第20章 – キス、噂、そして武装襲撃!

イーサンは穏やかな朝を迎える準備などできていなかった。アイリスが広めた噂は今なお燃え広がり、大学の至る所でささやかれ、奇妙な笑みを浮かべる者や意味ありげな視線を送る者が絶えなかった。


果てには、大学のカフェテリアで見知らぬ学生が駆け寄ってきて、感動したように言った。


「君は僕たちみんなのインスピレーションだ!」


そう言って肩を叩き、去っていった。


イーサンは爆発寸前だったが、ここで最強の武器を使うことにした——完璧なイメージ戦略!


そして、衝動的な決断を下した。数十人の好奇心に満ちた視線が注がれる中、彼はエヴァの手を取り、ぐっと引き寄せた。


「な、なにしてるの?!」エヴァは動揺して囁いたが、イーサンは一切躊躇せず、彼女の唇に軽くキスを落とした。


——沈黙。


次の瞬間、無数のカメラのシャッター音が響いた。


コーヒーを飲んでいたアイリスは、思わず噎せた。セリーヌは驚愕のあまり息を飲み、ジャックは衝撃で涙目になっていた。


エヴァは顔を真っ赤にしながら呆然とイーサンを見つめた。


イーサンは満足げに微笑み、周囲を見回して言った。


「これでまだ疑いがあるやつはいるか?」


そのわずか1時間後、大学のSNSはこの話題で持ちきりになった。


「イーサンはゲイじゃない!エヴァと付き合ってる!」

「全部ただの誤解だった!」

「俺たちは完全に間違ってた!」


アイリスは悔しさに唇を噛んだ。まさかイーサンがこんな形で反撃するとは思わなかった。彼を鋭く睨んだが、イーサンは勝ち誇った表情でそれを受け止めた。その態度に、アイリスは思わず何か重いものを投げつけたくなった。


しかし、その勝利の余韻に浸る間もなく、さらなる危機が大学に訪れた。


突如、4人の武装した男たちが大学の広場に現れた。彼らは仮面をつけ、銃を手にしていた。


「全員、地面に伏せろ!動くな!」


学生たちはパニックに陥り、悲鳴が広がった。イーサンも思考が追いつかず、ただ呆然と立ち尽くした。


だが、襲撃者たちが完全に状況を支配する前に、セリーヌとアイリスが動いた。


セリーヌは俊敏に跳び上がり、近くの男を勢いよく蹴り飛ばした。その一撃で、彼は即座に気絶した。


アイリスは素早く机を掴み、それを2人の襲撃者に投げつけた。彼らはバランスを崩し、倒れ込んだ。


最後の1人が銃を向けようとした瞬間、アイリスは身を低くしてかわし、鋭い拳を彼の腹に叩き込んだ。苦しそうな呻き声を上げながら、男は地面に崩れ落ちた。


わずか1分で襲撃は終わった。


学生たちは呆然とし、息を呑んで2人を見つめた。


イーサンも衝撃で言葉を失った。彼は目の前の光景が信じられず、思わず呟いた。


「お前たち、人間じゃないだろ……?こんなのありえない!」


アイリスはニヤリと笑いながら囁いた。


「ふふっ、まだ私たちの半分も知らないわよ?」


警察がすぐに駆けつけ、襲撃者たちは拘束された。しかし、彼らの動機は不明のままだった。


セリーヌとアイリスは、この事件をきっかけに、大学に留まり、警戒を強めることを決意した。


そして、その夜。


イーサンはエヴァと2人きりで部屋にいた。


朝の出来事を思い出しながら、エヴァは頬を染めて呟いた。


「……キスする前に、せめて聞いてくれてもよかったんじゃない?」


イーサンは肩をすくめて軽く笑った。


「悪かったよ。でも俺も自分の評判を守るのに必死だったんだ。」


エヴァは怒ったように彼を睨み、小さな声で言った。


「本当に最低……!」


そう言いながらも、どこか拗ねたような表情で彼を見つめていた。


イーサンは彼女の手を優しく握り、真剣な眼差しで言った。


「でも……もし本当にお前と付き合えるなら、それを無駄にするつもりはない。」


エヴァの顔はさらに赤くなり、バツが悪そうに拳で彼の肩を小突いた。


「バカ……恥ずかしいこと言わないでよ……!」


その頃、女子寮では——


セリーヌは鏡の前で髪を整えていた。アイリスはベッドに寝転がりながら、それを見ていた。


「ねえ、今さら髪なんて整えてどうするの?」


「どんな時でも完璧でいたいの。……アイリスと違ってね?」


アイリスはくすっと笑い、突然立ち上がった。


「じゃあ、試してみようか?」


そう言って、彼女はセリーヌが使っていたタオルをひったくった。


「ちょっ、返して!バカ!」


セリーヌは叫びながらアイリスを追いかける。


女子寮の一室から、物がぶつかる音と楽しげな笑い声が響き渡っていた。


こうして、長い一日が幕を閉じた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る