第5話

それなのに、相変わらず掴まれた腕はそのままで、連れ出しの許可まで得る始末。



「じゃあまた連絡するよ」


「えっ!?いや、ちょっ…、」



この場の当事者であるはずの私の意見も聞かず、話を勝手に進められてしまった。


腕を拘束している男は許可を得たとばかりに、さらに反対側の肩までがっちり拘束し、自分の元へと引き寄せる。


男が言う“昔の友人の集まり”なんて私には関係のない話ではないか。


このまま力ずくで振りほどいて、宮部の元に行ってしまおうか───そう思ったのに、



「じゃあまた“今度”な。お疲れ!」



そう言って片腕をあげ、あっさりと身を翻していった宮部に「裏切り者!」と思った。



「……」



裏切り者が去って行く後ろ姿を、恨めしく眺める。


この場に残されたのは私と、名前も知らないこの男だけとなった。


宮部がいなくなった今、ここに残る理由はあるだろうか?


───いや、ない。

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