第2話 『君のツッコミは愛の告白』


新学期二日目。


昨日の転校生・千明の“当たり屋ムーブ”によって、悠真の学園生活は早くも波乱の幕開けを迎えていた。


「悠真、なんかもうお前ら付き合ってんじゃね?」


朝のHR前、悠真の肩を叩きながらニヤつくのは幼馴染の直樹だった。後ろの席の玲奈もクスクスと笑いをこぼしている。


「誰が付き合ってるか!!」


悠真が全力で否定したその瞬間、すぐ隣から声が飛んできた。


「……えっ、今私に“誰が”って言ったよね? つまり、私と誰かの間に可能性があるってこと?」


「はぁぁ!?」


振り向けば、すでに千明がそこにいた。どうやら彼女の得意技は“どこからともなく現れる”ことらしい。悠真は頭を抱える。


「ちょっ……お前、どこから湧いて出てくんだよ!」


「悠真の近くにいるのが、当たり前になりつつあるってことかな?」


「違うわ!!」


悠真が否定する間もなく、千明は満足げに頷く。


「ね、ほら、やっぱり。悠真、すっごい私にツッコミ入れてくれるじゃん? これってつまり……」


「いや、つまりも何もない!」


「……私のこと、めちゃくちゃ気にしてるってことだよね?」


「してねぇ!!」


「えー? でもさ、好きな人って気になっちゃうものじゃない?」


「その理論なら俺はクラス全員のこと好きってことになるんだが?」


「うん! つまり悠真は私のことも好きなわけだ!」


「お前マジで会話の流れ捻じ曲げる天才か!?」


悠真の叫び声に、周囲のクラスメイトたちが吹き出す。


「悠真、もう観念しろよ……」


「毎日これ続くなら、もういっそ認めたほうが楽かもな……」


玲奈や直樹が肩をすくめながら笑う。悠真はぐっと拳を握りしめた。


(こんなのに屈するわけにはいかねぇ……!)


千明のペースに乗せられたら最後、俺の平穏は消し飛ぶ。絶対に、絶対に負けられない戦いがここにある。


しかし、その決意を見透かしたように、千明は悠真の肩を軽く叩き、にっこりと微笑んだ。


「ま、これからもよろしくね、悠真♪」


悠真はその笑顔を睨みつけるが、千明はまるで気にした様子もなく、楽しそうに教室の自分の席へ戻っていく。


「……はぁ。マジで俺、今年一年無事に過ごせる気がしねぇ……」


悠真が深くため息をついたとき、ちょうどチャイムが鳴り響いた。


こうして、千明の“当たり屋ムーブ”は、今日も悠真の平穏を破壊し続けるのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る