異世界ビームサーベル英雄譚 〜滅びの未来と再生の剣〜

暁ノ鳥

第1章『異世界への閃光』

 夕暮れの研究室に、静かな緊張感が満ちていた。


「黒崎、出力はどうだ?」


 声の主は石川教授。

 黒い縁取りの眼鏡の奥で、鋭い眼光が光っていた。

 彼の指示に従い、黒崎玲央——レオは慎重にモニターを確認した。


「安定しています。出力70%で推移中です」


 頭の中では数値が次々と流れていく。

 レオは黒髪を軽く撫で付けながら、額の汗を拭った。

 引き締まった体に白衣が似合い、真剣な眼差しはこの実験への責任感を物語っていた。


 研究室の中央には金属製の円形台座があり、その中心には彼らが開発してきた集束型レーザー装置が据え付けられていた。

 装置から伸びる配線は壁一面のコンピュータへと繋がっている。


「先生、出力上限に近づいています。安全係数を確認しますか?」


 レオは右腕の肘にある小さな火傷の痕を無意識に撫でながら問いかけた。

 三ヶ月前の小規模な事故の名残だ。

 それ以来、彼は実験の安全性に神経を尖らせていた。


「いや、この調子でいこう。これまでの準備は完璧だ。君の計算なら、出力90%でも安全なはずだ」


 教授の言葉にレオは小さく頷いたが、心の奥で不安が膨らんでいるのを感じていた。


「出力80%……85%……」


 研究室の空気が変わった。

 装置から発せられる微かな振動音が高音になり、円形台座の中央に青白い光が集束し始めた。


「これは……予想以上の反応だ!」


 教授の声に興奮が混じる。

 レオは画面の数値を確認したが、突然、想定外の警告が表示された。


「先生、エネルギー安定値が急激に下がっています!これは—」


 言葉を終える前に、装置から不穏な金属音が響いた。


「システム強制停止!」


 レオがキーを叩くと同時に、装置の中心から耳をつんざくような轟音と共に、眩しすぎる光が放射された。


「教授!」


 レオは反射的に石川教授の方へ飛びついた。

 しかし、体が宙に浮いたような感覚に襲われる。

 青白い光が視界を覆い尽くし、全身が引き裂かれるような痛みが走った。


「うっ…!」


 意識が遠のく中、レオは教授の姿を見失った。

 体が何かに引き寄せられるような感覚。

 そして—。


 ◇


 レオは目を開けた。

 頭上に広がるのは見知らぬ夜空。

 無数の星々が、地球では見たことのないほど鮮明に輝いている。


「ここは……?」


 体を起こすと、激しい頭痛が走った。

 周囲を見回す。

 研究室はどこにもない。

 代わりに、薄暗い森の中にいるようだった。

 樹々の葉が風にそよぎ、遠くで小動物の鳴き声が聞こえる。


「教授……? 教授はどこだ?」


 声を絞り出すも、返事はない。

 ポケットからスマートフォンを取り出したが、画面は暗いままだ。


 レオは立ち上がり、不安定な足取りで辺りを探索し始めた。


「これは……夢か?」


 だが、足元の草の感触、肌を撫でる風の冷たさ、森の匂いは、あまりにもリアルだった。


 何かが光った。


 レオが振り向くと、森の奥から微かな光が漏れていた。

 そこに導かれるように進む。

 茂みを抜けると、そこには小さな丘があり、頂上に何かが突き刺さっていた。


 好奇心に駆られて丘を登ると、それは細長い銀色の柱状の物体だった。

 長さは約30センチほど。

 表面には複雑な模様と何かの文字らしきものが刻まれている。


「これは……」


 手を伸ばしかけたとき、背後から不気味な唸り声が聞こえた。


 振り返ると、月明かりの下、ぞっとするような姿の生き物が立っていた。

 狼のような体格だが、皮膚は鱗に覆われ、頭部には複数の角が生えている。

 その目は赤く、レオを捕食者が獲物を見るような目で睨みつけていた。


「うわっ!」


 レオの声に反応して、怪物は唸り声を上げた。

 そして、一瞬の間をおいて、突進してきた。


 とっさに横に飛び退き、怪物の攻撃をかわす。

 しかし、バランスを崩して丘を転がり落ちた。


「くっ……!」


 再び立ち上がると、怪物は既に次の攻撃に備えて構えていた。

 そして今度は一匹ではない。

 周囲の森から、同じような姿の怪物たちが現れ始めていた。

 数え切れないほどの赤い目が、闇の中から光っている。


「どうすれば……」


 退路は断たれている。

 レオは視線を丘の上に戻した。


 あの銀色の物体—あれが何かの武器なら。


 決断を下し、レオは再び丘を駆け上がった。

 怪物の一匹が追いかけてきたが、なんとか振り切る。

 頂上に到達し、銀色の柱を掴んだ。


 重かった。

 しかし、握った瞬間、手のひらにぴったりとフィットする感覚があった。


 物体の側面には何かのスイッチのようなものがある。

 レオはそれを押した。


 次の瞬間—。


「ズゥン……ッ!」


 低い起動音と共に、物体の先端から青白い光が伸び、約1メートルほどの光の刃となった。


「これは……!?」


 信じられない光景に、レオは一瞬呆然とした。

 しかし、足元の震えが彼を現実に引き戻した。


 振り返ると、赤い目をした怪物たちが丘を登ってきている。


「来るな!」


 レオは光の剣を振りかざした。

 怪物の群れが一斉に唸り声を上げ、飛びかかってきた。


 恐怖と咄嗟の反応で、レオは光の剣を振るった。


「うおおおぉぉぉっ!」


 青い閃光が暗闇を切り裂き、最初の怪物の体を真っ二つにした。

 怪物は甲高い悲鳴を上げ、地面に倒れた。


「すごい……」


 しかし、驚いている暇はなかった。

 次々と怪物たちが襲いかかってくる。

 レオは教授から学んだ剣道の心得を頼りに、必死で剣を振るった。


 光の刃が空気を切る音が夜の静けさを破る。

 怪物たちの体が次々と切り裂かれ、地面に倒れていく。


「はあっ……はあっ……」


 激しい呼吸と共に、レオは周囲を見回した。も

 う襲ってくる怪物はいないようだった。

 地面には十数体の怪物の亡骸が横たわっている。


 その光景に、レオは急に胸が締め付けられるような感覚に襲われた。


「僕は……殺したのか」


 手の中の光の剣を見つめる。

 それはまるで、彼の恐怖を察するかのように、かすかに脈動していた。


 レオはスイッチを押し、光の刃を収めた。

 手に残った銀色の柄だけを握りしめ、星空を見上げた。


「ここはどこなんだ……」


 疑問は増すばかりだが、一つだけ確かなことがあった。

 ここは彼の知る世界ではない。

 そして、彼の手にはこの異世界での唯一の武器があった。


 森の向こうに、かすかな明かりが見える。

 人が住む集落だろうか。


 レオは光の剣——ビームサーベルを腰に固定し、その光に向かって歩き始めた。


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