【3】 家電量販店の正社員①
【美香】
じゃぁ、ソフィア、本題に入るわね。
まずは病気を患ったときの話から聞かせて。
【ソフィア】
わかったわ。いちばんはじめに病んでしまったなぁって感じたのは、大学で卒業論文を書いていた時のことよ。
原因はわからないけど、ある日突然、頭が混乱して、気分が重くなって。多分、初めてうつ状態を経験した瞬間だったわね。
でも、私は、特に治療も受けずに、論文を書きあげて、そのまま社会人になったの。しんどいのは必死で我慢してたわね。
【美香】
それはつらかったわね。でもどうして治療を受けようとは思わなかったの?
【ソフィア】
うーん、なんか初めての経験でどうしたらいいのかわからなくて。親にも言えなかったわ。
それに、そのうち治るかも、なんて軽く考えていたわね。
【美香】
そうかぁ。でも実際は放っておいて治る代物ではなかったのよね。
そのまま治療せずにしんどいまま社会人になって、どんな感じだったの?
【ソフィア】
私はとある家電量販店に勤務することになるんだけど、新卒で正社員だったから、最初は研修だったわ。
でもこの家電量販店、実は当時、ロンバルディア州の第1号店になる予定の店舗でね。ミラノ店なんだけど、近くに研修場所となる店舗がないのよね。
それで、ラツィオ州のローマのほうに出張になったの。
【美香】
そうなのね。いきなり慣れない土地での研修って大変そうね。
【ソフィア】
うん。新入社員は社員寮に住み込んで、そこからローマの中心街のお店まで通うんだけど、その寮が、通勤にとても時間のかかるところにあってね。
ローマから少し外れたちょっと田舎のほうにあったの。
だから、通勤はストレスだし、田舎だから飲食店も寮のそばにほとんどなかったから、寮生活自体もストレスだったわね。
【美香】
そっかぁ。研修自体はどうだったの?
【ソフィア】
なんか体育会系・軍隊系のノリのかなり過酷なものでね。ものすごくこたえたわ。
メーカーの研修なんか、本当に「○○隊」っていう名前の営業マンたちが登場するのよ。
【美香】
うわぁ。そこまで露骨(ろこつ)に軍隊チックだと引くわよね。
それで、ソフィアはそんな研修についていけたの?
【ソフィア】
ううん。とてもじゃないけど、半分放心状態で参加していたわ。症状を我慢してたから余計にね。
【美香】
そっかぁ。その研修はお店での実地訓練だったのかしら?
【ソフィア】
ううん、それは座学の研修でね。お店の内部にあった研修室や、メーカーに出向いての研修だったわ。
それが終わったらローマの店舗でやっと実地訓練だったわね。
でも、こっちはまぁ、変なのじゃなくて、普通の訓練だったからマシだったわ。
でもね、私が病気を患ってなければ、まだストレスは知れてたんだろうけど、治療も受けずに我慢している状態では、全体的にあまりに過酷な研修だったわ。
【美香】
そうよね。よく耐え抜いたわね。他には何かあった?
【ソフィア】
そうねぇ。はじめのうちは、毎日大量の資料を渡されて、宿題になるんだけど、そんな精神状態じゃ、寮に帰っても、目を通すことすらできなくてね。
資料はベッドの上に積読(つんどく)になってたわ。
【美香】
そうかぁ。山積みの資料が目に浮かぶよう。大変だったわね。
人間関係とかはどうだったの?
【ソフィア】
いろいろ大変だったわよ。
今回の私の同期は、全部で10名くらいだったと思うんだけど、私ともう一人だけが新卒で、あとの人はみな中途採用の人たちだったの。
業界の経験者の人も多かったわね。
私は、なんか中途採用の人たちがとても立派に見えて、とても腰が低かったから、中途採用の人たちに結構かわいがってもらえて、セーフだったんだけど、
もう一人の人はどうもクセがあって、中途採用の人たちにいじめられてたわ。
彼女が袋叩きにされているところを目撃してしまったこともあるわね。
【美香】
袋叩きって! それはすごいわね。世渡り上手じゃないとやっていけない世界だったのね。
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