1話 あなたは女の子ですか?─N,No………

あぁ、とても温かい。俺の手元にはあれが戻ってきていた。だがどういう事だろう。あれが………







「キュイッ」




「いてっ」




またしても眠っていたらしい。今度はしっかり寝転んでいた。うん、やっぱ立って寝る人はおかしいのかもしれない。




そんなことはどうでも良い。今、俺をつつきやがったのは何処のどいつだ…?




寝転んだまま隣を見ると、そこにはスズメのような鳥が立っていた。だが地球にいるスズメとは明らかに違う。だって…




「羽が4枚ある…」




明らかにスズメではなかった。ということは、もしかして本当に異世界に来ちゃってたりするのだろうか…




とりあえず起き上がるか………




「キュイキュイッ!」




起き上がると、さっきのスズメのような鳥が俺の腕に止まってきた。




「何だよこの子超可愛いんですけど」




つついたのは許してやろうっと。可愛いって罪だよね………




スズメ(仮称)は俺の腕を飛び立つと、俺から少し離れた地面に止まり片方の2枚の翼で俺を手招いた。




「なるほど、付いてこいってことか?」




何だこいつ、スズメのクセにやけに頼もしいな…




スズメが首をブンブン縦に振っていることから、俺の推測が当たっていることを確認し、なぜか普段とは感覚が異なる胸のあたりに気が付かないフリをしながら奴に付いていくことにした。







「暑い………」




暑い暑い暑い、とにかく暑い。久しぶりに走ったせいか、滅茶苦茶疲れた。




「でも、もう森を抜けるぞ………」




いまだにスズメ(仮称)は俺を道案内してくれている。




「悪いな、俺に付き合わせちまって」




疲れ過ぎて頭がうまく働いていないのか、俺はスズメに謝っていた。だが、スズメは気にすんなとばかりに首を振る。ほんと頼りになるわ…




それからしばらく歩いていると、やっと森が開けた。


そこからは…




「スゲェ、俺、ほんとに異世界に来たんだな…」




東京ではまず見られないような大きな草原。真ん中には川も流れている。こんな壮大な風景は異世界でもなければあり得ない。




「キュイッ!」




「ちょ待てよ」




アカン、疲れのあまりつい俺の中のキムタクが………




スズメは羽ばたき川まで飛んで行くと、こっちを向いて手招いてきた。おぉ!俺がさっきから暑い暑い言ってるのが分かってたのか!なんて出来るスズメだ!




俺は川まで走ると、持っているはずのない水色の靴を脱ぎ捨てると川に足を入れた。




「冷たっ!でも超気持ちいい…」




独り言の量が異常だが異世界転生系ラノベの主人公は大体独り言が多いと相場は決まっているのだ。気にすることはない。別に、ある現実を認めたくないから口数が多いわけでは決してない。




時々視界に入る遠くにある半透明の壁の様なものを無理やり意識から追い出し、俺は川で足をパシャパシャさせていた。







30分程経つとスズメ(仮称)が早く行こうと催促のタックルを始めたので、遠くに見えるレンガ造りの街に行ってみようということで俺は歩き出した。もちろんスズメも一緒である。




15分程歩くとようやく街の手前に着いた。街の周辺では農業をしているようだ。きれいに整備されたみちの両脇は、畑畑畑畑畑畑畑畑………




「畑しかねぇ………」




なぜだ…なぜ田んぼがないのだ…!




「米は日本人の魂だぞコノヤロウ」




「キュイッ?」




さすがにそこまでは理解できていないらしい。まぁ、スズメにそこまでを求めるのは酷か………




しかも畑に植えられているのは全て同じものだ。小麦…か?




すると唐突に話しかけられた。




「やぁ、お嬢ちゃん。見ない顔だねぇ」




「あ、あぁ、こんにちはー。あはは…」




お嬢ちゃん?このおっさんは暑すぎて頭がイカれてしまったのではないだろうか。ん?俺?いや、大丈夫ですよ、あはは…




話しかけてくれたことでこの世界の言葉は問題なく理解できることも確認できた。あとは読み書きだな。




なぜか顔にかかる髪の毛を無意識のうちに払いながら、そのまま畑の間を歩いて行くと、街に着いた。遠くからみた時も思ったがやはりレンガ造りのようだ。




「異世界と言えばレンガ造りの街って感じだもんなー」




地球で言う中世の街並みというやつだ。だが………




「あれ?普通の人しかいないな………」




異世界と言われるとエルフやケモミミを想像してしまう物なのだが………




気づくと街の中心辺りまで来ていた。




「キュイッ!」




「あぁっ!スズメー!」




スズメはどこかへ飛んでいってしまった。あぁ…俺の可愛いスズメ………




するとおばあちゃんが話しかけてきた。




「あんた、あれはキタノトリだよ。なんだいスズメって?」




「あっ、いや何でもないんです…それでは~」




「あっ、ちょっと!スズメって何なんだい!おばさんに教えておくれよ!」




俺は逃げるようにその場を去り、近くの建物に逃げ込んだ。すると…




「ようこそ、冒険者ギルドへ!おや?見たことのない顔ですね。新人の方ですか?冒険者登録ならこちらへどうぞ!」




そう!こんなのだよ待ってたのは!待ってたのはおばちゃんとのお話タイムじゃないんだよ!




