第16話 勇者パーティ、崩壊?


 カグヤ様の転移でここまでの道中を大幅にショートカットできた、とは……言っちゃいけない、ことでもないのでは?


 言っても問題なさそうな……。でもカグヤ様に、一応は聞いてみないといけない。

 だから誤魔化す必要があったのだけど、ふたりは手段より理由が気になったみたいだ。


 駆け寄った僕の目線に合わせるように屈む兄貴。


 背後から忍び寄って、細い指を僕の顎に添えるナタリーさん……。


 その手つきはまるで、舌なめずりをされているみたいだった。


「どうして戻ってきたのかしら、ロックちゃん」


「聞きたいことは色々あるが――、確認しておきたい、ロック。お前は、この国までやってきて、なにを望む?」


 ……優しい口調だった。ふたりとも、敵意はない……ないんだけど。

 でも、僕の決意を揺らすほどの圧があった。


 喉元まで出かかった言葉がひゅっと引っ込んでしまうような……。

 ダメだ、飲み込んでしまえばもうふたりの前では言えなくなる。


 ここで誤魔化せばふたりに協力をお願いすることはできない。


 嘘をつくことは今後の信用に繋がるのだから……僕だけは――僕、だけは。

 嘘をついて誤魔化すことは許されない。


「――クビになったことは、理由だって分かってるんだ。役に立てないことも自覚してるんだけど……それでも、僕はアギトの隣にいたかった。みんなの仲間として、世界を救う光景を見届けたかったんだ!」


『…………』


 美味しいところだけを手にしたいと言っているように聞こえたのかもしれない。

 ふたりは(後ろにいるナタリーさんは分からなかったけど)苦々しい顔をして、でも。


 僕の決意を否定することはなかった。


「ロックちゃん、それは……」


「――ロック」


 シンバル兄貴の大きな手が僕の頭の上に乗っかった。

 兄貴がやろうと思えば握り潰せるほど、大きさに差があった。兄貴が普通に撫でたら僕なんてかるーく捻られる……だからかなり気を遣っていることが分かった。


 多少、撫でられて左右にたたらを踏むけど、押し倒されることはない。


「お前の気持ちは分かった。だが……今はそれどころじゃないんだ」

「……? それどころじゃない?」


「ああ――アギトとファーフナがいないだろう?」


 上の階を見る。

 確かに、テーブル席には誰もいない。大人組ふたりで食事……をしていたようだけど、パーティからこっそり抜けて食事をしていたわけでもないのだろうね。


 勇者パーティからふたりがいないだけなのに、全員がバラバラになっているような感じがする……。


 喧嘩? なら、可愛いものだけど。僕が思っているよりも深刻そうな状況だ。


「――アギトはどこにいるの?」


「宿にいる。……会いにいくのか?」「もちろん!」


 冒険が停滞している空気を感じ取った。その理由がアギトにあるとは思えなかった。

 だから――ファーフナに、異変があったと見るべきだろうね。


 だからこそ今、ファーフナに声をかけるべきではないと思う。

 まずはアギトに会って事情を聞く。その後で、ファーフナとコンタクトを取るべきだ。


 アギトとファーフナが一緒にいるなら話は早いけどね……。


 アギトは起こった問題を勇者の力でぶっ壊すタイプだ。

 なのに、停滞しているなら、それができないってことになる。


 ……勇者の力が、通用しないなら。今こそ、僕の知識が使えるんじゃないか?


