりと浮かび上がっていた。
ハクトはそれを見ると固まってしまい、何も言わなくなってしまった。
さすがに不安になり、ハクトヘ声をかける。
「ハクトさん? これじゃ、ボクがタダヒサであるとは言えないですかね……」
「め、滅相もございません! 二柱の加護を受けている方はいません! その方がタダヒサ様だと仰っているのですから、それはタダヒサ様である事の立派な証拠です」
ハクトは慌てて伝えてくる。
大声で話した事でガルシアにも伝わった。
「ハクト。そのジヒト君には二柱の女神、ソーニャ様にルーティア様の加護の紋があるのだな……そうか……本当に戻って来られたのですな……」
しみじみと言うように呟くガルシアの声。
「亡くなられた時、亡骸すら残らずにさらさらと消えてしまったと娘から泣きながら聞いていましてな……よくぞお戻りになられました……タダヒサ様」
ガルシアの言葉にハクトがまた涙を流し始めてしまう。
涙を流し言葉を出せなくなったハクトに変わり、直接私が受話器越しに言う。
「国王陛下、戻って参りました。ボクの魂、一欠片ではありますが。無事に今の世界を見る事ができます。こんな事、通信魔具越しに言う事でもないとは思いますが」
少し笑いながら伝えた。
こんな事、言う機会も早々ないだろうが……
事実起きているのだから、少し可笑しく感じてしまうよ。
するとガルシアも笑いながら言う。
「そうだな、そうであろうな。タダヒサ様、明日は謁見の儀を急ぎ執り行いましょう。そこで改めて、感動させてくだされ。なんと目出度い事か、はっはっは」
「では明日、王城に向いま」
言い切る前にガルシアは言う。
「いや、馬車は王城から向かわせる。謁見の儀ではあるが、我々にとって大恩あるタダヒサ様なのだから」
「分かりました。それと、タダヒサではなくジヒトとお呼び頂ければ……ボクはタダヒサでもありますが記憶は失われ、今はただのジヒトなのです。私は、ボクが変えた世界を、ゆっくりと見ていきたい」
私はそう言うと、ガルシアにも言葉の裏に祭事などで自身が転生し転移してきた事を公にしないで欲しいのだという考えが伝わったのか、うむ、と返答があった。
「分かりました。貴方はただのジヒト。だが我々の間には大きな繋がりがある。それは忘れないで欲しい。他の者が居ない時は気軽に接してくだされ」
「ありがとうございます、ガルシア陛下」
「それと領主の者達には明日、謁見の儀の後に伝えさせて頂きます。何かあった時の為にも……」
「はい……よろしくお願いします。記憶が無い事も伝えて頂ければと……」
タダヒサであった時に付き合いがあれば、記憶がない事を悲しむだろうと想像して言葉尻が弱くなってしまった。
だが、これは国王陛下から伝えてもらわなければ、変に喜ばせてしまう。それだけはダメだろう。
「ほっほ、そう気になさるな。タダヒサ様が消えた時、私も悲しんだが、当然、各領主も悲しんだ。それほど過激的でありながら、安寧を求める優しき高潔な魂を持っていたからの。だが、こうして戻って来られたのだ。面影を残し、我々を覚えていなくとも、こうして……」
ガルシアはそこまで言うと、それまでの緊張を解いたかのように、徐々に涙声に代わり、涙声と鼻をすする音が通信魔具から聞こえてきた。
「我が国、そして他国に至るまで、貴方に一任した事を謝罪する。貴方に任せきりだった。後のいざこざは我々に任せ、生きてくだされ……」
そこでガルシアは言葉を区切り、好々爺が少ししわがれた声で優しくあやすように声をかけてきた。
「タダヒサであり、ただのジヒトよ。新たな人生に幸あらん事を……」
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