# パート9: 最初の変成(ここから別のAI)


「ゴブリン……!」

思わず声が漏れる。ファンタジーに出てくる、最も弱いとされる魔物。だが、武器を持たない一般人にとっては十分すぎる脅威だ。ましてや、ここは逃げ場のない遺跡の奥。僕はゴブリンから距離を取りつつ、父から譲り受けた古い短剣を震える手で握りしめた。サビこそ浮いていないが、手入れなどしたこともない、ただのお守りのようなものだ。


ゴブリンは緑がかった、ぬらりとした皮膚をしていて、背丈は僕の腰ほどしかない。ボロ布を纏い、手には何も持っていない。しかし、その丸く大きな、濁った黄色い目は、異常な光を宿して僕――いや、僕が咄嗟に懐に隠した宝珠――を見つめていた。


「グル……ゴブ……」

喉を鳴らすような低い唸り声。明らかに敵意と……そして、強い欲求がその目に宿っている。


「来るな!あっちへ行け!」

声が上ずる。短剣を前に突き出し、威嚇するが、ゴブリンは全く怯む様子を見せない。それどころか、涎を垂らしそうな勢いで、一歩、また一歩と距離を詰めてくる。狙いは間違いなく宝珠だ。なぜ、こんなものがゴブリンを引きつける?


ザッ!

ゴブリンが低い姿勢から、素早く飛びかかってきた。

「うわっ!」

予想以上の速さに対応できない。僕は反射的に短剣を振るが、空を切る。体勢を崩した僕の懐目掛けて、ゴブリンの汚れた手が伸びてくる。短い爪がシャツを引き裂く感触。まずい、奪われる――!


恐怖と焦りが頂点に達した、その瞬間だった。


(……あたたかい?)


懐の中で、宝珠が微かに脈打つように熱を持った。僕の恐怖か、それとも守りたいという切実な願いに呼応したのか――次の瞬間、宝珠は堰を切ったように強烈な虹色の光を放った。


「グギャァァァッ!?」

ゴブリンが悲鳴を上げる。光は僕の懐から溢れ出し、ゼロ距離でゴブリンの全身を包み込んだ。あまりの眩しさに、僕は思わず目を固く閉じる。まるで真昼の太陽を直接見たかのような、網膜を焼く閃光。祭壇の間全体が、一瞬にして白と虹色の光で満たされた。


光がどれくらいの時間続いていたのか、わからない。数秒か、あるいはもっと長かったのか。

やがて、暴力的なまでの光量が収まり、僕は恐る恐る目を開けた。

松明の頼りない光と、天井の結晶が放つ青白い光が、再び祭壇の間を照らし出している。


床に倒れ込んだまま、僕は目の前の光景に息を呑んだ。


さっきまで僕に掴みかかっていたゴブリンの姿が、どこにもない。

まるで、あの強烈な光の中に溶けて消えてしまったかのようだ。


(助かった……のか?いや、でも……)


ゴブリンがいたはずの場所に、誰かが立っていた。


「……え?」


僕と同じくらいの背丈か、少し低いか。

歳の頃は、十五、六くらいだろうか。

緑がかった、癖のある短い髪。大きな、少し怯えたような、それでいて好奇心も宿しているような黄緑色の瞳。

そして、何より奇妙なのはその服装だった。濃い紺色のセーラータイプの短い上着に、同じ色の膝丈のプリーツスカート。白いソックスに、茶色い革靴のようなものを履いている。村ではもちろん、ブレイクポイントでも見たことがない、不思議な意匠の服だ。まるで、どこかの学校の制服のようにも見える。


少女……? なぜ、こんなところに? さっきのゴブリンはどこへ?


頭が真っ白になる。何が起こったのか、全く理解が追いつかない。

目の前にいる少女は、キョロキョロと辺りを見回し、それから自分の小さな両手を見つめ、不思議そうに首を傾げている。まるで、自分がなぜここにいるのか、自分が何者なのか、わかっていないかのように。


やがて、少女の視線が、床に倒れたまま呆然としている僕に向けられた。

大きな黄緑色の瞳が、僕の姿を捉える。

僕は、ただ言葉もなく、その未知の存在を見つめ返すことしかできなかった。



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