第9話 これが、お米ってやつですか……!!
「お目覚めになりましたか、メーロ様」
ゆっくりと目を開けると、古びた天井が視界に入った。
上体を起こすと、村長が穏やかな笑みを浮かべている。
どうやら洞窟の前で倒れたメーロは、どこかに運ばれ、ベッドの上で寝かされていたらしい。
「……あ、あの、様とかつけていただくような立場じゃないんですが……」
部屋の中に視線を巡らせても、イリスの姿はない。なんとなく心細くなって、ぎゅ、と布団を握り締めた。
「いえ。メーロ様がいなければ、毒蛇を集めることはできませんでした。王女殿下もそう言っておりましたよ」
「……イリス様が……」
「ええ」
村長は立ち上がると、メーロに向かって深々と頭を下げた。
「本当にありがとうございました、メーロ様」
「えっ、いや、頭とか下げないでください、私はイリス様の命令を聞いただけですし……!」
ありがとう、なんて誰かに言われることには慣れていない。だからこんな時、どんな顔をすればいいのか分からないのだ。
「……それより、その、イリス様はどこに?」
「王女殿下は今、広場にいらっしゃいます。なんでもこの機会に、村人の悩みをいろいろと聞いてくださるとか」
「へえ……」
「王女殿下ほど慈悲深い方は見たことがありません。私たちのような貧しい村に対して、これほどよくしていただけるとは……」
感極まった村長の目には涙が滲んでいる。
「……あの。こんな風に、イリス様はいろんな方を助けているんですか?」
「はい。もちろん、全ての悩みを解決していただけるわけではありませんが……個人でできることであれば対応していただけます」
個人でできることであれば、という言葉が妙に引っかかる。
イリスは王女なのだから、もっと多くの人間を動かすことはできないのだろうか?
「それに、私財をなげうって孤児院や病院への寄付もしておられるとか。他の王族や貴族が足を運びたがらない精神病棟への慰問も積極的に行ってくださるそうです」
国民の悩みを聞き、助け、寄付をし、慰問する。
きっとそれは、王女として素晴らしいことなのだろう。
……だけど。
「その、イリス様って、王家の中でどのようなお立場なんでしょう……?」
メーロの問いかけに、村長はおや? と首を傾げた。
まさか、イリスに仕えているメーロが事情を知らないとは思わなかったのだろう。
イリス様に直接聞くことはできないけど、他の人に話を聞くくらいいいよね。
「私も詳しいことは知りませんが、王家の中では、あまりいい扱いをされていないそうです」
「どうしてです?」
「なんでも、母君が身分の低い方である、とか……」
母親の身分なんて、イリス様個人には関係ないのに。
とつい思ってしまったが、すぐにその考えは消える。
イリスが王女として生きているのは、父親が国王だからだ。彼女が優れた人間だから王女として扱われているわけではない。
だとすれば、母親の身分だって重要なのだろう。
「そういえば、メーロ様、お腹は空いていますか? イリス様から、お目覚めになられたら、なにか食べ物を渡すようにと言われていて。たいしたもてなしはできませんが」
たとえ満腹だったとしても、首を横に振ることはなかっただろう。
しかも今、メーロはかなり空腹だ。
スキル発動って、かなりエネルギーを消費するみたいなんだよね。
「よかったです。では、食事をご用意しますので、少々お待ちくださいませ」
丁寧に頭を下げて、村長が部屋を出ていく。
一人きりになった部屋の中で、メーロはイリスの立場を想像してみた。
優しくて慈悲深い王女様。
だけど、母親の身分のせいで王族内での立場はあまり強くなさそう。
「……イリス様って、どんなこと考えてるんだろ」
◆
「お待たせしました、メーロ様」
村長が運んできた皿の中には、見慣れないものが入っていた。
小さな白い粒の集合体。温かいそうだが、いったいこれはなんだろうか。
そして皿の端には、漬物が置かれている。
「……あの、これは?」
「おや。もしかしてメーロ様は、お米は嫌いでしたか?」
「お米……ああ、これが米ってやつです!?」
話には聞いたことがあるが、実物を見るのは初めてかもしれない。
他の国では、パンじゃなくて米を主食にしているところもあるらしいけど……。
「この村では、米を食べることも多いんですよ。漬物とよく合いますから、お食べください。……これしかなくて、申し訳ありませんが」
「ぜんっぜん! むしろありがとうございます!」
知らない食べ物を見るとわくわくする。当たり前のことだ。
差し出されたスプーンを使って、そっと米を口に運ぶ。
なにこれ……! 美味しい!
もう少し粒感がある食感だと思っていたのに、実際はそうではない。柔らかくて食べやすいし、噛んだ瞬間、口の中にほのかな甘みが広がる。
米自体に味はあまりないものの、それが漬物の塩味を引き立て、どんどん食べたくなってしまう。
「おかわりもありますから、遠慮なくおっしゃってくださいね」
「お、おかわりもあるんですか……絶対もらいます!」
大量の蛇を目の前にした時は気分が悪くて最悪だったが、今は最高の気分だ。
こんなに美味しい物が食べられるのなら、人助けも悪くないかもしれない。
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