第17話 召喚術師、公爵令嬢と出会う

「ワンッ!」


「よくやったギンっ! 【爆裂】!!」


 森を抜けたギンの後を追うように現れたゴブリン達。それらを僕は魔術で爆散させていく。


「グオオオッッ!」


「無駄だよ。すでにそこは僕の領域だ。煌めけ【聖炎】!」


「グギャアアアアッッ!?!?!?」


 僕を背後から奇襲しようとしたオーガが、光り輝く炎によって燃やされて灰になる。


 グランドワームとの戦いから二年後。僕は七歳になった。


 この二年間で僕は属性の組み合わせ——複合魔術を完成させた。


 爆裂は火と風の組み合わせ、聖炎は火と光の組み合わせといった具合に属性を組み合わせることで今までよりも強力な魔術を使えるようになったっ!


「ワンッ!」


「この辺の魔物は倒し終わったみたいだね。ふぅ、よかった。いつもありがとギン」


「ワンワンッ!」


 僕はじゃれついてくるギンの身体を撫でながらギンのことを労う。


 この二年間でグランドワームみたいな大型の魔物は出てきていない。父さんの手伝いで魔物退治をしているけど、出てくるのはゴブリンやオーガみたいな強くない魔物達ばかりだ。


「術師様。周囲の見回りをしてきましたが、魔族の気配はどこにもありませんでした」


「お疲れ様、リリィ。けど……そうか。やっぱり完全に姿を消した感じかな?」


「はい。おそらくは。二年前の時点で姿を消したのでしょう」


 二年前に起きたミルクスの森での出来事。それとグンナル子爵が魔族と繋がっていたという事件。


 あれから騎士団や父さんは調査を続けているが、魔族の姿はおろか、魔族の痕跡すら見つからなかった。


 ただ周辺の魔物の活動が活発化し、強力な魔物が増えただけ。それからというものの、魔族の調査は一向に進まない。


「リリィ。もう少し調査範囲を広げられるかい?」


「可能です。やってみましょう」


 さらに魔力を消費させてリリィの能力をより強化させる。


 一刻も早く魔族の手がかりを見つけたい。このまま魔族を放置するのは危険が多すぎるし、何よりも父さんや母さんにとっても負担が大きい。


 領民の平和を脅かされないためにも、魔族の一件は解決させなきゃ……。


「ワンッ!」


「ソルが帰ってきたって……?」


「キルルッ!」


 空を飛んでたソルが僕の前に降り立つ。ソルは両脚で猪や鹿の魔物を掴んでいた。


「ありがとう。ソル。それを母さんに渡してあげて。後、村のみんなにも」


「キルッ!」


 ソルは僕の指示を聞いて屋敷の方へと飛んでいく。僕は近くのギンの頭を撫でながら、ギンへこういう。


「もう少し周辺の魔物を狩っていこうか。何があるかわからないことだしね」


「ワンッ!」


 ギンは尻尾を振りながら答える。僕はそんなギンを横目で見て、微笑んだ後にギンと共に森の中へと歩いていく。



***



 結局、夕方まで魔物狩りを続けることになった。魔力にはまだまだ余裕はあるが、暗くなるのと集中力が切れてきたからここで撤収することにした。


 屋敷に戻るには一度村を突っ切らなくちゃならない。今、村は騎士団の人が常にいるため、少しだけ賑やかだ。


「アルヴィン君、随分と遅い帰りだな。何かあったりしたかい?」


「大丈夫ですよ。フローデンさん」


 一人の騎士が僕を見かけるなり声をかけてくる。年齢は三十代後半といった感じの、頼りがいのある容姿をしている人だ。


「そうか、それは良かった。そういえば、いつも食糧の提供、感謝する。アルヴィン君が狩りに出てくれるおかげで、みんな随分と助かっているみたいだ」


「大したことはしていませんよ。騎士団の皆さんにはお世話になっていますから」


「ハハっ! 子供の割には随分と落ち着いているっ! おーい! 村の英雄のおかえりだ!!」


 とフローデンさんが声を上げて村のみんなにそう教える。すると村のみんなが僕のところへと集まってくる。


「アルヴィン様、ご無事ですかい? いつもいつも魔物を倒してくださりありがとうございます」


「いいですよ。いつものことですから。薬草、足りなくなったらいつでもいってくださいね」


「今度、とってきて欲しい薬草があるんだ! ラーガ婆さんのお使いついでにとってきてくれねえか!?」


「いいですよっ! また教えてください!」


「アルヴィンおにーさん! いつもごはんありがとう! これ、あげるね!」


「ありがとうミーナ。今日は随分と凝っているね」


 最近は村の人たちとの交流も増えてきた。みんな僕や父さんが守らなくちゃいけない大切な人たちだ。


 僕はミーナが渡してくれた花冠を見てふとあることを思う。


 ミーナはよく狩りや山菜の採取のお礼に花冠を作って渡してくれる。日に日に上達しているのだが、今回はいつもよりも一層作りが凝っている。


 まるで芸術品みたいな作りをしている。僕は思わずその花冠に驚いてしまう。


「やさしいおねーさんがね、つくりかたをおしえてくれたの! アルヴィンおにーさんのいえにいったよ!」


「うちに……? 誰か来る予定とかあったっけ……?」


 そんな予定聞いていない。そもそもうちにお客さんが来ること自体稀だ。


 僕が首を傾げているとフローデンさんが思い出したかのように声を上げた。


「そうだ、すっかり忘れていた。アルヴィン君、君の帰りを待つ人が屋敷の中にいる」


「屋敷の中に……って、もしかして公爵様とかですか?」


。いつもの報告会を今回は男爵領で行なっているからな」


 報告会……父さんと公爵様が定期的に行なっている会だ。魔族の痕跡を探るために公爵様の屋敷に各当主が集まって、調査結果を報告しあっている。


 でも今回はなんでここで? それに報告会って大規模だから、かなり前から準備しているはずだけど……。


「今回の報告会は少し深入りした内容でな。それともう一つの事情があってな」


「もう一つの事情……?」


「お嬢様が来られている」


 お嬢様……って、公爵令嬢っていうことか!?


 な、なんでそんな子がグリモワール領に!?


「セレシアお嬢様は君に大変興味を示しておられる。グランドワームを討伐し、日に日に力を増していく君に」


「公爵令嬢が僕に……? けど、なんでそこなんですか?」


「それはな……。お嬢様が我々にも手がつけられないお転婆だからだ。アルヴィン君、これだけは覚えておけ。お嬢様の中身は熊か猪だ」


 い、一体どういうことなんだ……? ただフローデンさんの目には真剣と書いてマジと呼びそうなほどの気迫が宿っている?


「早く行ったほうがいい。さもなければお嬢様の方が……いや、遅かった」


「え……?」


 フローデンさんの視線の先を見る。グリモワールの屋敷がある方向から一人の少女が走ってくる。それも人間の脚力とは思えないほどの力強さと素早さで。


 少女は僕の目の前で止まると、僕に体をぐいっと近付けながらまっすぐとした視線で僕を見る。


「貴方がアルヴィン・グリモワール様ですね! 早速ですが、わたくしとお手合わせお願いできませんか!?」


「は、はいっ!?」


 きゅ、急にめちゃめちゃ突飛なことを言い出していないか!? この子!?

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