「兄貴、アギトの宿の場所を教えてほしい」


「……止めても探し当てるんだろうな。……分かった、教える」


 ただ、ひとつ条件がある、と兄貴。

 もちろんいいよと頷いたけど、僕の背後を指差され、喉が閉じた。


 ……やっぱり指摘された。


「ロックの友達なんだろうな。……なら、紹介してくれ。そいつは、誰だ?」


 後ろにいたフードを被った灰色ローブ。

 さすがに、紹介をしないで切り抜けられるわけがなかった。


 僕は、アンナの傍までいき、「…………この子は……」


 庇うように前に立つ。が、後ろで、はぁ、と小さく溜息を吐いたアンナ。


 フードを取る動きを感じ取った。僕は咄嗟にアンナの手を握って止める。

 ……ここで取るのはまずい。ふたりだけじゃない、周りには多くの冒険者がいる。


 もしもここでアンナの顔が晒されたら…………袋叩きだ。

 せめて、勇者パーティのふたりだけに説明する空間に――――


「ねえ、シンバル、正体どうこうはあとでいいんじゃないかしら」

「なぜだ、ナタリー」


「その子が信用するに値する女の子だから」


 と、ナタリーさん。


 ……よく分からないけど、アンナを紹介するまでの猶予を与えてくれた、ってことでいいのかな……?


 さり気なくフードの中が女の子、ということがバレてるけど、「見れば分かる」と言えばそうかもしれない。さっきも一言だけ、アンナの声が聞こえていた。


 ナタリーさんならたったそれだけで性別を当てることは難しくないはず。


「女の子なら、気持ちが分かるもの」


「…………」アンナがそっと、僕の後ろから近づいてくる。


 僕の方が小さいから、近づいても隠れられないはずなんだけど……。


「(アンナ? なに、どうしたの?)」


 小声で聞いたけど、アンナからの返答はなかった。

 握った手から、返事なのか、違うのか、分からないけどアクションはあったけど。


「――ロックちゃん、アギトちゃんの宿を教えてあげる。あとのことは任せてもいい?」


「僕に? うん、僕にできる範囲でがんばるよ! ナタリーさんたちはどうするの?」


 ナタリーさんとシンバル兄貴は見合って苦笑する。珍しい……大人のふたりがなんの打つ手もなく、こうしてギルドで手をこまねいて待っていることしかできないなんて。


 問題の大きさが想像できてしまう。


「私たちにはなにもできないわ。ロックちゃんか、アギトちゃんか、ファーフナちゃんにしか……解決できないことだと思うの」



 僕たち――幼馴染の輪だ。


 いったい今、勇者パーティになにが起こっているんだ?




 ナタリーさんに教えてもらった宿へ向かう。


 高い建物が多い中、アギトの宿はこぢんまりとした古い建物だった。


 世界を救うために旅をしている勇者へ紹介する宿ではない気がするけど、アギトが厚意を断ってこぢんまりとした宿を選んだ理由が僕にも分かる。

 コクトー王国だけが、他国と違い、生活レベルが高いのだ。


 住んでいて落ち着かない綺麗な建物ばかりが乱立している。

 ギルドで埃が舞った時、ほっとしたものだ……。そうそう、こういう小汚い感じが冒険者だし、辺境の町で生まれ……てはないけど、育った僕によく合っている。


 アギトも僕と似たような感性だろうから――やや年季が入っている方が落ち着けるのだろうね。


 三階建ての宿。受付も無人だった。おじゃましまーす、と小声で挨拶をして入る。

 共用スペースには誰もおらず、上の階から怒声が聞こえてきた。……この声は……。


「ティカの声だな」「だね」


 無事に転移していたようで安心したよ。怪我もなさそうなくらいには元気そうだ。


「――このままでいいのかっ、アギトッ!!」


 階段を上がり、三階へ。

 明るいオレンジ色の髪を揺らしながら。扉を強く叩くティカが見えた。


「ファーフナのこと、どうするつもりなんだっ!」


『どうしようもねえだろうが』


 扉の先から声が聞こえる。……僕にクビを宣告した、アギトの声だ……。

 声に覇気がなかった……これが、勇者――……あのアギトなのか?


『故郷が盾にされてる。町の全員が人質だろうが。……策があんのかよ、ティカ』

「それは……」


『ねえだろうが。今回の件、勇者にはなにもできねえよ』


 諦めが混じった……いいや、大半が諦めの色だった。


 アギトらしくない。いいや、勇者らしからぬ答えだった。

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