3話 あ、あなたは私を……許してくれますか?(汗)─ NO!NO!NO!

「くそ…500年も閉じ込めやがって………」




俺は走っていた。風のように、いや風より早く俺は走る。もう魔力も気力も体力もない。




走る。それでも走る。その理由はと言えば…




「魔王…はっ、はぁ…どこだ………」




元の体に戻るためだ。







つい先ほど、1000年もの間、外界から断絶されていた『結界村』の結界が割れた。いや、割った。この俺が!




「くそっ、村でも街でも何でもいい!どこかに人はいないのか!」




俺は今魔王を探している。理由はと聞かれれば、まぁ表向きには倒すため、としか答えようがない。だが、俺の真の目的は他にある。それは…




「俺はっ…戻るんだ!元の…男の体にっ!」




という同情されるべき悲しい過去を持つ俺は、くそみたいな駄目神に女の子にされてしまったのだ。外見だけ。




「おぉ!街だっ!」 




結構大きいな…ここならきっと!俺は街に向かって全力で走った。速いな…100ぐらいでてるか…?




単位は秒速メートルである。さっきレベルが上がったことで、筋力にもプラスが入ったらしい。




そんなアホみたいな速さで俺は街にたどり着いた。




街を探していた理由はもちろん魔王の居場所を聞き出し、ぶっ飛ばしに行くためである。




俺は走るのをやめると、普通の速度で、歩いて街に入った。




「やっぱり結構大きいな。人も多いし」




と言う訳で早速聞き込みだ。こちらに歩いてきたおっちゃんに話を聞こう。




「あの~、すみませ~ん!ちょっと聞きたいことがあるんですけど~」




おっちゃんは何が気に入らないのか走って逃げて行った。ブリっ子作戦は失敗か…おっちゃんはこういうのが好きなんじゃないのか?




おっと今度はお胸の大きなお姉さんだ。




「あのー、すみません。少し尋ねたいことがあるんですが…」




「はい、なんでしょうか?」




よし!話にのってくれたぞ!後は聞くだけ…




「あっ、もしかして観光客の方ですか?道案内を頼みたかったんですね!」




「いや…違っ………」




「それならとても良い場所を知ってるんです!ほら、付いてきてください!」




「は、はぁ…」




げっ、こんなところで発動しやがったな人見知りスキル(前世より所持)!




断れるような空気でもなく、俺は半ば無理やりのような形で、お胸の大きなお姉さんに道案内されることになった………







「まずはここ!ギルド前広場です!ここの噴水は毎日お昼の13時に…」




ほぅ、なかなか大きな建物だな…あれが冒険者ギルドなのだろうか。結界村のものと比べると3倍位はあるぞ…




そんなことを考えていると、ふいに噴水から女の人がでてきた。




「ぷぁっ!……はぁっ、はぁ…水の中辛ぇ………あっ」




「あっ」




ビシャビシャの女の人と目が合った。




「ちょうど13時のようですね。これがこの街の一番人気の観光スポットですよ!」




「あなたが落としたのはこの金の斧ですか?それともこの銀の斧ですか?」




「いや、何も落としてないですけど…」




と、話しかけられたので答える。すると…




「そうですか。そんな正直なあなたには…」




えっくれるの?マジで?それくれるんなら確かに人気な訳だが…




「何もあげません!」




女はそう言うと水の中へ戻って行く………




「お客さん!また来てください!そうしないと私、溺れて死んじゃいまゴボボボッ……………」




見なかったことにしよう…




「どうですか?面白かったでしょう?」




これを面白いと思う奴はきっと世界に絶望しているか、頭のおかしい奴だけだと思う。




「あぁ…まぁ面白…かった………です」




「ほんとですか!よかった!次はですね、河童と呼ばれる伝説のモンスターがいる………」




「もう良いですありがとうございました!」




「あぁ、まだ面白いところがたくさんあるのに!」




この街、ヤバい。




帰ろう。こんな街もう二度と来たくもない………




と帰路に着こうとしていると、ふっるい、今にも壊れそうな教会を発見した。こっわ、絶対ゴーストとかおるやん…




だが俺はゴーストを見たことがなかった。うーん、やはり好奇心には勝てないものだ。俺は教会に入っていった。




今にも抜けてしまいそうな床を壊さないように慎重に歩いていく。暗い、暗い。だが、そんな中一室だけドアの下と上から光が漏れている部屋があった。




もしかして、ボス部屋か?俺はゆっくりとドアを開ける。そして中には………




「お、おいおい。何でお前がここに………」




「ん?あなたと会ったことがあったかしら?それよりあなたは入信者?それとも支援魔法をかけて欲しいのかしら?」




「見つけたぁぁぁ!!!」




俺は奴。なぜか発光している、駄目神ソルスに向かって飛びかかった。







「ちょっと!いきなり何すんのよ!私は女神なのよ!?そんなことしたら天罰を落とすわよ!ていうかあんた何なのよ!この女神様のスーパーパワーを使っても勝てないとかどうなってんのよ!」




