## パート2: 予期せぬお披露目
巨大な木製の扉を押し開け、僕とゴビーは冒険者ギルドのホールへと足を踏み入れた。途端に、むわりとした熱気と、様々な声が混じり合った喧騒が僕たちを包み込む。
壁際には依頼(クエスト)が書かれた紙がびっしりと貼られた掲示板があり、その前には屈強な鎧姿の男や、ローブを纏った魔術師風の男女が集まっている。左手の酒場スペースからは陽気な笑い声とジョッキのぶつかる音が響き、右手の長いカウンターでは、何人もの受付嬢が忙しなく冒険者たちの対応に追われていた。
(すごい活気だ……でも)
同時に、値踏みするような視線も感じる。場違いな、弱そうな闖入者を見る目。Eランクの烙印を押された僕には、この視線が痛いほど突き刺さる。
「ボス……?」
僕の緊張が伝わったのか、ゴビーが不安そうに顔を上げた。
「大丈夫だ。行こう」
僕はゴビーの手を強く握り、意を決して受付カウンターへと向かった。いくつかある窓口の中で、一つだけ空いている場所を見つける。そして、そこに座っていた人物を見て、僕は内心で舌打ちした。
(よりによって、この人か……)
前回、僕にEランクの現実を冷たく突きつけた、あの女性職員だった。亜麻色の髪をきっちりとまとめ、眼鏡の奥から怜悧な視線をこちらに向けている。
「……ご用件は?」
彼女は僕の顔を見るなり、一瞬だけ眉をひそめ、すぐにいつもの無表情に戻った。どうやら、覚えられていたらしい。最悪だ。
「あ、あの……冒険者登録の件で……もう一度、お願いできませんでしょうか」
声が少し震える。彼女の冷たい視線が、僕の自信を削り取っていく。
「……またあなたですか」
深い、深い溜息。その一言だけで、心が折れそうだ。
「前回もお伝えしたはずですが、Eランクの魔力親和性では登録は……」
その時だった。僕の後ろに隠れるようにしていたゴビーが、好奇心に負けたのか、ひょっこりとカウンターから顔を出したのだ。
「わぁ……きれい……ゴブ」
ゴビーは、カウンターの上に置かれていたインク壺か何かの装飾を指差して、無邪気に声を上げた。
瞬間、受付嬢の動きが止まった。眼鏡の奥の瞳が、驚きに見開かれる。
「なっ……!?」
受付嬢の反応に、近くにいた他の冒険者たちが何事かとこちらに視線を向ける。そして、ゴビーの姿――緑がかった髪、大きな瞳、そして何より場違いなセーラー服――を認めて、ホールにどよめきが広がった。
「おい、なんだあの子?」
「見たことない格好だな……どこの国の服だ?」
「っていうか、あの男、前に登録断られてた奴じゃね?」
「Eランクの……ああ、覚えてるぞ。ギルドに子供連れか? しかもあの格好…」
「規則違反じゃないのか?」
ひそひそとした囁き声と、好奇と、そして明確な疑念の混じった視線が一斉に僕たちに突き刺さる。まずい、最悪の形で注目を集めてしまった!
「ゴ、ゴビー、隠れて!」
僕は慌ててゴビーを自分の背後に押しやろうとするが、既に遅い。受付嬢は険しい表情で僕を睨みつけた。
「……説明していただきましょうか、春日野陽介さん。その子は?」
冷たく、有無を言わさぬ声。誤魔化しは効きそうにない。どうする? 正直に話す? いや、それだけは絶対に……。
「い、妹です! そう、年の離れた妹でして! 少し……その、変わった服が好きなんです!」
口から出たのは、またしても苦し紛れの、自分でも無理があると分かる嘘だった。
受付嬢は、僕の言葉を鼻で笑うかのように、冷ややかな視線を向ける。
「……妹、ですか。前回はいらっしゃらなかったようですが。それに、そのような奇妙な服装……どこの仕立てです? 身分を示すものは何かお持ちで? そもそも、ギルド内にそのような幼い子供を連れ込むのは感心しませんね」
矢継ぎ早の、疑念に満ちた質問。その声には、一欠片の信用も含まれていなかった。規則違反の可能性まで示唆され、僕は完全に言葉に詰まってしまった。背中に冷たい汗が流れる。
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