第8話 灰色の神様

「なんだ、お前ら?」


 俺は向けられた槍の一つを掴み、静かに問う。


「ちょっと! なんで聖騎士団が私の家に入ってくるのよ!!」


 聖騎士団? なんだそれは。


「おい、お前たち武器を下ろせ」


 玄関から聞こえた声に、全員が視線を送る。

 そこには、甲冑の胸部分に星のバッジをつけた男が立っている。


「嘘……騎士団長まで……」


 アグリはその男を見て、驚きを隠せずに口元を抑える。


「団長、しかし……」

「落ち着け、彼から敵意は感じない。それにここは民が暮らす場所だ。緊急時でない限り武器の使用は認めん」


 団長と呼ばれた男は、鋭い眼光で俺を見る。

 それだけで、こいつが多くの死線を超えてきた猛者であることがわかった。


 なるほど、ガルガインとは違う本物の戦士か。


「夜分遅くにすまない。この街に悪魔が出現したという情報があってな。捜査を続けていたところ、ここにいることがわかった」


 団長は俺から一切目を逸らさず、渋みのある声でアグリに状況を説明する。

 それから、一枚の紙を取り出して視線を俺と交互に交わす。


「……うむ、灰色の髪に整った顔立ち……どうやら君が噂の悪魔のようだな」


 そう言って、俺に紙を見せつける。

 そこには男の似顔絵が描かれていた。確かに整った顔立ちは俺に似てなくもないが、一つだけ決定的に違うポイントがある。


「残念だが、俺の髪は灰色じゃねぇ」


 そう。俺はこの世界では珍しい金髪だ。アフロディーテも羨むサラサラな手触りに、太陽の如く輝く黄金のツヤは俺の数多くある自慢のうちの一つだ。


「……」


 俺の言葉に対して、重い沈黙が流れる。

 団長や聖騎士団はおろか、アグリすらポカーンと口を開けている。


「その言い訳は無理があるぞ」

「そ、そうよ。もうちょっと考えて発言しなさいよ!」


 何を言ってんだ……こいつら。


「あ? よく見ろ、この綺麗な髪色を……」


 俺は勢いよく髪の毛を一本抜き、それを見せつける。

 だが、すぐに気がついた。


 その髪が、色の抜けたような灰色であることに。


「は? ちょ、ちょっと待て!」


 俺は慌てて周囲を見渡し、鏡になるような物を探す。しかし、アグリの家には高級品である鏡などあるはずもない。というか、あったらとっくに異変に気がついている。


 ふと、あるものに目が留まる。

 団長が左手にはめている鉄製の盾だ。さすがは団のトップ。ピカピカに磨かれた盾には高級な鉄が使われているのか、鏡のように周囲を映している。


「ちょっと借りるぞ」


 俺はズカズカと歩き出し、その盾に顔を近づけた。


 顔は、神の世界で一番の色男と謳われた以前と変わらぬ眉目秀麗。しかし、髪の色だけはホコリを被ったみたいな灰色に染まっていた。


 なんだよこれ。ふざけんな。これじゃあ男前が台無しだ。


「貴様……何をしている」


 ふと、視線を上げる。

 そこには眉をピクピクさせる団長の顔がある。ご自慢の盾を鏡代わりにされたのがよほど気に入らないらしい。


 だが、そんなものはどうでもいい。俺の自慢の髪色が変わっちまったことのほうが大問題だ。


「どうやら反論はないようだな。貴様を悪魔と判断して連行する」

「ちょっと待ってよ! 彼は悪魔じゃないわ!」

「それを判断するのは我々だ。部外者が首を突っ込む必要はない」

「部外者じゃないわよ!」


 その言葉に、団長は鋭い視線をアグリに向ける。


「そうだな。彼が悪魔だった場合、君は悪魔をかくまったことになる。これは重罪だ。君にも同行してもらおう」

「……そんな」


 アグリは絶望を顔に浮かべ、ヘナヘナと腰を抜かした。


「なぁアグリ」

「なによ」

「この世界に髪を染める魔法ってあるか?」

「……ないわよ! バカ!」

「マジかよ」


 ガックリとうなだれた俺の腕を、聖騎士団の一人が掴んだ。抵抗することも出来たが、ショックが大きすぎてどうでもよかった。

 俺は両手を鎖で繋がれ、アグリとともに馬車に乗せられて連行された。

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