第9話 世界樹へ
初心者でも狩れる魔物のはずだけど……いいや、レベルがちょっと高かったのかもしれない。
そうだよ、じゃないと人を翻弄できるわけがないんだ。
「レベルがひとつふたつ高くても、初心者でも狩れるけどね。子供でも狩れる魔物になんで……昔はロックだって倒せてた……はずじゃなかったっけ?」
「倒せてたよ。…………ひとりじゃなかったけど」
「そういうことよねー」
熱っ。……アンナの炎で熱せられたナイフを回収。
腰に差し直して、先を進もうとすれば、ティカが距離を詰めてきた。
「あ、歩きづらい……!」
「離れるとどこで死んでるか分からなくなるからくっついてなよ。ほんとはいっそのこと、リュックに詰めて背負っていきたいくらい。……なのよ」
それをされたら、僕は本当にお荷物じゃないか。
「過保護だよ」
「過保護だね。そうさせたのは誰なのか、言ってごらんよ……あぁん?」
「ぼ、僕ですねすみません……っ」
動けばみんなの邪魔になるし、下がれば背後の魔物にやられそうになるしで、お荷物どころか邪魔者になっていた。
みんなのすぐ傍で動かないことが、戦闘時の僕ができる一番の協力だ。分かっていたのだけど……欲は出すものじゃない。
僕自体は変わっていないし、変わらない。いい加減、認めないといけない。
――いつまでプライド持ってんだ、ばか。
「ティカ、ロックのこと任せた」
アンナが茂みの中へ。――数秒後、森全体を揺らすような地響きがあり、周囲に隠れていたのだろう魔物たちがさっと八方へ散っていく後ろ姿が見えた。
茂みの奥を覗くと、全長五メートルを越える体――顔の横から前へ伸び、内側に反った牙を持つ魔物がいた。直進だけに絞れば魔物の中でも上位の攻撃力を持っている。
大きな魔物の上に座っているアンナが、じゅるり、と口元を拭う。
「ロック、これ食べよっ」
「で、でかい……食べ切れるかな……?」
「残ったらアタシがぜんぶ食う! なー、いいだろー?」
アンナが狩った獲物だ、止める理由はない。
それに、殺しておいて食べないのは失礼だろう。
アンナの強さを目の当たりにして周りにいた魔物は逃げていった。
別の大型の魔物を呼んでしまう可能性があったけど、アンナがいればきっと大丈夫だ。
「うん、食べよう!」
「ちょっと待ってろ、アタシが焼くから――」
火力を抑えた汎用魔法でこんがりと焼く。
アンナは、古代からこうして生き抜いてきたのだろうなと分かった。
僕たちが……主にアンナが骨まで食べた魔物が森の王の個体だった。
なので世界樹までの直進をしている間、魔物に襲われることがなかった。
アンナに怯えて、みな巣に隠れてしまったのだ。
西へいくほど木々が大きくなっていく。葉っぱは傘になるほどだ。
世界樹の葉はもっと大きく、葉と同じ面積の町があるとも言われている(リアビスもほとんど覆われるだろう)。
世界樹の一枚の葉が町に覆い被されば、二度と朝がこない、という伝説もあった。
実際、そうなれば女神様が助けてくれるはずだろう。
世界の管理――つまり異常事態を解決してくれるのが女神様だからだ。
だからこそ、東から西へ魔王が侵攻してきている事態が百年以上も続いている今が、終末のように異常なのだ。
女神様でもどうにもできない脅威で……。
女神様にできないことが勇者にできるのか、と不安になるけど。
女神様には考えがあるのだろう。僕たちには分からないことだ。
「……着いた」
大国と同じ太さの幹。高さは――雲の上まで届いているので頂上は見えなかった。
世界のどこにいても四本の世界樹は目視できる。
それだけ巨大で、ランドマーク以上のワールドマーク(?)になっているのだ。
世界樹が見えていれば方角に迷うことはない。
逆に言えば、世界樹が見えなければ屍になるまで出られなくなることでもある。
僕の経験上、洞窟で迷うのが一番ヤバイ。
「西の世界樹……。あ。着いたけど、これどうするんだろ……?」
壁にしか思えない幹だ。隙間はなく、もちろん来訪を伝える鈴の音だってない。
北と南の世界樹にお邪魔した時は近づいたら入口を開けてくれたものだけど、西の女神様はうんともすんとも言ってくれなかった……当然だ。この場に勇者はいないのだから。
「ノックしたけど反応なしだな」
大きな世界樹の真下の部分をノックして気づくのかな。いや、世界の隅々まで見ている女神様が、足下に気づかないなんてことある?
でも、灯台下暗しなんて言うくらいだから、女神様のミスもあるのかも。
「女神っ、返事しろ!」
「――アンナ!?」
傷つかないだろうけど、アンナが幹を攻撃し始めた。
口から炎まで吐いてアピールするけど、やっぱり女神様は動かない。
反撃されなくてよかったけど、絶対に悪印象だ……!
「ダメだってアンナ!」
「だって返事しねーんだもん!!」
アンナを羽交い絞めにする。意味はなかったけど。
アンナが自制してくれている後ろでは、ティカが熟考していた。上を見上げ、
「女神様がいるのはどの辺? こんな根本にはいないでしょ? よね?」
「え? ……うん、たぶん、いるとしたらもっと上……だと思う」
たぶん。……いや分かんないよ、だって女神様の部屋は世界樹の中だったのかどうかまでは分からないんだから!
女神様=世界樹と言われているけど、世界樹が女神様の家と証明されたわけじゃない。
世界の象徴として立っているだけで、女神様は違うところにいるのでは?
女神様の部屋に入る時、意識を失うのはそれが必要な理由があるからだろう。
女神様に会いたい。でも、僕たちはアプローチの仕方を間違えている?
「こうなったら仕方ねー……過激にアピールしないと女神は気づかないのかもしれねー」
足下にいる虫には気づけない、みたいな感覚なのかもしれない。
女神様からすれば、僕たちは虫のように小さい存在だろうから。
「……じゃあ、どうするの?」
「折る。もしくは、燃やす」
世界樹を!? できるの!? いや、できるできないは関係ない。そうすることで女神様にアピールすることができればいいのだから……。
でも、それで気づかれても怒られるだけなんじゃ……?
敵だと思われたら? でも、このまま気づかれないまま帰るわけにもいかなかった。
「そういうわけだから、ロック、ティカ、アタシにしがみつけ」
『しがみつく?』
「そーだ。幹を駆け上がって、あの葉っぱを燃やしてやるっ」
アンナの体にしがみつく僕とティカ。
アンナは尻尾で僕たちの安全性を補強した後、両手両足の爪で幹を駆け上がる。
猛獣のような四つん這いだったけど、かなり速い。
しがみつくのも一苦労だったけど、アンナの尻尾のおかげで振り落とされることもなかった。
ティカの手をぎゅっと握りながら――やがて速度が落ちる。
アンナが、幹を駆け上がり、数億の枝に分岐する中間地点へ辿り着いたのだ。
町ひとつ分の面積がある葉が真上にある。
葉が太陽の光を遮り、下から反射した日の光しか入ってこれずに薄暗い空間だった。
アンナが口を開け、赤い炎を真上へ吐き出した――
炎は葉に到達する前に、じゅわっ、と消される。
葉から滴った巨大な水滴が、炎を消したのだ。
「防衛本能か? それともやっと起きたか、女神――」
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