自己中な指示厨

 『ヴァルハラ』のクロウ、一度は俺に惨敗した彼からの挑戦状だった。用事が出来たと言い残し配信を終了させて、ネクサスのDMを開くと二つの通知が来ている。


「なっ…」


 一つはクロウから、そして…もう一つはスノウからだった。


『お前にチーム戦を申し込む、逃げるなよ。』

『ごめんなさい、クロウの事は無視して大丈夫だから。』


 スノウのメッセージを何度も見返し、迷わず彼女に返信を送った。


『どういうことだ?クロウと何かあったのか?』


 少しの間をおいて、スノウからの返信が届いた。


『話したいことがあるから、通話できる?』


 即座に通話を繋ぐ。コール音が数回鳴った後、スノウの緊張した声が聞こえてきた。


「…ごめん、驚かせちゃったね。」

「大丈夫。それよりクロウは一体何を考えてる?」


 スノウは一瞬躊躇うように息を呑み、静かに口を開いた。


「あの人、あの日から余計に取り乱してしまって、更に過剰な方針をとるようになったの。」

「私はもう、ヴァルハラから追い出されてしまったから分からないけど…」

「は?」


 しばしの沈黙。通話越しに聞こえるかすかな息遣いが、彼女の戸惑いを物語っている。


「……私、ずっと彼と衝突してきたから。」

「話を聞く限り、スノウは何も間違ったことは言っていなかった。」

「でも彼は自分が正しいと信じて疑わないから、今まで以上に自分本位になったの。」


 スノウの声が少し震えている。彼女が何を言いたいのか、何となく察した。


「それで、クロウと対立して……追い出されたのか?」

「うん。チームの人はクロウに従うしかなかった。彼は私が逆らうから勝てないって言って…それで、追放されちゃった。」


 苦笑するようなスノウの声に、思わず拳を握る。クロウのしたことは、絶対に許される事では無い。


「彼の事は私がなんとかするから、マサムネ達は心配しないで。」

「配信もこっそり見てたんだ。この調子ならきっと直ぐにランクも昇格するから、頑張ってね。」

「それじゃあ――」

「受けてやるよ。」


 彼女の声を遮って俺は言った。


「……え?」


 スノウが困惑したような声を漏らす。


「誰かの為じゃない、俺自身の為に戦う。」

「スノウはずっとチームの事を考えてた、それを踏みにじったあいつを許せそうにない。」


 俺は拳を握りしめながら、画面の向こうの彼女に宣言する。


「でも、それは……」


 通話の向こうでスノウの息が止まるのを感じた。俺は言葉を続ける。


「お前はずっと一人で戦ってきたんだ。だから今度は俺がやるよ。」


 静寂が訪れた。スノウは何かを言いかけて、迷っているようだったが、やがて小さく笑った。。


「……ありがとう。」

「私に何か、手伝えることは無い?」

「そうだな…ちょうど一つお願いしたいことがあった。」

「なんでもするよ!あ、できる範囲だけど、ね。」

「じゃあ…」


 そこで一息、誠意を込めて言う。


「俺のチームに加入して欲しい。」

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