第9話 『文化祭は恋の戦場』


体育館のステージではバンド演奏が鳴り響き、模擬店の甘い匂いが校舎中に漂っている。文化祭の賑わいの中、悠真はクラスの出し物であるメイド喫茶の準備を手伝っていた。


「悠真くーん、注文いい?」


声の主は千明だった。


「……お前もメイド服着てるのか」


「なにその反応! ほらほら、可愛いって言ってくれなきゃ! それとも——私のこと意識しちゃってる?」


「はいはい、可愛い可愛い」


「ちょ、適当すぎるでしょ! これはもうカップルの会話だわ〜!」


千明はいつものように距離を詰めてくる。悠真は軽くため息をついた。


「で、何を注文するんだよ」


「んー、じゃあ悠真のオススメで!」


「適当だな……」


悠真が注文を取りに行こうとすると、近くで玲奈と直樹が何やら話しているのが耳に入った。


「ねえ、千明ってさ、なんであんなに悠真にばっかり絡むんだろう?」


「そりゃ、からかいやすいんじゃない?」


「でもさ、千明って本当に誰かを好きになったら、逆に距離を取るタイプなんじゃないかって思うんだよね」


その言葉に、悠真の動きが止まる。


(千明の“当たり屋”って、もしかして……)


思い返してみると、千明はいつも悠真の言葉を拾い上げ、冗談めかして距離を詰めてくる。まるで、わざとふざけているように。


(本当に好きな人に対する……防衛策?)


そんな考えがよぎった瞬間、千明が目の前に顔を近づけてきた。


「ねえ、悠真? もしかして今、私のこと意識しちゃってた?」


「なっ……別に!」


「ふふっ、怪しい怪しい〜! ほらほら、意識しちゃったなら素直に認め——」


「注文持ってくるから、ちょっと黙ってろ!」


悠真は誤魔化すように背を向け、カウンターへと向かう。


しかし、千明の顔を見るのが少しだけ気まずく感じたのは——気のせいではなかった。


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