第五話:夕暮れ*〔放課後〕
起立、礼。
今日の日も、つつがなく帰りの
繰り広げられるのは、毎日我が教室で見られる放課後の風景。
これ
俺はというと、部活動にも
その代わり、
‥‥そうしている内に、やがて‥‥例の清浄空間たる
それから‥‥
——今度は顔に変な物でも付いて居ないか鏡で確認。
——
この様な
————。
‥‥壁に囲まれた
——急に我が
‥‥やっぱ、少人数教室、行かなきゃならんかなぁ‥‥。
女子生徒という人間と顔合わさんきゃ駄目かなぁ‥‥。
『‥‥あの、放課後、少人数教室に来てくれませんか?』
そう俺に言い放って見せた
この女子生徒と『一対一』で‥‥
俺は
俺はこれで良いのか‥‥?
俺はこれで倫理的なのか‥‥?
あの女子生徒という人間と会わない事が倫理的なのだろうか?
これで良いのだろうか‥‥?
これで
女子生徒という人間を無視して帰るのは、
——
どう見ても無駄に
結局俺の
いまいち心では踏ん切りの付かない
放課後の、夕暮れの空気
俺は周囲を包むこの雰囲気を不安がって、歩きつつ横を覗いて見たが、一応各々の
いつもの校舎。
やや人間の目には強過ぎる白光を放つ天井の
‥‥
——
俺はもう何も余計な物は考えないんだ‥‥。
これ
それを引いて‥‥開けて‥‥沈み掛けの
淡い光の中。黒板沿いに綺麗に整列した、他の教室と比べて少ない、十数個の机と椅子。
胸の赤いリボンが目立つ、黒い冬季セーラー服を着た女子生徒という人間。かれは教室中央で、心配そうに手で胸を押さえながら立って居た。既に俺の方を向いて居る。
「扉、鍵‥‥閉めてくれませんか?」
「‥‥ぅん」
‥‥正直言って、俺は扉を閉めるかどうかを、
‥‥夕暮れの教室。部活の時間、場所を捉えきれないぐらい間の空いた遠くの
でも、複数の意味で心配になって見た外向きの窓は、しっかりと閉まって居た。
窓も扉も、鍵も閉め切られて居て、俺らを取り巻く空気が漏れるスキマはひとつとして無い。教室は完全に密閉空間。
言葉の意味は少し
日暮れ時特有の校舎、と、ここに
「あの、あの、あの‥‥」
「ぅん」
話は始まったらしい。
ただそれが普通に出来る程、女子生徒という人間は落ち着いては居ない。
わかる。とてもわかる。俺も気持ちは同じだ。
一緒に、とにかく
「あの、生物の時間、みんな。誤解、sせる‥‥様な事‥‥‥‥、しまって、本当に、ごめんなさい‥‥ごめんなさい‥‥‥!」
女子生徒という人間は泣き始めた‥‥
「わたし、が、あんな事になって‥‥そうしてしまって‥‥、ほ、ほんとにごめんなさい」
御免なさい。御免なさい。御免なさい‥‥。
そう何度も謝る。謝る毎に涙が出て‥‥更に泣きながら‥‥。それでも女子生徒という人間は済んでの
「ごめんなさい、、ごめんなさい、あんな事になってしまって、ごめんんッ‥‥!なさい‥‥!」
やがて
憐れみをさそう姿。
‥‥俺は体験した事がある。目の前の女子生徒という人間の様になった事がある。その様に思った、やけに既視感があった。俺は
‥‥これは俺だ。俺と同じだ。
これは——四年前の俺と同じだ。同じ光景だ。
ただ、泣いて謝るのが俺で、謝罪される方が(他の)ひとりの女子生徒という人間だった。
自分の
俺はどうして良いかも分からなかった。
ただ勝手に流れる
『泣くの
「ヒドイ事しようとか、そんな気持ちは皆無だった。懲罰しただけ。私の
——
‥‥これから俺がどうなったのかはいうべきにもあらず、いうべきにあらざる
こうして
だがそれを必死に堪えて——俺は生まれて初めて自分の自由意思で女子生徒という人間に近付く。
