第5話 召喚術師、前世の愛犬を召喚する★

「……そこまで。無益な争いはやめてもらおう」


 父さんとグンナル子爵の間にオズヴァル大神官が立って二人を制する。グンナル子爵は腕を振り払うと忌々しそうな視線をこちらに向けていた。


「グンナル子爵。このことは国王に報告する。国王様は貴き血が流れるのを好まないお方だ」


「な……っ! それはあまりにも……!」


「口を慎みたまえ。それが決定だ」


 グンナル子爵は僕と父さん、そしてオズヴァル大神官を睨みつけると、ドタドタと大きく足音を立てて台座から降りて神殿から出て行こうとする。


「おとうさま!」


「ええいっ! まとわりつくな鬱陶しい!!」


「きゃっ……!」 


 グンナル子爵は自分の子供を振り払って神殿を出る。その背中を見て、周囲の大人たちはひそひそと話し始める。


 それは全てグンナル子爵に対する嘲笑や侮蔑を含んだものだ。少女はそれを聞きながら気まずそうにグンナル子爵の背中を追っていった。


「さて、すまなかったグリモワール男爵、そしてアルヴィンよ。不快な思いをしたことだろう。私の不手際だ」


「あ、頭を上げてくださいオズヴァル大神官……! むしろ、私のような男爵家を庇ってくださるとは……!」


 オズヴァル大神官が頭を下げたのを見て、慌てふためく父さん。オズヴァル大神官が頭を上げると、僕を見る。


「……君の未来に期待している。君が何をもたらすのか、楽しみにさせてもらおう。

 これにて儀式は終了する!」


 オズヴァル大神官がそう告げて、儀式が終わる。なんだかドッと疲れた気がするぞ。


「あなた、アルヴィン。大丈夫……? 怪我とかはしていない?」


「だいじょうぶだよおかーさん!」


「流石は我が息子だ。丈夫な体を持っているみたいだな。私も特にないが……グンナル子爵め、やはりあのことが気に入らないのか」


 あのこと……? 一体何の話だろうか。


「おとーさん、あの人となにかあったの?」


「ん? ああ、アルヴィンには少し早い話だ。そのうち話してやる。さて、アルヴィン。帰ったらお祝いをして、贈り物をあげよう」


「おくりもの……? なに!?」


 誕生日以外で何かをもらうことはこれが初めてだ。サプライズに僕は不覚にも興奮してしまう。


「アルヴィンには我がグリモワール家に伝わる召喚術の魔術書をあげよう」



***



 屋敷に帰ってきた僕らは帰って早々中庭に来ていた。父さんが小さな宝箱を抱えながら、中庭へ駆け足でやってくる。


「アルヴィン。グリモワール家では女神の日を迎えた子供にこれを渡すことになっている。グリモワール家に伝わる召喚術の魔術書だ」


 宝箱の中には紫色の革で作られた魔術書が入っていた。召喚術の魔術書。僕はそれを取り上げて見つめる。


 魔術書には空白が目立つが、色んな召喚術について記載されている。魔術というものがどんなものか分からないけれど、教科書を見ている感じがする。


「女神の日を迎えた子供には魔術を教えなくちゃいけない。だからアルヴィンにはこれから少しずつ魔術を教えていくわね」


「ミルシアの言う通りだ。アルヴィンには召喚術と、自分で戦える魔術を覚えてもらいたい。先ずは召喚術でも基礎中の基礎。召喚獣との契約をアルヴィンにはやってもらおうと思う」


「しょうかんじゅう……?」


 僕は魔術書をぺらぺらとめくる。割と序盤に召喚獣との契約というページがあった。


「召喚術は契約した生物を呼び出し、使役する魔術だ。このようにな。来い! ガルム!」


 父さんがそう言って右手を高くつき上げる。すると背後に魔法陣が現れて、その中から黒い毛並み、赤い瞳をした二メートルくらいの大きさの狼が出てくる。


「こいつはガルムという召喚獣だ。俺が最初に契約した召喚獣でもある」


 威厳のある姿だ。ガルムは堂々としている。まるで父さんの相棒っていう感じだ。


「本来なら召喚獣と契約するには儀式や条件が必要になるのだが、最初の召喚獣は例外だ。最初だけ、自分の魂と最も相性がいい召喚獣が召喚される。よって儀式や条件なしに契約できるということだ」


「ぼく、やってみたい!」


 自分と相性がいい召喚獣がどんなものか楽しみだ。欲を言うなら父さんみたいに狼や犬型の召喚獣を呼び出せるといいな。


「そういうと思って準備はしてきた。慣れてきたら必要ないが、初めのうちは魔石や魔道具の力を借りることが多いだろう。これもそのうちの一つだ」


 父さんが手のひらサイズの水晶を地面に向かって投げる。すると半径二メートルほどの魔法陣が地面に浮かび上がった。


「いいか、魔法陣に向かって手を伸ばし、その書に書かれた言葉を詠唱するんだ」


「うん! え……と、【わがこえにおうじ、そのすがたをけんげんせよ】」


「あはは! たどたどしいがそれで十分なはずだ!」


 僕がそう唱えると魔法陣が眩い光を発し、まるで雷が落ちたかのように光の柱が落ちてくる。光と砂煙が晴れると、地面の魔法陣は消えていた。


 その代わりに魔法陣があった場所に大きさ三メートルくらいはある巨大な白銀の毛並みを持った狼がいた。


「なんと! 最初の召喚にして最上級の召喚獣を呼び出したか! 流石は我が息子だ!」


「フェンリル……! 凄いわアルヴィン! アルヴィンはとっても天才なのね!!」


 呼び出された召喚獣がよっぽどすごかったのか、両親は興奮の色を隠せないようだった。フェンリルっていうのか、この召喚獣は。


 それよりも僕はその姿に、過去に飼っていたペットのことを思い出す。白銀と白とでは毛並みは全然違うが、でも、どこか面影を感じて僕は呟いてしまう。


「ギン……」


 と言ったところで何を言っているんだろうかと僕は思う。僕みたいに転生したみたいなケースは稀だろうに。


「ワンっ! ワンっ!」


 何も反応されない。そう思っていたはずなのに、フェンリルは明るい鳴き声で僕へと近寄ってくる。フェンリルは僕の傍に近寄ると、少しだけかがんで、自分の頬を僕の頬へとこすりつけてきた。。


「クゥーン!」


 それはまるで前世に飼っていたペット、ギンのような仕草だった。本当に、同じだというのか……?


「ギン……。ギンっ!」


「ワンっ! ワンっ!」


 ギンと呼ぶと嬉しそうに尻尾を振りながら反応してくれる。ここで確信した。


 ああ、これはギンなんだって。父さんは言っていた。自分の魂と最も相性がいい召喚獣が召喚されると。それに父さんは過去に僕の魂を召喚したとも言っていた。


 もちろん偶然の一致という可能性もあるだろう。それでもギンは僕の呼びかけに応じて召喚された。それだけでもすごく嬉しい。


 僕はギンの身体を抱きしめて、この再会を心の中で噛み締めると同時にあることを思う。


 それは今日の儀式での出来事だ。僕は暴力を振るおうとしたグンナル子爵の前で何もできずにいた。


 あんな無力さを味わうなんて嫌だ。僕は家族を護りたい。


 ギンと一緒ならどんな困難でも乗り越えられる! だから僕は大好きな家族を守るために精一杯努力するんだ!


 僕はそう心に決めるのであった。



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