【第31回スニーカー大賞】妹ミミック。亡くなった妹に擬態したモンスターは人間ですか?
菅田江にるえ
1~3(プロローグ)
1話目(プロローグ):ようこそ、スクールダンジョン配信同好会!
「イサラちゃん逃げて!」
とある女子高生の叫び声が、ダンジョンの広いボスフロア――閉ざされたボス部屋に響いた。彼女は糸でぐるぐる巻きにされ、天井から吊り下げられている。
「でも、会長……私が逃げたら、あの子が!」
そちらも心配ではあったが、もうひとりの少女――
巨大なクモ型モンスターは、獲物を前によだれを垂らすかのごとく、牙から絶えず毒液を
牙からボタタッと垂れるたびに、ダンジョンの床がジュワッと音を立てて溶ける。
明らかに毒、というか溶解液である。
「無理だよ! イサラちゃんのレベルじゃ勝てっこない!」
イサラのレベルは5、それも10点満点ではなく、レベル上限の100点中の5。
それもそのはず、彼女は今日、冒険者になったばかりなのだから。
けれど、理屈より先に、体が勝手に走り出していて――。
「――だって、私がなりたいのは――」
◆
数時間前。入学式直後の教室。
窓の外を見やれば、グラウンド前に植えられた桜が、綺麗に咲き誇っている。
「イサラはさ~、やりたい部活とかないの~」
「うーん……」
机を挟んで向かい合い、イサラが考え込む。
「そっか~、ないか~」
「もうちょっと待って、ポエムちゃん。もうちょっとで、思いつきそうだから……」
「それ、思いつかないときのやつね~? あと、私のことはエムって呼びな~?」
「いいなあ。エムちゃんは個性的で……」
紫髪をひと房のおさげに纏め、瞳もかわいらしい桃色。
当人はポエム、という特徴的な名前を嫌がっているが。
彼女の両親がたっぷりの愛情を籠めて付けた名前である。
「『イサラ』だって、珍しいほうだと思うけど~?」
「うーん……」
茶色のショートヘアに、焦茶色の瞳。
低過ぎて個性にならない程度に背が低い――つまり、ちんちくりん。
どこからどう見てもモブ。
それもサブキャラですらなく、引きの絵になった時に、今一瞬かわいい子映ってたなってなるタイプのモブ中のモブ。(自分のかわいさに自覚だけはあるようだ)
冒険者風に表現するならば村娘、あるいは、村人A。
「聞いてエムちゃん、例えば……私が人造人間だったとして」
「安心していいよ~、それだけはないから~」
「例えばの話だよー、続き聞いてよー!」
ポエムは、はいはいわかった、とそっけなく頷く。
「例えば、私にそっくりなクローン人間が居たとします! みんなクローンなので、全員同じ髪色で、目の色も同じです!」
「整いました、その心は~?」
「ずらーっと並んだ時に、すっごく地味でしょう……」
「自分で言って、自分で落ち込むな~?」
机に突っ伏したイサラの頭を、彼女はぽんぽんと撫でる。
「茶色いよお……。美味しいおかずばっかり詰めたお弁当みたいだよお……」
「想像すな~? ベーコン巻きアスパラも美味しいぞ~?」
「ベーコン巻きアスパラ、それは彩りを失くした世界、悲しきお弁当の頼れる救世主……。なんか、お腹空いてきちゃった……」
「じゃあ、わたしそろそろ行くね~」
会話が脱線しかけたので、ポエムが椅子を引いて途中下車した。
「えー、どこ行くのエムちゃーん」
「
大量に受け取ったビラの一枚を、ひらひらさせている。
「早まらないでー、新人勧誘の時だけ優しい可能性もあるよー」
教室を去ろうとする友人――小学校からの付き合いである、にイサラが泣きつく。
「人が入ろうとしてる部活に、あんまやなこと言うな~?」
慣れた手つきで旧友を引き剥がし、彼女は立ち去ってしまった。
ぽつんと残されたイサラはやることも、やりたいこともなくて、帰り支度を始める。
「あれ……?」
ひらりと、ごちゃ混ぜに受け取ったビラの一枚が落ちた。
「【あなたの青春を、ダンジョン配信に捧げて見ませんか?】【胸の躍る冒険が待っています!】【バズれば一躍有名人に!】……?」
よく見れば、印刷された「部」の所にバッテンがされ、黒のマジックペンで「同好会」と訂正されている。
「『ダンジョン』ってなんだろう? ええと、たしか、ゲームの用語なんだっけ?」
流行にもゲームにも疎いイサラは、首を傾げた。