「フハハハハハハハ!!どうしたんですか?女神様!女神のスーパーパワーとやらを使ってその程度ですか?アハハハハハ!!!!勝てるわけねぇだろこの駄目神が!俺はお前にこの世界に落とされて500年!滅茶苦茶頑張ったんだよ!おかげさまでレベルはMAXの99だ!」




「500年?それにその顔…あっ!そういえば!」




「思い出したかこのやろう!俺は500年前!お前に女の体にされた………」




「アメリカ発のアイドルグループのあの子!」




「違うわ、誰だそいつ!」




「じゃあえっと…あっ!もしかして!」




やっと思い出したか………相手するの超疲れるんですけど。




「常連客に刺されたキャバ嬢の!」




だから違うって………もう突っ込む元気もない。




「でもちょっと近い」




「そうよね、やっぱキャバ嬢だったわよね!」




「そこじゃない!俺が言いたかったのは死んだって所だ!ほら覚えてるだろ!」




「ごめんね、思い出せないわ…」




「あぁくそっ、もういい答え合わせだ。俺は鈴木凛、どうせ死ぬなら死に様だけで小説が3巻書けるくらいの死に方がしたかった男だ!」




「あぁ、思い出したわ。あのかわいそう(笑)な男の子ね!」




やっと思い出したなこのやろう。でも(笑)は余計だ!




「おい、お前に聞きたいことがある」




「何よ。あんたに聞かれるようなことなんてないと思うけど」




「魔王はどこだ」




「はぁ?魔王?何言ってんのよ。魔王なんてとっくの昔に倒されたじゃない。今から…499年前…だったかしら…ねぇ、どうしたの?」




499年前…だと!?




「アハハハ!アハハハハ!!」




「ちょっと!ホントにあんた大丈夫なの!?情緒不安定にも程があるんですけど!」




ソルスが何か叫んでいるがそんなことは一ミリも耳に入らなかった。だって、499年前って…




「俺が来た次の年じゃん………」




「ちょっと、落ち着きなさいよ!女の子の体に入れちゃったのは謝るから!それに魔王は来年復活するから…」




「詳しく」




「いいわ、おバカなあんたにこの美しくも人生経験豊富なソルスさんが、この世界について教えてあげるわ!」




おバカはよけいだ。と言うか500年前に教えろ!




「まずこの世界には魔王と呼ばれる魔物の親玉がいるの。それくらい知ってるでしょ?」




「たりめぇだ。それくらい知っとる。で?」




「そして、魔王って言うのは500年毎に子供がその座に着いていくの。つまり魔王が倒されて500年経ったらその子供が魔王になるって訳」




「いや、子供も倒しとけよ」




「ねぇ、あんた人の心とか持ってないの?魔王はね?人型のモンスターなの。つまりその子供も人間の赤ちゃんそっくりって訳。どう?殺されない理由が分かったでしょ?」




「まぁ殺せない理由は分かったし、来年魔王が誕生する事も分かった」




「そう、なら帰って頂戴。私今忙しいのよ」




「優雅に紅茶飲んでる奴のセリフじゃねぇな………」




「いいから帰って!さっさと帰って!」




「おいお前俺のこと思い出したんだよな?」




「えぇ、思い出したけどそれがなに?」




「そしてさっき俺に女の子の体に入れちゃったのは謝るからって言ったよな?」




「そうよ、謝ったんだからもう良いでしょ。ほら帰って頂戴」




「俺は謝罪ってのは態度で表せてないとダメだと思うわけ。だからその謝罪を行動で表せ。具体的には魔王討伐。手伝ってもらう」




「はぁー?なーに言っちゃってんのかしらこの口は。女神アッパーでその顎二度と開かないようにしてあげようか?」




「ちなみにお前俺のレベル忘れてるだろ。99だ、MAXだ。それを忘れんな」




「クッ………!分かったわよ、付き合えばいいんでしょ付き合えば!」




こうして、駄目神ソルスが破創の魔女のパーティーに加わった。

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