第九話:誰が昼飯を教室で食べさせてくれと頼んだ?誰が話し掛けてくれと願った?〔恐怖の弁当・昼食時間〕

 四時限目の授業が終わった。立ち替わりに四五しじうごふんの昼休みが始まった‥‥。


 俺の座って居る席は、チャンチャラしいが一番まどぎわで最後列の「主人公席」である。何が主人公だ。出鱈目にも程がある‥‥!

 そんな限界系ぼっちにして主人公の俺は、外の景色を見に、視線だけ左上の方に動かして、左側の窓の方をった。

 ‥‥のきさきは今日雨だった。‥‥雨なんてこの所は降ってなかったが、何かこんな事を言いたくなった‥‥。

 然し外はとかく暗い。体育の時は雨が降って居なかったのに、暗雲がこの辺りの空を掻き暗して居る。向こうの方には白い雲はあるようだが‥‥今降り注いで到達する自然光の明度は、ひとにとって十分なものとは言えぬ。つまり頼れる明かりとしては教室と廊下の天井に引っ付いて居る、電燈ヒカリだけ。ぐにでも晴れてくれれば春らしくて良いのになぁ‥‥。


 昼休みに突入した事だし、俺も昼御飯御昼にでもするか‥‥とごく真っ当な事を思った俺は、いつも通りぼっち飯の準備を始める。俺はこういう雨の日に限り、我がクラス教室で御昼を食べる。今日は最初から最後までほぼ教室で食べるもりである。

 後ろのたなの自分の区切りスペースとこから、一〇〇円ショップで買った紙コップをひとつ取り出しに行った。ワザワザ水筒の飲み物を準備する暇なんて無いし、手持ちの少なさ故自動販売機で飲み物もおちおち買えないから、横着してこの様にして居るのだ。

 俺はみのさいこうれつの席、つまり『主人公席』に座を得て居るから、コップを取りに行くのにそれ程移動しなくて良い。非常に楽だ…!変な事でも起きぬ限り、俺は少なくとも来月の席替えの日までは主人公席で過ごす事に決まって居る。


 反対に俺がし最前列だったら‥‥教室にいる大体全てのひとに見られつつ後ろの棚に向かう事になる。しかも通り道としてあるのは、女子生徒の席々の狭間。かれらのごく近くを通らなければならないから、これは辛い。俺は何とか絶望的な状況をギリギリ回避して、最善の事態に収束させてやった。異常なまで引き運〈ヒキ〉の強い俺が、二年生初日の席替えで、為したわざである。

 ‥‥運が強いとか言っても、俺みたいに必ず幸せになるとも限らないんだからね!


 こうして俺は一個の紙コップを取ったら、教室の扉を出て、ここから割と至近にある水道の手洗い場の方に歩いて行く。


 木の壁。木の床。廊下。通るひとびと。


 やはり昼休み、廊下を通って居ると多くの生徒たちとすれ違う‥‥こうした人に向けられる視線の辛さは如何いかんともし難い。


 廊下のものかげか何かを見れば、いまぐにでも女子生徒という人間に切り付けられたり殴られたりするんぢゃ無いか‥‥という懸念おもいむねはいされる。

 こうして恐怖と不安に駆られた俺が、下を向いてトボトボ廊下を歩けば、見も知らぬ女子生徒という人間たちがこちらを向いて——『俺がこう生きて居るのを強く批難する様な目と口を開けて』——ときたま大きな声であざわらい、又た露骨に不快がる。その『まえの行い‥‥いや、ムシロそれと一体とった営為を、女子生徒という人間たちは余す事無く『』繰り返す。この世ひとびとのっとって、誰だってこの事をもんせきちょうしない。。こんな、俺に取ってのゆううつ的反応は、かなりのひんで起こって来る。


 視線がつらいのは自意識過剰?針のムシロなのは全部俺の被害妄想カンちがいに基づいてる、だって‥‥?違う。被害妄想では無くコレは純然たる事実。だってあのコたち、こちらを指差して居るのだもん‥‥!こんな露骨な事も週に一、二度はされる。これのおそろし加減に、いつも目線をほとんしたに向けて歩く‥‥そんな、廊下すらマトモに渡れない俺である。

 少し上を向いて彼らの顔を見るだけで世界が終わるかの様な恐怖を感じちゃう!悔しいが俺の身体が感じて仕舞うんだ!‥‥この様にヒヤヒヤソワソワギクギクして日常生活に支障を来たし掛けて居るので、俺はマトモに、普通の、一般の人の様に過ごせたモンぢゃ無い。今日の今まで学校に通えて来たのがキセキなぐらいである。そうしてまた他人に見られた。辛い。


 手洗い場に着いて、手を洗うついでに水を汲む。恐らくアルミニウムで出来た流し場のヘリにコップを置いた俺は、石鹸と水で念入りに、ひとより時間を掛けて手を洗う。ハンカチでそれを拭き終われば、当然紙コップに水をなみなみに注ぐ。


 こうした時、若干周りの同学年の人から不自然の目で見られる事もあるが、これは逆に気にしない。こんな妙な視線に限っては、どうでも良い。

 元から目立つ単独行動を繰り返して来たぼっちの俺にとって、この様な視線は——飽くまでも俺の意図的にやるおかしな行為を批判して居るのであって、無意識下に俺の存在をいやおう無く構成して居るものを批判、軽蔑、愚弄して居る訳では無いのだと‥‥俺はそう確信に近い理解をして居る。だから、本質的な問題に無い。

 今向けられて居るのは、ただのげんな視線である。別にさっきの廊下でのアレのように、無闇に笑われて居る訳では無い。けなしゅしょうな俺にとって、こんな事は些細な事に過ぎぬ。良く訓練されたぼっちは奇異の目を気にしない‥‥!


