第15話 このくらい当たり前

千門からの攻撃の、ナイフ、拳銃、蹴り、拳を避けつつも、大和と凜は二人で応戦していた。二体一で戦っているため多少は大和たちに利があったが、千門も負けてはおらず、現にこれまで眠らせられていない。

それでも責められているのに、千門の表情は余裕そうで二人は警戒していた。

最も警戒しているのは、先ほど大和に爆弾を渡したあの少女。


『とりあえず今わかってる情報。千両千門。懸賞金5000万。千門は応用性がめっちゃ高いみたい。3、4年前くらいから女の子と一緒にいて、多分さっきの子だよ。武器を色々隠してて、次々持ち替えて敵を翻弄するタイプのスパイ。両利きだから気をつけて!』


凜が千門の首に向けて棒手裏剣を伸ばすも、千門は体を捻りその針先は届かない。

大和が動きを封じようと低く回し蹴りをするも、千門は細い路地ということを生かし、ジャンプして少し高いところで壁をキック。またその上でキック。ということを4回ほど繰り返して建物より高い位置に出た。

そのまま屋上に降り立つと、手に持った手榴弾の栓を抜いて下に落とした。

大和と凜は慌てて逃げるも、分断されてしまい、また強風と共に煙幕が広がった。


「大和‼︎」


見えなくなった視界の中、凜が思い切り叫んだ。


「さっきの女の子、まだ近くにいるはず!人に危害を加えるかもしれない!大和はそっちを追って!」

「分かった!」


大和のいる位置は、少女が逃げていった方向の近くだった。

大和は急いで体の方向を変えて走っていった。

それに応えるかのように、千門は降りて凜を見据えた。


「こんにちは。東雲凜……連合の裏切り者さん」

「口が御達者なようで」

「ハハっ、流石にこんくらいの挑発には乗らないか。マジのバカではないみたいだな」


(何が言いたいんだよ)


凜は冷静なフリをしている瞳から、千門の様子を念入りに観察していた。

一対一では、どちらが有利かは分からない。

ただ、なんとなくこのまま戦っても負ける気がする。


「でも、相棒を逃して良かったのかよ。突然の襲撃。ってことは相手は準備万端。一方あんたらは丸腰。これ、分かってるだろ?」

「知ってる」

「ふーん。前まで敵だったくせに、仲良しごっこか」


そんな会話を楽しむような千門の動作を見て、凜は一言、発する。


「なんでそんなに時間を稼ぎたそうなの?」

「…………」


凛が言うと、ヒラヒラとした笑みをピタリと止めた千両は、真顔に戻って居心地が悪そうに眉を顰める。

(さっき見た感じ、あの女の子はそこまで強くない。大和なら一瞬だ。なら、早く僕を倒して救援に行きたいはず。なのに、なぜ時間を稼ぐような真似をする?僕も大和と戦いたいとは思うけど、さっきはそれで攻められていた。ならいっそ、一対一で早めに決着をつけるべきなのか)

凜は一息つくと、左足に力を込めてダッと駆け出した。



◇◆◇◆



彩芽からの情報を聞いた。

三、四年も一緒にいるにしろ、あの少女の狂気は以上だった。


大和は少女が逃げていったと思われる方向へ急いでいた。

あの小さな体では、すぐに大和に追いつかれてしまう。ならば、逆にそれを活かして、人混みの中へ行くのではないか?というのが今の考えだ。

廃れたゴミ箱を通り過ぎて、大通りに出る。大和が通り過ぎると、そのゴミ箱の中からそっと少女が顔を覗かせた。

しかし、大和は気づかず人混みを探していた。


「どこ行った……?」

『─── 大和?見つかりそうっ?』


今回は、離れてしまった時のためにある一定の距離以上になると、凜とも喋れるように設定してある。

少し息切れしているあたり、戦闘が始まっているのだろう。


「ごめん、見失った。そっちもどる」


と、その時、後ろからガサガサと音がして振り返ると、さっきの少女がゴミ箱を倒して出てきていた。


「……いた」

「千門さんの方には……行かせない……」


大和が近づこうとすると、少女が年不相応の恐ろしい形相を浮かべて、大和を睨んでいた。

その様子に大和は少したじろいでしまうが、すぐに表情を元に戻し、背を向けて逃げ出した少女を追いかけに走る。

年齢でいえば、小学生と中学生。すぐに捕まえれるかと思いきや少女は小回りがよくきいて、建物の角をすぐに曲がってしまうため、未だ捕まえられずにいた。


大体、16歳にならない子供には手を出してはいけない。

セーフラインは曖昧で、捕えるぐらいならいいが、体に一生物の傷を残すようなことをすれば、連合の上層部が直々に殺しにやってくるとか。


『九鬼くん。すみません、女の子が武器を持ってるかは分かりません。気をつけてください』


と、その時、一瞬少女が足を滑らせて、体勢を直すために地面に手をついた。

再びスタートを切ったが、それでも始めなので先ほどまでの速さではない。

再び足をつく前に、その隙を好機なので大和は少女を眠らそうと、少女の足に刀を向けた。


『大和くん‼︎銃!』


彩芽に言われて気づく。

あと数センチで刃が少女の足に届くという時、少女は右手にポップな色合いの拳銃を持っており、それを刀を持つ大和の右手へ発砲していたのだ。


「ッッ」


(武器持ってたのか)

驚いた大和は、ハッタリの武器の可能性も考慮しながらも、腕を引いていた。

しかし、発砲音も本物ほどの大きさ。

そして弾丸は、大和の手の甲の辺りに掠り、紅の血を撒き散らした。


「いっ……!」


思わず刀を離し、右手を抑えて疼くまる大和を、少女が見下ろしていた。


『大和くん……っっ』

『大和?どうした?』


インカムから彩芽と凜の声が聞こえる。


「千門さんの邪魔をしたんだから、このくらい当たり前」

「……年上を、舐めない方がいい」


虚な目の少女の声を聞き、大和は汗をかきながらニヤリと笑う。


「へっ?」


大和は少しひいた少女の足を左手で掴んで、思いきり転ばせた。

見事少女は手をついて転び、大和は右手を庇いながら彼女に近づいた。


「きゃっ!来ないで!」


抵抗しようとする少女の力は、ほとんどない。

少女の両手を左膝の辺りで痛くない程度に抑えて、左手で右手をサポートしながら、彼女の顔に近づける。


「やめて!いやぁっ。ゆめは!ゆめは!」


その苦痛な顔を見て、大和は一瞬動きを止める。

しかし、少女は敵だ。

見逃すわけにはいかない。


大和の右手の血、数滴が、少女の口に入る。

彼女が血を吐き出さないように左手で口を抑える


「ンンッッ‼︎」


涙目で対抗していた彼女は、やがて目を瞑り、瞳から涙が流れた。

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