第12話 ゆめよみまくら
「ローズ?……ローズ!」
「はっ!?す、すいません寝てました……」
ギルドへ納品の為にやって来るとローズがカウンターで寝ていた。
そのまま寝させておこうかとも思ったけど、納品の依頼はできるだけ早くと頼まれていたもの。
そして納品にはもちろん手続きをしなきゃならないので体を揺らして起こした。
「どうしたの。寝不足?」
「そうですねー。新しく本を手に入れまして。それを夜遅くまで読んでたら寝れなくて」
あははと笑いながら言う彼女の目の下にはくまが出ている。
「夜更かしか。まだ若いんだから早く寝ないと美容に悪いよ?」
「そうなんですけど夜になると逆に眠くなくなるんですよね」
完全に昼夜逆転してるな。
「治しなさい。受付嬢なんて完全に日が出ている間の仕事で冒険者に明るく対応しなきゃなんだから」
この村は周囲の村から離れているとはいえ、先日やってきた方向音痴勇者のフーシャ達のように稀に冒険者がやって来る。
「そうなんですよねー。何かいい方法ありませんか?」
期待の眼差しで見られる。
「……」
これは私に錬金術で眠れる道具を作って欲しいってことか。
「じゃあそうだな……2万ってとこかな」
適当に概算して値段を伝える。
「2!?そ、そこはほら、私を哀れんでボランティアってことには」
何言ってんの?
「10万」
「あー!わー!ごめんなさい!ごめんなさい!」
ため息を着く。
「私が無料の時は私から作ることを申し出ての善意の押し売りの時だけ。今回のは私に作ろか?って言わせようとしてたでしょ?そういう時はきっちりお金は貰うから」
「それでも私からは何も言ってませんし……」
ボソッと零す。
「20万」
「すいません!許してください!!!!2万!2万でどうか!!!」
カウンターに頭を擦り付けて頼まれる。
「しょーがないなー。任せなさい」
そうして眠るための道具の制作依頼を受けた。
「どんな機能が欲しい?」
「そうですね……眠りやすくなるように曲が流れる機能とか?」
「そんなの必要なく寝れるからいらない」
実は物自体ならある。
例えば先日の寝不足になりながら子育てしていた奥さん。
彼女に寝させる時に渡したりもしていた。
でも今回はお金を貰う。ならその分くらいの機能は付けたい。
「なら夢の中で本を読めるとかはどうでしょう!」
「……アリかも」
元より本を読むために起きてる。夢の中で読めるなら起きる理由は無くなる。
「じゃあその方針で作ってくる!」
「出来たよ!」
「もうですか!?」
1時間と掛からす完成した。
「元になるレシピはあったからね。それをチャチャッと改良すればすぐよ」
「さすがスフィアさんですね……。それでその完成した物は?」
「ふっふっふっ。これが夢の中でも本が読める道具!ゆめよみまくらー!」
懐から取り出す。
「おお!これがですか」
早速渡す。
「私のいたとこには枕の下に見たい夢の書かれた紙とか本を置いといたらそれの夢が見れるっていう、おまじないみたいなのがあってね。そこから着想を得たの」
「ほうほう……」
そして枕を裏返す。
「とするとここのポケットに本を入れる感じですか?」
側面に穴が空いている。
「正解!ここに入れて裏返しにして枕を使えばそのまま夢の中でも問題なく見れるってこと」
「早速今日から試してみます」
「また使い心地聞かせてね〜」
「やっほーどうだった?」
私は次の日の朝、ギルドにやってきた。
目的はもちろん昨日の枕の使用結果を聞くため。
何となく気になったのだ。
「スフィアさん!」
「よく眠れたでしょ」
あれの効果がちゃんとあることは実際に確認済み。
彼女の寝不足を充分に解消してくれたことだろう。
「眠れましたけど話と違います!」
バンとカウンターを叩きながら抗議される。
「え?」
予想外の返答に私は困惑してしまう。
「私が頼んだのは本を読む夢が見れる道具です」
「そのつもりで作ったけど……。もしかしてちがった?」
「はい!本の内容の夢を見ました!」
「あー。そっちになっちゃったかー!」
天を仰ぐ。
よりによってそうなっちゃうかー。
「これは元の依頼のものとは違うのでその埋め合わせはどうするつもりですか?」
これはもしや……?
