speechless



『――……繰り返しお伝えしています、今日の午後六時頃、国道〇〇線沿いの大通りにて、危険ドラッグを所持し使用していた男の暴走した車に轢かれ、〇〇区在住の二十七歳男性、鳴守優成さんが心肺停止の重体で運ばれるも、病院で死亡が確認され――』




 仕事から帰宅して、ルーティーンのようにただ何気なくつけたテレビ。

 洗濯物を干しながら、聞こえてきたその内容に、その名前に、両手が麻痺したように小刻みに震え始めた。

 

 ――それからのことはあまり記憶が曖昧で、気づいたら喪服を着た私は鳴のお葬式に来ていて、花々に囲まれて遺影の前に置かれた棺は閉ざされていて、それだけで事故の悲惨さが伝わってくるようだった。


 大学時代の写真なのか、朗らかに笑う鳴の遺影を見つめ、お焼香を終えて手を合わせる、そんな自分の今やってることさえも、自分の意思ではないような、これはすべて悪い夢のなかなのではと何も信じられなくて。


 喪主である鳴のお母さんに一礼をする為に振り向けば。

 涙を流しながらも毅然と、私たちに一礼を返す彼女を見た時に、沸騰したお湯がぶくぶくと沸き出すように涙が止まらなくなった。


 鳴の事故について、その死について、誰よりも悲しんでいて、誰よりも疑問に思うのは、鳴の能力を一番側で見てきた彼女だと。


 〝五分後の未来が視える鳴守優成〟は、自分が事故に巻き込まれることは知っていた筈だ。なのにそれを回避しなかった。


 この事故が起きた時、他にも歩行者や車も多い時間帯で、けれど巻き込まれたのは鳴だけだったという。


 青信号を渡ってる彼を暴走した車が跳ねて、近くの柱にぶつかって停まった。


 きっとその何かがずれていたら、その事故はもっと大惨事になっていたのかもしれない。鳴は視えてしまった未来でそれに気づいたのだろうか。



『こんなさ、訳もわかんない、たいして役にも立たない超能力持ってて、俺の人生なんなんだろうってふいに考えるんだ。だって良いところで常にネタバレの連続だし、感動なんて薄れるから、こんな捻くれた性格が出来上がるしさ』


 鳴が自分の能力を話してくれた日の会話が脳裏を巡る。


『身に迫る危機とか、そういう危ない未来とかが見えたとしても、それを回避する術は見えないし。どうせこんな能力があんなら、せめて一日先とか、もっと先のこと知れたなら使い道が広がるんだけど、五分てなんかのフラグかよってな……。神様がいたとして、こんな変てこな能力を与えたのがその神様なんだったら、今からでもすげえ抗議したい気分』


 彼は、視えることに疲れて、本当に神様に抗議をしに行ったのかも知れないとも思ってしまう。


『神様がいるところになんて行ったらだめだよ』

『ははは――だな。まあ、深山と映画観に行くのも楽しいし、俺なりに楽しく生きていくよ』


 神様、なぜ彼に未来なんて見せる能力を与えたのですか。そのせいで、最後まで彼は苦しんだかもしれないのに。


 側に入れなくても、想いを伝えられなくてもいいから、ただ鳴には生きていて欲しかった。朗らかに笑ってくれた彼のまま、幸せでいてほしかった。


 神様、こんなのは、あんまりです――……。



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