ツーリング女子は異世界ツーリングを楽しみたい! ~助けた子猫の面倒も見なくちゃいけないし、いつかは帰らなくちゃいけないけど、いまは目の前のことを頑張ろう!~

あきさけ

とある女性の異世界ツーリング記

第一章 未知の世界へツーリング

1. トンネルを抜けると、そこは異世界だった

「……どこだ、ここ?」


 私は自慢の愛車から降り、ヘルメットを脱いで周囲を見渡す。

 地面は明らかに人の手どころか獣すら通っていないような砂利だらけ。

 左手側は昇り斜面になっており、見上げた先には木々がそびえ立っている。

 右手側はくだり斜面で、下った先にも森が見えている。

 いろんなところを旅してきたけど、ここまで誰の手も入っていなさそうな場所も珍しい。

 というか、私、こんな鬱蒼とした場所を走ってたっけ?


「仕方ない、戻るか……って!? 道がない!?」


 振り返った先にあったのはトンネルではなく大岩だ。

 穴どころか亀裂すらない。

 完璧な岩である。

 なお、高さは見上げるほど大きい。


「ここ、本当にどこよ……」


 私は気を持ち直してライダーズジャケットのポケットに入れてあるスマホを取り出した。

 でも、電源を入れておいたはずのスマホの画面はまっくらでなにも表示されていない。

 念のため電源ボタンなどを押したりもしてみたが、うんともすんともいわない。

 どうしよう、高耐久モデルのはずなのに壊れたのかな?


「うーん。考えていても始まらないか。とりあえず、道は続いているんだし先に進んでみよう」


 一応、サイドミラーの確認もする。

 ミラーにはすみれ色の髪に銀色のメッシュを入れた私の顔が映っていた。

 うん、さすがにミラーは問題ないか。


 愛車のオフロードバイクのエンジンをかけ、続いている道なりに走り出す。

 私の趣味と主な収入源は絶景スポット巡りとその配信による収益だ。

 もちろん、それだけで食べていけるほど多くの収入を得られているわけではない。

 ほかにもWebデザイナーを仕事しているし、学生時代に株で儲けたお金もそれなりにある。

 それを原資としてオフロードバイクとキャンピングセットを買い、日本の至る所を巡る旅をしているのだ。

 今日もその旅の一環として山間の絶景スポットに向かう……はずだったんだけど、なぜか変な場所に来てしまったようだ。

 ここ、本当にどこだろう?


「うーん、なにもないな。……ああ、この先は森か。このバイクなら走れるだろうし問題ないかな?」


 私のバイクはオフロードバイクのため、多少の悪路なら普通に走れる。

 昔はマウンテンバイクで山に出かけていたんだけど、やっぱり自転車では行ける距離に限界があることとモトクロス体験をして気に入ったことで購入を決意した。

 いまは250ccのバイクに乗っている。

 白をベースに赤や青のラインが入ったバイクだ。

 そんなバイクだからこそ、悪路であることが予想される森の中にも気にせず入ることができた。


 森の中は、本当に『森』って感じだ。

 どこから野生の動物が飛び出してきてもおかしくないくらい森の気配が濃い。

 といか、日本にこんな森ってあったんだろうか?

 人の手の入っていない原生林とかも山奥に行けばたくさんあるだろけど、私がここに来る前に走っていたのは一応舗装されて整っていた道で手の入っていた場所だ。

 それがいきなりわけのわからない場所に出てきた結果、こんな森まで出てきたのである。

 ここって、そもそも日本じゃないとか?


「日本じゃないとか、ここどこよ? 流行りの異世界転移とか? まさかね……」


 まあ、私も暇な時間に異世界転生とか転移のマンガは読んだことがある。

 でも、実際にそれが自分の身に起きると実感が湧かないものだ。

 というか、本当にここが異世界の森じゃない可能性だってあるわけだし。


 メンタルをポジティブ方向に切り替え、森の中をひた走る。

 すると、右手側の小薮がガサガサと音を立てた。

 なんだろう、小動物にでも見つかったのかな?


「ギギャ! グゲゲ!」


「嘘ッ! ゴブリン!?」


 私の目の前に現れたのは、空想上の生き物としてよく出てくる『ゴブリン』だ。

 背が低くて汚らしい恰好をしていて、緑色の肌をしている、まさにゴブリンである。

 それが私の行く手を遮ってグギャグギャ言っている。

 もう、ここって異世界で決定じゃない!


「とりあえず、お約束だと意思の疎通は無理よね。さっさと逃げないと!」


 私は一気に加速してゴブリンの横を走り抜けた。

 ゴブリンも私がこんなに速く走れるとは思っていなかったのか、唖然として見送っている。

 どうやら逃げ切れそう。


 そう思っていたら、私のバイクの後ろの方の地面に矢が突き刺さった。

 弓持ちもいたなんて本当にピンチだった!

 危ない危ない。

 ともかく、これは距離を稼がないと。

 どこまでゴブリンがいるかわからないから、少しでも遠くに行っておきたいよね。

 うん、そうしよう。


 そのまま、1時間ほど走り続け森を抜けると、今度は丘の上にでた。

 丘の上と言ってもそこまで見通しが悪いわけでもなく、なだらかで道はないけど走りやすそう。

 これならさらに距離を稼げるかも。


「とにかく、いまはあの推定ゴブリンの住処から逃げることが先決よね。ここが異世界なら元の世界への帰り道も探さなくちゃいけないけど、まずは目の前の危機に対処。これが大事」


 今度は丘を走り出す。

 すると、遠くにウサギのような生物が見えたけど、普通のウサギではなく頭に角が生えていた。

 やっぱりこの世界は異世界だと思った方がよさそうである。

 幸い、ウサギはこっちを見たあとどこかに行ってしまったから、安全は確保できたはず。

 あんな角を持った恐ろしい生き物に追い回されるのはこりごりだ。

 早く安全な場所にたどり着きたいなぁ。


 さらにしばらく走って日が暮れ始めた頃、私は湖のそばに広がる花畑を見つけた。

 ここには角を持ったウサギもゴブリンも見当たらない。

 おそらく、ほかの場所に比べれば安全な場所なんだろう。

 ようやく一息付けそう。

 はあ、安心した。


『うん? 人間がどうやってここに入ってきた?』


「え? どこから声が?」


『儂じゃよ、儂?』


 声は聞こえるけど姿が見えない。

 周囲をキョロキョロ見渡すけどほかに人の姿はなかった。

 どこから聞こえてきた声なんだろう?


『ええい、どこを見ておる! 下じゃ、下!』


「え? うわ!? リス!?」


『まあ、リスじゃな。それで、お前さんはどこから来た?』


 喋るリスなんてやっぱりここは異世界だ。

 私としては元の世界に帰りたいんだけど、どうしよう……。

 見てないドラマとかまだ終わっていない仕事とかあるんだけど、帰る方法ってあるのかな?

 このリスが知っているだろうか?

 ともかく、話を聞いてみるか。

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