第36話・【没落令嬢のダンジョン生配信 その6】

「さあ、行こうか」

「え〜、ちょっと休ませてよぉぉぉぉ」


100名限定ハグ&チェキ。最初はノリ気だったあおいさんも、半分過ぎた辺りから疲れが顔にでていた。それでも笑顔を崩す事なく対応していたのは、さすがの根性と言うべきだろう。


「ダメです。二階層の休憩所までちゃっちゃと行きます」

「……鬼ぃ」


 発見されてまだ間もないダンジョンだけど、浅い階層はすでに踏破されていた。今は二階層まで安全が確保されていて、三階層に降りる手前の広場が、最初のキャンプ場所として使われている。

 

「食事の時間はしっかり取ってますから、先に移動しましょう」


 ここにいると、と言うよりも、ここにいるギャラリーがネズミ算に増えていくのだから、さっさとダンジョンに入ってしまった方がいいだろう。


「ハグ&チェキ会は、30万Gの売り上げです」


 と、道すがら報告してくれたイノリさん。少しでも家のためと献身的に動いてくれているのだからありがたい。


「諸経費を引いて、24万Gの純利益ですわ」


 必要経費で二割も取られるのか。世知辛い世の中だなぁ……って、経費なんてどこにかかっていたのだろう?


 直後、パンっと三人で両手ハイタッチをする葵&ナロー&イノリ。


 ……うん。ま、いいか。


 ダンジョンに入って二時間ほど歩くと、学校体育館ほどの広い空間があった。ここが二階層の末端のようだ。先に見える通路が、三階層へ階段なのだろう。

 

 ベンチやガーデンテーブルが設置してあって、三組のパーティーがそれぞれ食事をとっているのが見える。


「ここがベースキャンプやね」


 ナロー執事長が指差すさきには、〔ご休憩〕と書かれた粗末な看板があった。しかし……


「なんで看板がピンク色なんだよ」

「え、目立つからじゃないんですか?」

「自分もそう思ってたんすけど……なんかおかしいのです?」


 じっと見てくるショーンとコネリー。どうやらこの世界には、ピンク看板の文化はないらしい。


「あの……配信パーティーの方たちですよね?」


 僕らが食事をとろうと準備をしていると、すでに昼食を終えたパーティーのリーダーらしき人が話しかけてきた。見た感じ、僕よりも少し年上といったところか。


「あ、はい。そうですが」

「はじめまして。私は、微笑ほほえみの暴風団・団長のスティーブと申します」


 強いのか弱いのかわからないパーティー名だな。見たところメンバーは五人。わざわざ挨拶に来てくれるなんて、いい人だ。


 ……ま、どうせまた葵さん目当てなのだろうけど。


「えっと、ミナミお嬢様とその一行、でしたっけ?」

「えっ……?」

「あ、ごめんなさい。間違っていました?」

「いえ、合っています! 絶対合っています!!」

 

 いや〜、ステキにいい人じゃないか、スティーブさん。お互いにメンバー同士の挨拶をし、和気あいあいとしていると、わざとらしく『気に入らねぇ』って表情をした男たちが近づいてきた。

 

「けっ、なにがミナミお嬢様だよ」


 と、お決まりのように敵対心むきだしの男たち。どの時代、どの世界にもいる、楽しげな人に絡んでくるタイプのヤツらだ。最初に声をかけて……いや、悪態をついてきたのは二メートルを超すマッチョな大男だった。どうやらこの筋肉ダルマがリーダーらしい。



「どうせすぐに泣いて帰るだろうよ」

「ちげぇねぇ。ガキがお遊びで入ってくんじゃねぇよ。チャラチャラした服着やがってよぉ」


 彼の言うチャラチャラした服とは葵さんの事だろう。

 この配信の為に、彼女には真っ白のスーツを着てもらっていた。目立つルックスに派手な衣装。負けずに主張するショッキングピンクのベルノパンプス。


 まあ、俗に言う”客寄せパンダ“なのは否めない。


 しかしこれは僕が提案した装備だった。見た目こそ宝塚のような派手派手衣装だけど、その実、魔力を込めた素材でできていてる逸品。衣服の軽さなのに、チェーンメイルくらいの強度がある優れものだ。


