第4話 娯楽ゼロって、拷問ですか?

村の広場。朝の空気はどこか違っていた。

昨日の“ふわふわパン事件”が噂になり、村人たちは少しだけ顔を上げて歩いている。


「……ん。空が広い、ような気がする」


そんな声がどこかから聞こえてきて、フランデルは満足げに伸びをした。


「ふふん、パン革命、大成功ってことで」


ロルクが横で首をかしげる。


「でも……それって、そんなにすごいことなんですか?」


「いや、すごいよ? 何百年も変わってなかったんだよ? それがさ、たったパンひとつで……って、ヤバくない?」


そして、彼女はふと思いついたように、手を叩く。


「じゃあ次は“笑い”だな!」


「笑い……ですか?」


「うん。驚いた、嬉しい、の次は“楽しい”でしょ?」


フランデルは村のど真ん中に立ち、両手を広げて叫んだ。


「よーし! 本日これより、即興劇を開演いたしまーす!!」


村人たちが振り向く。何のことかわからず、ぽかんとした表情ばかり。

フランデルはお構いなしに、地面に線を引いて舞台を作り、ロルクの手を引っ張った。


「はい、あなた主役ね」


「え!? 待って! 無理無理、そういうのやったこと……」


「安心して。私もない」


「ないんかい!!」


そのやりとりに、近くの農夫がクスッと笑った。

フランデルがピクッと反応する。


「今、笑った?」


「え? い、いや……その、ちょっと……」


「いいねえ〜その調子だ! さあ、ロルク! 一発ギャグいってみよっか!」


「鬼ですかあなたは」


戸惑いながらも、ロルクは少しずつ演じ始める。 最初はぎこちない。でも、フランデルの無茶ぶりと全力ツッコミで、だんだん周囲から笑い声が漏れ始めた。


やがて――


なんか……空気が軽くなった気がした。


誰かが笑うと、隣もつられて笑った。

最初は小さな波だったのに、気がつけば広場は笑い声で満ちていた。

ロルクは演技の途中、ふとフランデルの方を見た。

フランデルはにかっと笑った。 ……でもその目線は、一瞬だけ遠くを見ていた。


「……なんだろ、今……ちょっとだけ、胸が熱い」


次回予告:「やる気スイッチはどこですか?」

笑ったあとに気づく、“やる気”ってなんだ? 動かない信仰、止まった心。そこに現れたのは、教会の監察官・イレア。

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