第1話 時の流れ

 あれから100年が経ちました。


 節目ってことで、これまで不定期に書いていた日記を軽くまとめてみようかな。


 転生してから1週間。

 家に置いていたこの世界の基本的な事が載っている本を熟読し、とりあえずの常識などは理解した。


 2週目。

 とりあえず挨拶も兼ねて村へ毎日通い、色んな人と話した。

 そこまで大きくない村でいい人ばかりなのでほとんどの人と挨拶をすぐに済ませることが出来た。

 皆から変な目では見られたけど、日本でも外国人がいれば注目される。それと同じことと思っておこう。


 1ヶ月目。

 錬金術をやり始める。

 錬金術の載った本はあったが大まかな説明と歴史についてしか記されてなかったので独学で開始。


 2ヶ月目。

 なぜか上手くいかない。

 どこか根本的なところが間違っているのではないだろうか。


 4ヶ月目。

 錬金術の研究を幾らしても成功しなくて飽きてきたので別の魔法の研究を行うことに。

 基礎的な魔術が載った本があったので独学にはならずに始めることが出来た。


 8ヶ月目。

 幾ら頑張っても初級魔術しか扱えない。

 どうやら私に魔術の才能は無いらしい。

 確か魔法使いたいって言ったはずなんだけどなぁ。


 9ヶ月目。

 そう言えばと思い羽ばたいてみると空を飛べた。

 しかし羽を動かすのが難しい上に私の背中にある翼は二対なので暴走して転落。

 慣れが必要。


 12ヶ月目。

 村に初めて行った頃は珍しげに見られていることが多かった。

 つまり私の姿は目立つ。

 なので今更ながら、この外見の特徴を隠す方法を模索し始めた。


 1年3ヶ月目。

 錬金術、魔法、薬学などで挑戦したが失敗。

 しかし最終的になんかウニュッという感覚で力を込めると引っ込んで隠れるというのを知った。

 もう少し分かりやすく書きたいけどウニュッとしか言いようがない。


 1年8ヶ月目。

 魔法には奇跡術や精霊術なんてものがあるらしいから、それも試してみよう。


 3年7ヶ月目。

 色々やってみたけど、できたのは簡単なものだけ。

 どうやら奇跡術と精霊術の才能も私には無いみたい。


 7年10ヶ月目。

 平和そのもの。

 村との関係も良好で村を歩いていても気軽に挨拶してくれる。

 私の姿に見慣れた。というか逆に目立つせいで村の有名人みたいになった。

 これはこれで良いな。


 10年目。

 村の人に村から離れた所で不便じゃないのかと聞かれ、道を引こうかと言われた。

 正直私は飛べるので道があっても無くてもいいのだがあった方が便利だしと思い頼んだ。

 結果としては基本徒歩で移動するし歩きやすくなったので作って良かった。


 15年目。

 この世界のアレコレを軽く知ったので、改めて錬金術をやってみることに。

 すると出来てしまった。

 来た頃にやったのとほぼ変わらない工程をしたのにどうして成功したんだろ?魔力が理由?