うさんくさい勧誘文句を眺めながら、廊下を歩いていると――。
「きみ、きみ! あたしの部……じゃなかった、同好会に興味あるんだね!」
茜色の髪をポニーテールに結った上級生が、小豆色の瞳を輝かせている。
「いえ、その、私ダンジョンとか詳しくな、わわっ」
「初心者さんも大歓迎だよ! あたしが手取り足取り教えたげるから!」
断りきれず、ぐいぐい手を引っ張られていく。
イサラは押しに弱く流されやすいので、普段はポエムが庇ってくれている。
「――ようこそ、『
「同好会って言っても、部屋は結構広いんですね」
イサラは率直な感想を述べる。
四、五人は余裕では入れそうな、立派な部室であった。
「いやー、去年まで部活だったんだけど、先輩ズがごっそり卒業しちゃってさあ。部から同好会に格下げ、活動実績出さないと廃部になっちゃうんだよねー!」
部の存続がかかっているわりに、少女はあっけらかんとした口調だ。
「えと、大丈夫なんですか?」
「こういうの、アニメの序盤でよくあるシチュだし、だいじょぶっしょ!」
ぐっと、根拠が謎な
「新学期入ってすぐに部員……もとい、会員も一名確保できたし!」
ほかに誰がいるんだろう、とイサラは部屋を見渡すが、この場には二名しかおらず。
恐る恐る「私?」と自分を指さす彼女に、少女は、にこっと頷く。
「無理ですよ……! そもそもダンジョン配信どころか、『ダンジョン』がなにかすら、よくわかってませんし……!」
そこからかあ、と先輩がしばし
帰れそう、とイサラは胸に手を当てて安堵したが。
「まず、ダンジョンっていうのはね――」
(あっ、これ帰れないやつだ。どこから解説するか悩んでただけだ)
適度に相槌を打ちながら、イサラは解説を最後まで聞いてしまった。
重ねて言うが、彼女は流されやすいのだ。
「――とここまでが、一般的なダンジョンの概要ね」
少女が話したのは、各種『ゲームの説明』であり、むしろ本題はここからだ。
「この世界の各地にダンジョンが出現して十数年、パニックになったのも今や昔。
現在のダンジョンって言ったら、女子高生がかっこよくモンスターを倒して、動画サイトに配信する。
まあ有り体に言えば――
イサラは「へー、映えスポットなんですね」と
「おっ、興味出てきたね? しかも君は運がいい、今なら先着一名様に、
腕輪型マルチタスクジョブデバイス――通称〈ジョブデバ〉をプレゼント!」
「おお! なんか口に出したくなる単語ですね、〈ジョブデバ〉!」
バングル状の黒い腕輪を受け取ったイサラは、もう心配になるくらい、ノリに乗せられており、ためらいなく腕に嵌めた。
「ごめんね、本当は色も選べるんだけど」
と、少女は自身のオレンジ色の〈ジョブデバ〉を掲げる。
「全然ですよ! 格好いいですね、〈ジョブデバ〉!」
「それ時計にもなって便利でさ、ほかの機能は、ダンジョンで試しながら教えるね!」
「よ、よろしくお願いします! 先輩!」
「そういや、自己紹介がまだだったね。
あたしは――
「はい、チカ会長! 私は甘野イサラです!」
「おーし、イサラちゃん! それじゃ、学校裏山に向けてしゅっぱーつ!」
「おおー! って……裏山にダンジョンがあるんですか!」
モンスターが人を襲うことくらいは一般常識だ。
危なくないか、と不安げな表情を読み取ったチカは、こう補足する。
「へーきへーき、モンスターはダンジョンから外に出てこれないから。正確には出れるには出れるけど、すぐ死んじゃうんだって。まるで『宇宙戦争』みたいだよね」
専門家いわく、地球の環境に適応できないのだとか、なんとか。
「……? どうして宇宙が出てくるんですか?」
「おおっと、こっちも未履修だったかー。ごめん、いまのは忘れていいよ」
ネタバレに配慮して会話を切り上げ、チカが裏山に先導する。
こうして、イサラは人生初のダンジョン探索に
やがて、運命の相手と出会う。その出会いは偶然か、必然か。
果たして『運命』は、どこまで仕組まれていたのか。
どちらにせよ、この日を境に、甘野イサラの人生は、大きく変わる。
これは、とある平凡な少女が【勇者】にならなかったお話。
(1話目・了、つづく)
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