隣の席のあの子が今日も尊い
桜シュート
2年生:隣の席の君
第1話:隣の席のあの子が今日も尊い
「おはよう、天音ちゃん!」
朝のホームルーム開始5分前。教室に響き渡る元気な声に、私はびくりと肩を跳ね上げた。
「…お、おはよう、日和ちゃん」
挨拶をしてきたのは、クラスの中心人物、日向日和(ひなたひより)ちゃん。太陽のような笑顔が眩しい、学年でも1、2を争う人気者だ。
対する私は、地味で目立たない、どこにでもいる普通の女子高生、雨宮天音(あまみやあまね)。日和ちゃんとは住む世界が違うと思っていたのに、どういうわけか高校2年生になってから、ずっと隣の席なのだ。
「天音ちゃん、今日も可愛いね! その髪型、すごく似合ってる!」
日和ちゃんは、私のボサボサの髪を指さして、キラキラした目で褒めてくれる。いやいや、本当に適当に結んだだけだから! むしろ寝癖がひどくて誤魔化しただけだし!
「そ、そんなことないよ。日和ちゃんこそ、今日も輝いてるね…」
精一杯の言葉を返すと、日和ちゃんは嬉しそうに微笑んだ。その笑顔が破壊力抜群で、心臓がドクンと音を立てる。
(…やばい、今日も尊い)
日和ちゃんの可愛さは、もはや凶器だ。毎日隣の席でその笑顔を見ているせいで、最近、心臓が鍛えられている気がする。
「ねえ天音ちゃん、今日のお昼ご飯、一緒に食べない?」
「えっ…!?」
日和ちゃんからのまさかの誘いに、私は盛大にむせた。ゴホッゴホッと咳き込む私を、日和ちゃんは心配そうに見つめている。
「だ、大丈夫!? 天音ちゃん、落ち着いて!」
背中をさすってくれる日和ちゃんの手に、またもや心臓が跳ね上がる。
(…近い! 近すぎる!!)
日和ちゃんの気遣いは嬉しいけれど、心臓への負担が大きすぎる。このままでは、寿命が縮まってしまうかもしれない。
「だ、大丈夫…! ごめんね、ちょっとびっくりしちゃって…」
なんとか咳を鎮めて、日和ちゃんの誘いに答える。
「お昼ご飯、一緒…? うれしいけど、私なんかと一緒でいいの? 日和ちゃん、いつも友達と一緒じゃない?」
日和ちゃんは、いつも明るくて友達に囲まれている。私みたいな陰キャと一緒にいても、つまらないんじゃないだろうか。
「もちろん、天音ちゃんと一緒にご飯を食べたいから誘ったんだよ! 天音ちゃんともっと仲良くなりたいし!」
日和ちゃんは、真っ直ぐな目で私の目を見つめてくる。その瞳に吸い込まれそうになりながら、私は言葉を失った。
「…わかった。じゃあ、一緒にお昼ご飯、食べよう」
結局、日和ちゃんの押しに負けて、お昼ご飯を一緒に食べる約束をしてしまった。約束したものの、今から緊張で胃が痛い。
(…どうしよう、何話せばいいんだろ…)
日和ちゃんと二人きりで話すなんて、考えただけでパニックになりそうだ。
授業中も、日和ちゃんのことで頭がいっぱいだった。先生の話は全く耳に入ってこないし、ノートには意味不明な落書きが増えていく。
(…落ち着け、雨宮天音。ただのお昼ご飯だ。普通にしていれば大丈夫…!)
自分に言い聞かせながら、なんとか授業をやり過ごした。
そして、ついに待ちに待ったお昼休み。私は、緊張でカチコチになりながら、日和ちゃんが来るのを待っていた。
「天音ちゃん、お待たせ!」
日和ちゃんは、いつもの笑顔で私のところへやってきた。
「…ううん、全然待ってないよ」
平静を装って答えたけれど、声が少し震えていたかもしれない。
「今日は、屋上で食べるのはどうかな? 天気が良いし、気持ちいいと思うよ!」
日和ちゃんの提案に、私は頷くしかなかった。屋上なんて、今まで一度も行ったことがない。なんだか、ドキドキしてきた。
屋上への階段を上りながら、私は日和ちゃんの後ろ姿を見つめていた。サラサラの髪が風になびいて、とても綺麗だ。
「…日和ちゃんって、本当に可愛いな」
思わず心の声が漏れてしまった。
「えへへ、ありがとう! 天音ちゃんに褒められると、すごく嬉しいな!」
日和ちゃんは、照れくさそうに笑った。その笑顔が、また一段と可愛い。
屋上に着くと、想像以上に景色が良かった。青い空と白い雲が広がり、遠くには山々が見える。
「わあ…! すごく綺麗…!」
思わず感動して声を上げると、日和ちゃんは嬉しそうに微笑んだ。
「でしょ? 私、ここの景色、すごく好きなんだ。天音ちゃんにも見せたかったんだ!」
日和ちゃんは、お弁当を広げながら言った。
「…ありがとう、日和ちゃん」
日和ちゃんの優しさに触れて、胸が熱くなった。
お弁当を食べながら、私たちは色々な話をした。日和ちゃんの好きな食べ物や、最近ハマっていること、将来の夢…。
日和ちゃんは、私の話を興味深そうに聞いてくれた。普段はあまり人と話さない私でも、日和ちゃんと一緒だと、自然と色々なことを話せてしまう。
「天音ちゃんの話、すごく面白いね! もっと色々聞かせて!」
日和ちゃんは、キラキラした目で私を見つめてくる。その視線に、またもや心臓がドキドキと音を立てた。
(…もしかして、私、日和ちゃんのことが…)
今まで意識したことはなかったけれど、日和ちゃんと一緒にいると、胸がときめく。これは、もしかして、恋…?
「…日和ちゃん」
勇気を出して、日和ちゃんの名前を呼んだ。
「ん? どうしたの、天音ちゃん?」
日和ちゃんは、不思議そうな顔で私を見つめてくる。
「…その…、日和ちゃんと一緒にいると、すごく楽しいなって…」
顔が赤くなるのが自分でもわかる。恥ずかしいけれど、素直な気持ちを伝えたかった。
「私も、天音ちゃんと一緒にいると、すごく楽しいよ! だから、これからも一緒にいてくれると嬉しいな!」
日和ちゃんは、満面の笑みで答えた。
その笑顔を見た瞬間、私の心臓は爆発しそうになった。
(…やっぱり、私、日和ちゃんのことが好きなのかも?…)
初めて自覚した自分の気持ちに、戸惑いながらも、どこか嬉しい自分がいた。
こうして、私と日和ちゃんの、少し変わった日常が始まった。
隣の席のあの子は、今日も尊い。そして、私の恋は、始まったばかりだ。
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