第16話

「髪、切ろうかなぁ」



彼の部屋でまったりと過ごしながら、自分の視界に入ってくる髪の毛をつまんでポツリと呟いた。


今の長さは肩を少し超えたくらい。


この数年間で自分史上最長だった。


昔からスポーツをしていた私は長い髪が鬱陶しくて、いつもショートだった。


大学に入ってから少し伸ばすようになったけど、それでもギリギリ髪の毛が結べる長さが限界だった。


それもここ最近は、時間を惜しむように彼との逢瀬が増えて、ずっと美容室にも行ってないからこんな長さにまでなってしまった。


私の言葉に隣に座る彼は驚いた表情を見せて、



「切らない方がいいよ。このまま伸ばして?」



まるで焦ったような、懇願するような、そんな声で私に言った。



「え?…まぁ、いいけど…」



その言葉を聞いて彼はホッとしたような顔をしたから、もしかしたら髪の長い子が好きなのかもしれない。


それでも伸ばしっぱなしじゃかっこ悪いから、伸ばす方向で整えるだけに留まった。

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