 よく分かんないけどいいか。


 18年目。

 この世界に来て18年、つまり前世で生きていた時間分この世界でも生きている。

 異世界生活というと創作の中のような波乱万丈な生活があるものだと思っていたけど今のところそんな事は起こる気配も無い。

 自らアクションを起こしてないし当たり前か。


 20年目。

 私が来た時とほぼ同じ頃に生まれた赤ちゃんが大人になった。

 でも私の姿はこの世界に来た時から成長も老けもしてない。

 どうやら神様に願った長生きしたいは叶っているらしい。


 27年目。

 錬金術はフィーリングでやっているせいか、もう12年もやっているのに未だに失敗してしまう。何故だ。


 36年目。

 中々に強い地震が発生。

 私の家は家具や小物が倒れただけだったが、村は耐震設計をまるでしていなかったからほぼ全ての家が倒壊した。

 私が避難指示を出してみんな従ってくれた上に救命活動も順調に進んだので負傷者は出たものの死者は0名だった。

 不幸中の幸いかな。


 38年目。

 小さな村だったので全ての家の建て直しは2年で終わった。

 ついでに区画整理なんかもして前より住みやすい場所になったと思う。


 50年目。

 村の整備をしたからか、村に引っ越してくる人がちらほらいて人口が増えた。

 村長はエルナさんのお陰だと言ってくれるが村の再建については私は手助けしただけだから人口増加は村の人達の頑張りの結果だ。


 61年目。

 アファティマ様がやってきてはかりに魔力を乗せる天秤の制作を頼まれる。

 試行錯誤の末に完成させると、それを持ってどこかへ行った。


 68年目。

 村にて流行病が発生。

 村にも医者がいて、ある程度の原因の特定まで至ったが治療薬の用意が出来ないと言われたので薬を私が作った。

 その結果病の流行は終息した。


 80年目。

 村の人口増加に伴って発展し、小さな町といっていいほどの規模になった。

 その結果、村にギルド組合の支部が設立された。

 これで外部との繋がりも増えるだろう。


 92年目。

 生活用水として引いていた川の水が突然流れなくなり、私が調査に駆り出された。

 別に冒険者もいるのだからそっちに頼めばと思ったが原因が何であれ、解決出来るのはエルナさんだけだと言われ受けてしまった。

 結局、上流の土砂崩れによって川が塞がれたのが原因だったので、川を開通させることで簡単に解決した。


 そして現在。

 ……改めてみるとスカスカでは?

 所々では中々の出来事も起きてるけどこれが起きたの100年間よ?

 しかも最後辺りになると10年とか余裕で飛ぶようになってたし。

 ……まぁ平和だったって事かな。

 そう思うことにして日記帳を閉じた。



「はい、これが傷薬でしょ、こっちが風邪薬、それと魔核」


「助かります!」


 私はギルドに納品に来ていた。


 この村も人口が増えたとはいえ僻地なのは変わらない。物流もそこまでない。


 だからこそ私が足りないものを作って売る。


 言ってしまえば何でも屋だ。


「こちらが今回の報酬です」


「どうもー」


 お金を財布に入れる。


 お金は使うよりも貯まる方が早い。


 もはや今となってはどれくらいあるか分からない。


 多分だけど、この村でちまちま売ってただけだから家一軒買える程度だと思う。


 趣味は特に無く、たまにするガーデニングくらい。


 必要なものは粗方あるし、ガーデニングで欲しいものがあってもそこまで値が張ることもない。


 つまり使い道が無い。


 うーん、今度錬金術の素材になりそうだし強い魔物の魔核でも買ってみようかな。


「……」


 そこでじーっと見られてるのに気がつく。


「どうしたの?」


「エルナさんって何の種族なんですか?」


 下から上へと見られる。


「え?」


 思いもよらない質問に素っ頓狂な声が漏れる。


「ほら、エルナさんって色んな種族の特徴があるじゃないですか。希少種だったりとかするのかなって思いまして」


「ただの混血だけど」


「……何種?」


「七……だと思う」


「ななァ!?そんな訳ありますか!どんな種族との混血でも限界値は四!七なんて馬鹿げた混血数になるなら何かしらの種族に変質するはず!」


 変質?そんなのがあるのか。


 というかそんなこと気にしたことも無かったな。


 だって困らないし村の人達も不審に思ってないし。


 結局種族の特徴を引っ込める技術も役に立ったり使ったりすることはない。


 なんせ習得した時には村の人たちは慣れていたし外からは全然人は来ない。


「そんな事言われてもねぇ」


 文句なら私をこの姿にした張本人に言って欲しい。


 変質とやらをしてないのもあの神の仕業だろう。


「なら鑑定紙です!これで証明してください!」


 すごい剣幕でカウンターに紙を叩きつける。


「なんか怖いよ?」


「いいから!」


 何を興奮してるのか知らないけどやってみるか。


 鑑定初めてなんだよね。確か紙に手をおけばいいんだっけ?


 ピカーと光ってまたすぐに収まった。


「おっ、出来てる」


 すると紙をガバッと取られる。


 私の個人情報なんですけど……?


