第12話 賢者の塔、偏屈な魔術師
『深淵の迷宮』から持ち帰った最大の謎である古代文字。それを解読できる可能性のある人物――街外れの塔に住むという、変わり者の老魔術師。
まず、俺はその人物に関する情報を集め、接触することから始めた。
アカデミーの教授という線もあったが、外部の人間が会うのは難しいらしい。それに「失われた古代魔法の研究」をしているという老魔術師の方が、メルの消失や俺の力に関しても何か知っている可能性があるんじゃないか、という直感もあった。
そして数日間、街のあちこちで聞き込みを続けた。ギルドで古株の冒険者に話を聞いたり、情報屋が集まるような裏路地の酒場に顔を出したり、あるいは怪しげな古道具屋の主人に探りを入れたり。
「ああ、あの塔のジジイのことか? やめとけやめとけ。超が付くほどの偏屈で人の話なんか聞きゃしねえよ」
「昔、宮廷魔術師だか何だかだったらしいがねぇ。何かやらかして追放されたとか研究に失敗して狂ったとか……ロクな噂は聞かないね」
「塔の周りには、そりゃあ強力な結界が張られてるって話だ。近づく奴は容赦なく魔法で追い返されるらしいぜ。死人が出たって噂もあるくらいだ」
集まってくるのは、そんな
……まあ、まともな人物じゃないだろうとは思っていたけど想像以上だな。でも、手がかりがこれしかない以上、行くしかない。
翌日、準備を整えて『迷いの森』へと向かった。その名の通り、この森は方向感覚を狂わせる特殊な磁場か何かが働いているらしく、一度迷い込むと抜け出すのが不可能だとも言われている。
森の中を進むこと半日、コンパスは狂い、似たような景色が続く。さすがに焦りと不安を感じ始めていた。この先に本当に塔なんてあるんだろうか……?
そう思い始めた矢先、視界が開け森の奥深くにそびえ立つ一本の古びた石造りの塔が目に飛び込んできた。
「あれが、例の塔か……!」
気を引き締めて塔へと近づいた。すると、塔まであと数十メートルというところで、目の前の空間がぐにゃりと歪んだ。見えない壁にぶつかったような衝撃を受ける。
「ぐっ……!」
これが噂の結界か! 見た目には何も無いのに物理的に先に進めない。それだけじゃない。結界に触れた瞬間、頭の中に不快なノイズが響き、吐き気をもよおす。
精神にも干渉してくるタイプの結界……これはかなり厄介だ。
力ずくで破るのは無理だろう。一旦距離を取って周囲を観察した。魔力の流れを読むように意識を集中……どこかに隙間は無いか? 結界が薄い場所は?
目を凝らして観察していると、空気中に微かな魔力の粒子が漂っているのが見えた。それは、結界全体が呼吸するかのように一定のリズムで魔力の密度を変化させていることに気づいた。ほんの一瞬だけ魔力の流れが弱まる瞬間がある……!
だが、その瞬間はあまりにも短い。普通の人間なら到底通り抜けられないだろう。どうす……? あの力を使うか? 「時空間操作」で一瞬だけ時間を遅らせて……? いや、まだ制御が不安定すぎる。下手に使って暴走したら結界に弾かれるどころじゃ済まないかもしれない。
他に方法は……さらなるヒントを得られないかと注意深く観察した。すると、ある特定の場所だけ魔力の流れが他と少し異なっていることに気づいた。結界の“編み目”が粗くなっているような……。
「……ここか……?」
その一点に狙いを定め結界の魔力が最も薄くなるタイミングを計った。そして、一瞬の隙を突いてその場所へと飛び込んだ!
ビリッとした軽い衝撃と共に結界を通り抜けることに成功した。背後には相変わらず見えない壁が存在している。どうやら、一度入ると出るのも一苦労らしい。
ともかく第一関門は突破だ。
息を整え、目の前にそびえる古びた塔へと向き直った。蔦が絡まる重厚な木製の扉。取っ手はなく古びたノッカーが一つ付いているだけ。
意を決して三度、ノッカーで扉を叩いた。コン、コン、コン……。静寂の中に乾いた音が響き渡る…………しばらく待っても反応はない。留守なのか? それとも居留守を使っているのか?
もう一度叩こうとした、その時だった。
ギィィ……と、重く
『……何の用だ、小僧』
暗闇の中から、しわがれた老人の声が響いてきた。まるで、何年も人と話していないかのような
「突然すみません! イニサと言います! あなたに、どうしてもお聞きしたいことがあって……結界を破ってしまいました!」
緊張で少し
『……ほう。あの結界を破るとはな。ただの物好きではあるまい。して、
「古代文字について教えていただきたいんです! 特に、古いダンジョンで見つかるような……!」
『古代文字だと? フン、くだらん。そんなもの、貴様のような若造に何の関係がある。さっさと帰れ。二度と来るな』
老人の声は明らかに不機嫌にり拒絶の意思を示した。扉が再びゆっくりと閉まり始める。
まずい、このままじゃ追い返される……!
「待ってください! これを見てください!」
咄嗟に懐から『深淵の迷宮』で書き写した古代文字らしきものが書かれたメモを取り出して扉の隙間へ差した。
『……? なんだそれは……くだらんと……』
老人の声は、メモを
『……その文字……まさか……! 小僧、貴様、どこでそれを……!? いや……』
そこまで言うと再び言葉を切った。そして、今度は先ほどとは打って変わって、どこか焦りのような、興奮のようなものが入り混じった声で言った。
『……良いだろう。中に入れ。話を聞こう』
ギィィ……と、扉が大きく開かれた。暗闇の奥へと続く道が俺の目の前に現れる。どうやら、あのメモが老人の興味を引いたらしい。あるいは、何か知っていることと繋がったのか……?
ごくりと唾を飲み込むと、緊張とわずかな期待を胸に塔の中へと足を踏み入れた。
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