#26 「私のこと、あなたと」

2023年5月8日(月)

出会ってしまった。

『魔法少女コンセプトカフェ』、インターネットで話題になっていたから出かけた先で立ちすくんでいた私の目の前に現れた

コツンとヒールを優雅に踏んで、私を向いたその眼差し。

まるで”ミラフリューゲル”のように堂々と、焼き付くその姿。

その時に抱いた感情をしたためておくのは難しいけれど、一言だけで表すのならば。

に、等しかった。


◇ ◇ ◇


「ありがとう、ございます。……、先輩」


コツン、と反響する。遥は、それを取り落としてしまった。


「……え」


衿華の顔を凝視した。

その口から漏れた言葉が素直に信じられなかったから。


──遥は、変わらないね。


一瞬、そんな言葉が脳裏をよぎった。もしかしたら魔法少女にしがみつく自分自身の子供らしさが一蹴されてしまうんじゃないかって、そう思ってしまった。


とはいえども、ブランが遥であること。それに気がついたのは衿華だ。決して彼女は遥が魔法少女をしていることをバカにはしない──するわけがない。


「……バレて、しまいましたか」


そうだ。バレてしまった。だけれど、衿華は顔色一つ変えることがなかった。

悪い言い方をすれば、普段の彼女に近い、少し仏頂面よりの顔。それでも、今この場においては──普段通りであること。

笑うことも、露骨に態度を変えることもなく、そうあってくれること。それが、遥にとっては何よりもありがたかった。だからこそ、ここでは自然体でいるべきだと、そう思ったのだ。


「……なんで、わかったんですか?」

「大したことじゃありません。言動も、顔立ちだって──変わるものじゃありませんから。決め手になったのは、先日『後悔しませんか』と。あなたが言ったことでしたが」


どうやら、衿華はその言葉を口にした時、隣に遥がいたことをしっかりと覚えていたらしい。

遥の正体は言動という小さなきっかけを経て、バレてしまったのだ。


「……もっと前から、わかってはいたんですか?」

「裏付けになったのは、この間の発言でしたが、以前から薄々と気づいていました。ただ、バレたくないと私が遥先輩の立場なら思ってしまいますから。それに……怖かった節はあります」

「怖かった?」


怖い、と。生徒会での衿華しか知らなかった頃──衿華らしさを信じていた頃は、まさか彼女からその言葉を聞くことになるとは思いもしなかっただろう。


だけれど、もうお互いにらしさなんて無いことを知ってしまっている。


「……ええ。私には、可愛げがありませんから。生徒会室でも何度かあなたには厳しいことを言ってしまいました」

「別に気にしてませんよ。それは衿華さんが真面目なことの証明、でしょう?」


確かに衿華は厳しい。他人にだけではなく、自分にも。生徒会での活動だって、ここでのバイトだって、何事も手を抜いてこなかった。それが、彼女の芯なのだろう。


「ある意味で私はあなたの正体を人質に取っていたのです。そうしている間は、私が魔法少女をしていることを、万が一にもあり得ないことですが──言いふらすことはないでしょうから」


思いの外打算的な理由ではあったけれど、彼女が言う「怖い」の意味が遥にはよくわかる。

学校で言いふらされるかもしれない。あいつは魔法少女を──コスプレをして、コンセプトカフェで働いているんだ、と。後ろ指を指されるかもしれない。

それは何よりも怖いことだから。正体を知っていながらもお互いに口にはしなかった。


「それでも、それを破ってでも、互いに本当の意味で素のままで──あなたに聞いて欲しいと思ったのです」


しかし、衿華はそんな互いの間にあった最後の壁を乗り越えて、ついに踏み込んできた。


「──私のことを。遥先輩、あなたに話したい」


遥を見据える瞳は、僅かに揺れていた。触れた手のひらは震えていて、ずっと冷たかった。それだけ、彼女にとって自分のことを話す、というのは難しいことだったのだと伝わってくる。


「"魔法少女・ヴィエルジュブラン"改め──真白遥です。……僕で良ければ、わかりました」


だからこそ、相手が自分の中の大切な部分をさらけ出すのならば、遥だって"魔法少女"という外面を纏っていてはいけない。


バレたという形ではなく、自分から、相手に踏み込んでいかなければならない。


「……ええ。是非、聞いて欲しいのです」


外面はお互いに捨てた。ただ触れているだけだった手を衿華が取った、まだ悴んでいる。

わなないた唇が、言葉を紡いだ。


「"ヴィエルジュノワール"──黒咲衿華。……私のこと、お願いします」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る