第3話 黄泉の扉
霧が立ち込める夜、セラフィナは古びた石碑の前に立っていた。そこは「黄泉の扉」と呼ばれる、霊媒師だけが通ることを許された場所。
死者の声に導かれた彼女は、胸に宿る霊媒師の紋章をそっと撫でる。
「私に見せて……。あなたたちの世界を。」
そう呟いた瞬間、石碑が青白く光を放ち、空気がざわめき始めた。やがて地面が軋み、重たい音を立てながら扉が開かれる。
その先に広がっていたのは、光の届かぬ暗闇の世界だった。
黄泉の扉は、死者の魂が最後に辿り着く場所とされている。そこでは、未練を残した魂たちが行き場を失い、彷徨い続けていた。
セラフィナは一歩踏み出し、扉の向こう側へと足を踏み入れた。途端に、耳元に囁く声が幾重にも重なり、彼女の心を締め付ける。
「助けて……。」
「忘れないで……。」
「なぜ、私だけが……。」
彼らの叫びは、怒りや悲しみに満ちていた。
しかし、霊媒師にとってこの声は決して恐れるべきものではない。魂の痛みを理解し、彼らを導くことこそが、セラフィナの使命だった。
歩みを進めるにつれ、影のような存在が彼女の周囲に集まり始める。
それは、生への執着を捨てきれず、闇に飲み込まれた亡霊たちだった。
彼らの姿は、かつて人間だった面影をほとんど留めていない。顔のない者、手を伸ばす者、泣き続ける者——それぞれが心の傷を映し出したかのようだった。
「生者よ……。」
「お前は何を求めてここへ来た?」
亡霊の声が低く響く。だが、セラフィナは怯まなかった。
「私は、魂の声を聞くために来た。」
その言葉に、一瞬だけ亡霊たちの呻きが止まる。
「未練を残したまま彷徨う魂を、私は救いたい。」
胸に宿る決意を抱きしめながら、セラフィナは黄泉の扉のさらに奥へと進んでいく。
やがて彼女の前には、より深い闇の中に沈んだ魂の姿が見えてくるのだった。
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