「種族……人族、魔族、獣人族、鬼族、天使族、妖精族、竜族。確かに七種族ですね」


 机にまた置かれた紙を見る。


 種族の欄は『人族(人)、魔族(魔人)、獣人族(犬人)、獣人族(鯱)、天界族(天使)、妖精族(精霊人)、竜族(龍人)、鬼族(二鬼)』と書いていた。


 へぇー、私ってこうなってたんだ。


 この()の方は種族の中での違いとかかな?


 前にあった獣人の人だと猫の人とかいたし分けられてるんだ。


 あれ?でも。


「こんなの初めて見ました!」


「ふーん。でも確か混血した数が増えると弱くなるんだよね?」


「その通りです!」


 ズイッとこちらへ身を乗り出してくる。


「混血の方は純血と比べて二種混血は平均的能力値が半分に!三種混血の場合は3分の1となります!」


 乗り出して来た顔を押し返す。


「で、数えると8個だし8種の混血じゃないの?」


 獣人が2つ記されているが数えると八種族になる。


「良い質問です!」


 またグイッと身を乗り出してくる。


「同じ種族内で別の区分け同士の子供は種としての血が薄まってはいないので混血ではありません」


 そしてまた押し返す。


「まぁ両方の特徴が出ているのも異例ですね。基本的にこの場合でもどちらかの特徴のみを受け継ぐはずですので」


 どうやら興奮は少しさめたらしく、いつもの落ち着いた雰囲気に戻った。


「ん?というか元素適正全部持ち!?」


 そしてまた少し狂った。


「やっぱりそうなんだ」


 元素適正と書かれた欄には風、土、火、水、雷、氷と書かれていた。


「やっぱりって……。適正は1人につき1つだけですよ?なのになんで全部もってるんです?」


「さ、さぁ……?混血だからそれのせいじゃない?」


「そんな事ありますかね……?」


 納得できないと言いたげに首を傾げる。


 理由は分かっている。多分神様のオマケだろう。


「‎そんなのあっても大体の魔法は基礎的な物しか出来ないから無用の長物ってやつよ」


 魔法の才能は無く、下位魔法しか扱えないけどこれのお陰でどんな属性のものでも使えている。


 どうせなら上位魔法とかも使えるようにして欲しかったな。


「まぁいいです。他には何かおかしいところ……スキルは状態異常完全耐性と種族特性強化、あとは不老不死ですか。また珍しいスキルばっかり」


 まぁこれは納得といったところかな。


 この100年で病気は掛かったことは無いしビリビリラビットという魔物の麻痺攻撃とか毒を持っている毒夜という花の影響を受けなかった。


 病気になりたくないって言った私の要望通りだ。ホント素晴らしいスキルだと思う。


「種族特性強化ってなに?」


 もう1つの方はよく分からない。


「言葉通りじゃないですか?種族特性の効果を底上げする。七種族も種族が混じってるスフィアさんにはうってつけなものだと思いますよ」


「なるほど、これで混血のデメリットが減る訳か」


 確か種族特性について書いてる本が家にあった気が……。家に帰ったら調べよ。


 そして不老不死。


「これって他にも持ってる人いるの?」


「稀に居ますよ。死なないって人は元々スキルとして持ってる人の他にも薬や魔法でなった人なんかも居ます。珍しいことには変わりありません」


 まぁ彼女の反応からして驚きはするけど、騒ぎ立てる程でもないって感じか。


「あれ?そういや錬金術はスキルじゃないの?」


「当たり前ですよ。錬金術は確かに才能によって出来る出来ないが大きく別れますけど本質は他の魔法と変わらない技術のひとつですから。錬金術の効率を上げるスキルだったり、品質を上げるスキルはあってもそれ自体ってのはありません」


「そういう事ね」


 難しいな。


「それくらいですかね」


 改めて内容を確認する。


 あっ、この世界ってLvの概念あったんだ。


 えっと私のレベルは……42か。微妙だ。そりゃ素材が必要になったら倒すだけしてたからそれくらいなのは納得だけど。


「そうだ、エルナさんってギルド登録してませんでしたよね?」


「確かにそうだけど?」


 ギルドが出来る前からずっと村に必要物資を売ってて、出来てからは物流が安定するからとギルドに卸してただけで特に登録とかはしてなかった。


「じゃあ登録しときますね」


 聞くとかじゃないんだ。いいんだけどね?

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