「あっ、はい。新人で…冒険者登録…?をしたくて来たんですけど………」




「はい、冒険者登録ですね!それではこちらの石板に手をかざして下さい!」




そんなので出来るんですか?なんて野暮な質問はしない…ここは異世界なんだよ、不思議パワーで何でも出来るに決まってんだろうが!




俺は石板に手をかざす。すると空中に俺のステータスが浮かび上がる。見える、見えるぞ!見たこともない文字が列を作っているが、なぜか意味は完璧に理解できる。流石のあの駄女神もそこらへんはしっかりしてくれていたようだ。………………しかし、理解できた内容が問題だった。分かっちゃいたよ…分かっちゃいたんだよ!でも!




「スズキリン…さんですね。性別は『女性』っと。えーっと…大丈夫ですか?」




こんなのって………こんなのってないよ!膝から崩れ落ちた俺は、涙に暮れるしかなかった。




「はい…大丈夫ですよ………大丈夫、大丈夫です…ははっ、俺はこのまま女の子の体で生きて行くんだ………もう一生死ぬまでこの…ま……ま?」




おい待て、確かあの駄女神言ってた。『魔王を倒したらどんな願いでも必ず一つ叶えてあげるわ』って!




「そうだ、魔王だ!受付のお姉さん!魔王、魔王はどこですか!」




俺は興奮のあまり受付のお姉さんの顔の目の前まで顔を近づけ聞いた。お姉さんは少し引き気味にこう言った。




「あの………とっても言いにくいんですが………」




俺はゴクリと唾を飲み込み彼女の話に全神経を集中させる。




「実はこの村はですね…今から500年も前にとある超凄腕の女神官様の手によって作られた結界におおわれておりまして………」




結界?アニメやゲームでよくあるバリアみたいなものだろうか?それならすぐ壊せそうなものだが………




「そんな顔で睨まないで下さい!私が張った訳じゃないんですから!」




「あぁ、すみません」




おっと怒りのあまり顔が凄いことになっていたらしい。




「今あなた思ったでしょう?『結界なんてすぐ壊せるじゃないか』って」




おぉ、確かに思った………何だよこのお姉さんエスパータイプ持ちか?




「さっき話したの覚えてますか?今から500年も前にって所」




「えぇ、覚えてますよ?」




だがそれがどうしたと言うのだろう?




「500年も前に張られた結界。しかも結界がある限り外に出られないし、誰も入って来られない。そんなのすぐに壊そうと思いますよね?でも壊せなかったんですよ、五百年間!」




「ちょっと死んで来ますね」




「なに言ってるんですか、やめてください!というかあなた『不老不死』スキル持ちじゃないですか!こんなスキル文献以外で見たことありませんよ!本当に死ねないんじゃないですか?!」




そうだ、俺は不老不死になったんだった。もう全部イヤになっちゃったなー。そうだ、あのスズメ(仮称)と一緒に暮らそう。二人でずーっと一緒に………




そんな考え事をしていると受付のお姉さんが手を叩くと、名案を思い付いた!と叫ばんばかりの笑顔で俺に話しかけてきた。




「スズキさん、あなた『不老不死』スキルを持っているんですよね?」




「はい、ありますよ………たった今何の価値も無くなりましたけど………」




「そしてたった今価値が生まれたんですよ!残されている文献によると、あの迷惑な結界を張った超凄腕の女神官様は自分で『私、98レベルなの!凄いでしょ!?』と言っていたらしくてですね…スズキさんの魔力量なら1レベル越えればあの結界を破壊できるはずです!」




「つまり?」




「『不老不死』スキルを生かして滅茶苦茶にレベルを上げまくるんです!そうすればいつかMAXの99レベルまでいけますから!」




この一言から伝説が生まれることとなる。


金髪碧眼で髪は腰ほどまで伸ばしヘアゴムでまとめ、胸がほぼなく、黒いとんがり帽子をかぶった美少女は『不老不死』、『破壊』、『創造』の3つのチートを使い、自らを男だと言い張り、この『結界村』で500年レベルを上げ続け、いつの日か『破壊』、『創造』の二つのスキルを愛用することから、『破創の魔女』と呼ばれるようになるのだった………

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