「じゃあ作り直ししようか?」
「いえ!そういうことではなくて……ほら……」
やっぱりか。
「分かった分かった。じゃあ半額の1万でどう?」
「それでお願いします!」
お金をパッと出す。
「元から準備してたな?」
「そんなことあるわけないじゃないですかー」
目を逸らしながら棒読み気味に答えられる。
ほんと仕方ないな。
そのお金がキッカリあることを確認して受け取る。
「でも本当に本を読む夢じゃなくていいの?」
「それは本当に大丈夫ですよ」
実際100%こちらのミスである。
「実は私って読むよりその物語の世界に浸るのが好きなんです。もし、この物語が本当に起きていたら、このキャラクター達が本当に生きていたら。そんなことを考えながら読んでいたんです」
まぁ大半の読書家はそうなんじゃないかな。
でもそう考えたらこっちの方があっているか。
「ならそれでいいや。でも一つだけ忠告」
「なんですか?」
「絶対に3日連続で同じ本の夢を見ないこと!」
「え?なんで」
これだけは絶対に守ってもらわないと。
「夢と現実の境が曖昧になるから。いい?絶対に!ルール破ったらその時点で絶対に、何があっても枕は没収だからね!」
「分かりました」
昔にやらかしたこともあるからこれだけは守らせないと。
一応何日かギルドへ通い、彼女の様子を確認していたがくまも無くなり、生き生きとしている。
そして現実と夢の区別も付いている。
口酸っぱく言ったし大丈夫だろう。
彼女も「何回も言わなくても分かりますよー!子供じゃあるまいし」と言っていたしね。
そしてそこから数日後。
「一向にギルドが開かないって聞いて来てみれば……」
昼ごはんも食べ終わった頃。
村の人から昼になってもギルドが開かないと聞き、とりあえずローズの寝室に行くとぐっすりと寝ていた。
「ほら、ローズ!起きなさい!!!ローズ!!!!」
大声と共に強く揺さぶるが目覚めない。
「仕方ない、やりますか……。夢切りハサミー!」
懐からハサミを取り出す。
「はい、じゃあ罰ゲーム執行!」
ローズの前髪を掬い、ハサミを差し込む。
そしてそのままハサミを閉じるとジャキンと髪が切れた。
「ふわぁあ〜〜〜」
大きなあくびとともに目が覚める。
「おはよう」
「おはようございます……。スフィアさんがなんでここに?それにそのハサミは?」
「起こしに来たの。あとアンタを叱りに来たってのもある」
「……!?」
少しの間何故に?と言いたげに首を傾げていたが即座に理解して枕元の時計を確認する。
「…………」
その時計は1時を指し示していた。
状況を理解して顔から血の気が引く。
「さて、言い残すことは?」
「すいませんでした!」
ほんと何やってんだか……。
「3日連続同じ本使ったでしょ?」
「はい……」
「あれだけ使っちゃダメって言ったのになんで使っちゃうの」
「変えるのを忘れてしまいまして……」
「嘘だよね?」
「はい嘘です!すいませんごめんなさいなさい!」
なんでそんなすぐ分かる嘘つくのかな。
彼女の性格からして本についてのことで忘れるなんてありえない。
「じゃあ没収ね」
「あ……」
「文句ある?」
「いえ、無いです。すいません」
「よろしい」
枕から本を取り出す。
その本を彼女へ返して枕は懐へ入れた。
次からはもっと別の方法を考えるか。
「じゃあ私は帰るから」
「ご迷惑をおかけしました」
そして帰ろうとした時、懲らしめる意味も込めて一言だけ言っておこう。
「罰ゲーム」
少し口角を上げて私の額を指さしてもう片方で1度チョキンとハサミを動かして空を切る。
「……?」
なんのことか分かって居ないようだが自身の額を触る。
「ん?え?は?」
「じゃあねー」
「ちょっとスフィアさん!」
制止する声を無視して帰る。
気がついた時の顔は中々に面白いものだったな。
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