救いたかった。救いたかった。助けたかった‥‥。俺は‥‥そんな自分を‥‥。
それでも俺は少し
‥‥そして、かれの前に
間を空けて居るとは言え近いので、
「大丈夫。
違う。それは経験上嘘であると良く分かって居る。
「うぅう‥‥」
「‥同級生がした大抵の事は‥大抵以上の事があっても‥‥
「うぅ‥‥っ」
俺が女子生徒という人間に言った言葉なのか、俺に向かって頭の中で自分で言った言葉なのか‥わからなくなった。
‥‥そうか。俺はあの時、この様な事を言われたかったんだ‥‥。たとえ
「大丈夫。だから‥‥」
俺は言うべき事を言うんだ‥‥。
「もっと‥‥人を頼って良いんだよ」
「‥‥ぅうッ‥‥うん‥‥」
啜り、しゃくり上げる‥‥死戦期呼吸の様な息遣いをしながら、かれはそう、答えた。
俺が言って‥‥女子生徒がそう返す迄、しばらく‥‥
‥‥そしてまたしばしの間を挟み、やがて‥‥女子生徒という人間は俺にとって好ましく無いひと言を発する。
「そ、それ‥‥じゃ、じゃあ、その、あの‥‥その、落ち、着くまで、、背中‥‥さすって、くれ、ませんか‥‥?」
駄目だ‥‥!俺にとっては無理な
‥‥
絶対に触れてはならないというのは女性という人間にとっては当然だ。
オレが
マカるまで背負う傷を魂に負うから
イライラするから
ランク外だから
ハキたくなるから
フカイだから
カーッとなるから
イガイガするから
ダマッてキエて欲しいから
ハタメイワクだから
ヤだから
クルシイから
シニたくなるから
ネチョネチョするから
トニカク身の毛がヨダツしムカつくしイーッとなるしイガイガするし
彼らは
そして
右耳を手で押さえて
神経の荒む様なイガイガが俺を襲う。
他人に配慮が出来る様な‥‥女子生徒という人間に触れる様な強いストレスに耐える余裕は——それが出来る様な精神的余裕は無かった。もう存在しなかった。
だから‥‥それでも俺にとっての最大限の配慮を
無意識の内に耳を離れて首の左側の
言い
「‥‥クラスメイトは家族であってか ぞ…くで、は‥‥」
家族で有って家族で無いから駄目だ、と言おうと、した。
だが、言おうとして居る内に、
このままでは——逆に俺がこの
俺は静かに‥‥そうする事がまるで自然かの様に、何も言わず、なるべく優しく‥‥
そして
一体どういう顔をして良いのかすらも俺は分からない。女子生徒も同じ様に感じて居るのだろうか?もしかするとこの一瞬間に女子生徒の感情が、触れる手指を通じて俺に伝播してしまったのか?だとすれば俺の感情も‥‥。
それから一秒と少し掛けてやっと
「そう、大丈夫。家族なんだから‥‥大丈夫‥‥」
空気の抜けて行く様なとりとめのない声で、俺は半ば無意識に、自己を安心させる様に呟く。
‥‥この場面を切り抜けるにはかれが精神的に満足すれば良いんだ、やり方は問題で無い。
そう自分に言い聞かせて、恐れつつどうにか女子生徒の背中をさする‥‥コレで良い筈だ。問題無い。コレで良い筈だ!大丈夫だ。俺は大丈夫だ。大丈夫だ、問題無い。問題無い。問題無い。俺は大丈夫だ俺は大丈夫だ俺は大丈夫だ俺は大丈夫だ‥‥
「大丈夫だから‥‥大丈夫だから‥‥」
他人を
そんな、自分とは異なる
果たして俺は
彼女は、他人の手に「おされ」た事によってか
「う、うぅっ‥‥うう‥」
教室の、窓から照らす夕暮れは、黒板やら机やら、後ろにある棚、転がった
そんな沈み行く最期の
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