第17話 働きたくないでござる!
「働きたくないでござる!」
それは朝一番、広場で唐突に放たれた宣言だった。 言ったのは、村の若者──いや、正式な肩書は“日なたぼっこ担当”の青年、トト。
フランデルはパンをひっくり返しながらつぶやいた。 「……その肩書き、誰が与えたんだ」
この村には“職業”という概念が、ちょっと不思議な形で存在していた。
「お昼前に鐘を鳴らす人」 「落ち葉の音を記録する人」 「道ばたに座って見守る人」
どれも、何かを“するようでしてない”仕事ばかり。 誰かが役割を与え、誰かがそれをこなす。 けれど、“やりがい”や“報酬”という価値観は、ほとんど存在しない。
だからトトの言葉は、逆に村人たちの耳に新鮮だった。
「働きたくないって……今までも、働いてなかったような……?」 「でも、言われてみれば……私たち、なんでやってるんだろうね」
フランデルは、村の人々を集めて言った。 「じゃあ今日は、“働く”ってなんなのか、試してみよう」
提案したのは、パン屋の“体験。 お金も給料も出ない。けど──代わりに、焼きたてのパンが報酬。
「パンはおいしいですけど、それって“労働の価値”なんですか?」 ロルクの問いに、フランデルはパン生地をぽんと叩いた。
「じゃ、食べてみて。自分で焼いたやつ」
焼き上がったパンを前に、村人たちは静かだった。
「なんか……うまいけど、それだけじゃない」 「朝から動いたからかもだけど、体も軽い……」 「これ……またやりたいかも……」
フランデルはにっこり笑って言った。 「働くってさ、“うまくいった感”とか、“誰かの役に立った感”が残ると、ちょっと違って感じるんだよ」
トトは焼きたてをかじりながら、ぽつりと呟いた。
「……パンって、意外と重いんだな」
「それは粉の話じゃないよね?」
「……わかんない。でも、なんか腹に落ちた感じがする」
次回予告:「天界からの刺客!?駄神オルグ登場!」
天界から送り込まれた“駄神”オルグが村に転生! フランデルとの噛み合わないコンビに、村人たちも混乱。 だがその存在が、なぜか世界に“刺激”を与え始める──?
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