「あ、気にしないで下さいね。彼らはいつもあんな感じなので」

「誰なんです?」

「え〜と、なんだっけ?」


 スティーブは人さし指でこめかみをトントンと小突きながら、記憶の扉を無理矢理こじ開けていた。


「……痔・アナル菌?」

「ジ・アーセナル・キングダムじゃぁ、ゴラァ!!」


 ……性格は悪いが、耳はかなりいいようだ。


「わかりましたわ」


 メガネのフレームをクイッと上げながら、イノリさんが資料を片手に解説を始めた。


「ジ・アーセナル・キングダム。通称アナキンです」

「ほう、こっちの姉ちゃんは知っとるやないかい」


 と、気分をよくしたアナキンのリーダー。得意満面と言ったところか。


「有名なの? イノリさん」


 しかし、続く彼女の解説に、段々と彼らの顔色が変わっていく事になる。


「メンバー数は四人。登録者数500人程度の弱小配信パーティーです。スーパーファイアハリケーンと言う、中二病全開のクッソダサいチャンネル名ですわ。筋肉バカ、ブサメン、インケンヘタレ、チビデブつる丸を絵に描いたようなメンバーで、『自分より下等生物がいるってだけで元気がでてくる』との理由で登録した人がほとんどだと聞いています」


 ……ひどい言われようだな。


「ほんで、そのタマキンがなんのご用でっしゃろ?」

「アナキンじゃぁ、ゴラァ! キサマ、ぬっ殺したろか!?」

「ナロー執事長、煽らないで下さい。ただでさえ単細胞の集まりなのですから。人の言葉が通じるかすら怪しいのですよ」


 ……イノリさん、あなたの煽りも大概です。


 抜刀し、今にも斬りかかってきそうなアナキンの四人。ショーンとコネリーも剣の柄に手をかけて、警戒の色を強めている。


「どうしますか? ミナミお嬢様」


 そんな一触即発の空気の中、一人の男性がパンパンと手を叩きながら、僕らの間に割って入ってきた。


「パーティー同士の揉め事はご法度ですよ」


 と、物静かな声で仲裁してくれたのは、三つ目のパーティーの人で、マックイーンと名乗る背の高い男性だった。


「彼は雷光の一撃という五人パーティーのリーダーです。正統派ゆえに玄人のファンが多く、冒険者ギルド人気投票でも常に上位のチームですね」


 すかさず説明を入れてくれるイノリ解説員。わかりやすくて助かる。


「くっそ。いいかガキども、俺らの邪魔すんじゃねえぞ」

!」

「お子ちゃまはママのおっぱいでもしゃぶってろ」


 マックイーンに対して苦手意識でもあるのだろうか、アナキンの面々は使い古された悪態を吐き捨てて、三階層に降りていった。どいつもこいつも、わざとらしいくらいの悪役顔をしている。


「ま、関わるつもりはあらへんわ。アレは放っておくのが吉やな」


 ナロー執事長の気持ちはわかるけど、そうも言っていられない。


「ハッピさん、今のは……」

「うん、わかってる」


 今のセリフはどう考えても死亡フラグ。カウントされている残りのひとつで間違いないだろう。僕らがボスのところにたどり着くとすでに死にかけていて、最終的に、敵に操られて襲ってくるパターンだ。


 ミッションクリアの為には、アレを救わなきゃならないのか。


「……骨が折れそうだなぁ」






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本作はネオページにて契約作品として展開しています。

編集部の意向で、宣伝のために転載していますが、内容は同一です。

その為、ネオページからは15話程度遅れています。


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