 ‥‥この様に、ぼっちになれば、少なくともある側面においては必ず精神面がきたえられる。更には大いに度胸も付くので、本当に必要な時には自分を信じて周りを気にせず真実の行動をする事が出来る様になる‥‥というポジティヴな効果がもたらされる。だから皆なも単独生活ぼっち、しよう‥‥!これは天使のささやきなのだ!へけっ!


 とまれかくまれ‥‥こうしていつでもぼっちを貫いて居るアホウみたいな俺は元の教室へ移動し、紙コップを置いて自分の席に座った。そして両目をつむった。

 教室のうるささ。キイキイ来る猿の鳴き声。乱反射、殺人光線のごとく飛び交ってあらぶる数十の視線。教室で食う気には何うしてもなれぬ。


 しかし食わねばならぬ‥‥。


 音にさいなまれて悪化して行く一方の、精神衛生の状態を何とかマシにする為、少しでも周りの情報を締め出したかった。昼休みの教室こ ん な と こ ろで楽になるはずは無いのに、身体をリラックスさせたかった。

 でも変わらなかった。無理だった。現実は非情である。観念した俺は直ぐに目を開けた。


 ‥‥ならば下らない思考に没頭するしか無い。


 ——ぼっち飯。〔BOTTSIMESHI〕。昼御飯を食べる時には必ずぼっち飯でなければならない‥‥という、俺にはひとつの流儀がある。

 流儀はカッコいいのである。サマになるのである。孤独ぼっちのグルメである。‥‥えて俺はぼっちめしを「流儀」とかカッコ付けて言って居るが、実はほとんどただの心理的ストレスから起こる回避行動を言い訳して居るだけに過ぎないが‥‥それは無視する事とする。

 モノを食べる時はね‥‥こうやって、誰にも邪魔されず自由で、なんというか救われてなきゃあダメなんだ‥。こういうので良いんだよ、こういうので。


 そんなストレスの無い、何と無く救われた環境で落ち着いて食事をしたい俺。普段ならひとの眼を避ける為、いつも渡り廊下を通った先の新校舎、三階にある滅多にひとの来ない男子トイレに行ってそこで食べて居る筈なのに‥‥いとわれる教室で食おうとして居る。


 いくら俺が救済されたトイレ空間で昼御飯を食べたいからって、こんなジメジメした湿気で体感的不衛生さがはなはだ増して居る中では、食う訳には行かぬ。

 精神的なぜったいあんぜんカプセルたるトイレに、積極的にこもりに行く様な俺でも‥‥こうなって仕舞えばはやいやおぼえる。けんえんする。いとう。いくらひとが怖いからといって流石にそんな場所で御飯を食べる訳無かろう?!ぼっち飯が極端に不味まずくなる。

 だから、今日の様に雨や湿気の多い日には‥‥断腸の思い、じゅうの決断としてストレス覚悟で大人しく教室で昼御飯を食べる事にして居る。


 どうやっても、逆立ちしても度を越えて不器用な、そんな俺は‥‥食材を口に運ぶ間にポロポロ溢して仕舞い、葉っぱをムシャムシャ食らうイモムシか‥‥哺乳瓶を吸う可愛い赤ちゃんの様な世にも無様で見て居られない様な口の動かし方をして居る。そんなのはフツウ、他人に見せられないだろ?!これはトンデモ無い苦痛。食べる姿おぞましい。

 ひとたび食事の際にこんな立体映像を全世界に公開して居るのを悟ってから、やたら俺に度々向けられる意図不明な他人からの視線がつらくなって仕方無くなり‥‥出来る限り衆人環境の中で食事をしたく無くなった。もちろん純粋に人々——特に女子生徒という人間たちに恐怖を感じるから、というのもある。おい、ロクデナシの俺!聞いてんのか?!俺、どうも可笑しいぞ〜?なんでこうなったの〜‥‥?


 救われない俺。こうしてどっちにせよ救われない状況の中からよりマシなほうを選択しただけなのである。

 俺にとって‥‥この事をむを得ずいられて、人々の中で食べなければならないというのは‥‥精神的に割と辛い。それしか言う事は無い。

 

「う〜ん、つらいなぁ」


 思わずひとり言が出て仕舞った。いつも無意識に頭の中で思考を繰り返し続けるぼっちの俺は、こうしてついうっかり頭の中の言葉を発してしまう事がある。


 そんな俺の所に、何故か近付いて来る気配があった。この場合、ほぼ一〇〇パーセント他の人の用事である。俺に用事があるのは、大概教師だけ。気配から推し量るに‥‥身体がそこ迄大きくは無い事から、恐らくこれは生徒である。つまり俺に用は無い。


「あの、あの‥‥」


 俺は他の人に話し掛ける女子生徒という人間の声をぢかに聞いて居た。女子生徒であるから当然俺に用などある筈が無い。俺には全く関係が無い。


「ね、ねえ、あの‥‥片峠‥‥くん‥‥?」

 有り得ない。後ろに居るのは誰だ。思わず振り返った。二度見した。


 ‥‥そこにはまたまた、俺を恐らく騙した女子生徒という人間が居た。‥‥また会ったな!

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